ネージュが待機列のためにライブをしていたらしい。そんなに媚びて、ロイヤルソードアカデミー側に票が大量に入ってしまったらどうするのよ、と思いつつ、関係者の私は特に並ぶこともなくコロシアムの方へ向かっていた。結局一日中スタッフジャンパーという名のフェイクのジャンパーを着る羽目になってしまったから、明日は久しぶりにスラックスに脚を通そうかな。
「……ん?」
「はあ〜、飽きてきたなぁ」
やっぱりまだ冬だし、さむさむ、と思いながら手を擦り合わせてコロシアムへと向かっていると、そちらの入場口で大きなドリンクサーバーを背負っている縦に大きな人がいた。思った以上に重そうだし、副寮長や寮長に「あなたに持てるはずがないでしょう」と嘲笑された意味が今になってわかった。配る方の係になって良かった。
フロイド先輩が眉も目尻も下げてまた大きな溜息をつくと、自然と瞳がこちらを向いて、見るからに疲弊していた瞳を大きく開いた。
「ナマエちゃん、おはよ」
「おわっ、……こんにちは、かな?」
「なんか嫌そー。文化祭いっぱい回ってきた? ジェイドのとこは行ってあげた? はい、ドリンク無料であげる〜」
「えっ、商品だから駄目ですよ」
「いいの。寒そうだし飲んどきなって。それにオレ、もう売るのやめようと思ってたし」
そういえば副寮長の展示……山を愛する会? あれは見に行っていないなあ、というのは頭の片隅。私が止めるのも聞かずに、フロイド先輩は紙コップにエペルにもらった林檎で作ったドライフルーツをふた切れほど、ぼとぼとと入れて、ジンジャーの香りが混じった湯気を立てた、飴色の液体を注いだ。無料かどうかの決定権はフロイド先輩にはないはず。駄目ですよ、と止めたい気持ちよりも飲みたい気持ちが先行して、「せめてお金を払わせてください」と言う口とは反対に私の冷たい手は紙コップを受け取ってしまっていた。そんな矛盾の塊みたいな私の行動を、フロイド先輩は笑いながら見ていた。
「どっちだよ。言ってることとやってることめちゃくちゃじゃん」
「いや、どうも欲求には逆らえなくて……あっま」
「甘く作ってるからねぇ。他のナマエちゃんのお友達にも配ってくる?」
「んー……出会う保証がないからいいかな」
カイロ代わりにもなる紙コップを両手で包みながら、少しずつ少しずつ口に運ぶ。すると、フロイド先輩がいきなりその場の空いていた机にドリンクサーバーを置いたかと思えば、誘導用のスケッチブックに『ご自由にドーゾ』と書いて、机に貼っていた。なんてめちゃくちゃな。
「いや、これは流石に怒りますよ、寮長。それに私、後からフロイド先輩と一緒にシフト入ってるんですけど」
「ナマエちゃんとのときはちゃんとするし……まあなんとかなるから大丈夫だって」
「……フロイド先輩だもんね。じゃあ私はそろそろ行ってきますね」
「ん、いってらっしゃい」
フロイド先輩がどのお客様より先に、無料と化したドリンクを、私が持っていたものより小さく見える紙コップを片手で、なんなら二、三本の指で支えてぐい、と飲めば、「あっま」と洩らす。そんなフロイド先輩を小さく笑いながら手を振ると、フロイド先輩も空いている方の手で振り返してくれた。それも、にっこにこで。相変わらずの気分屋さんだな、とまた一人で密かに笑っては、VDCの会場へと入った。
◈◈◈
関係者席はど真ん中を占領! ということは当然なく、ステージから見て左側。せっかくなら、と早めに最前にどん、と座らせてもらった。皆さん遠慮しているのか、こんなに最前にいるのは私くらいだ。入口でもらったプログラムには、一番はナイトレイブンカレッジ。その下には運が良いのか悪いのか、いや、悪い。ロイヤルソードアカデミーの文字があった。飲みやすい温度になってきたドリンクを、しかし甘さで少しずつしか喉に流し込むことはできずにちびちび飲む。
「う〜……緊張してきた」
スマホの時間を確認しながら、気がつけば残り五分。思いのほかマジカルライフゲームに熱中してしまったこともあり、割とキツキツなタイムスケジュールになってしまった。ボードゲーム部にお邪魔するのは三十分くらいのつもりをしていたけれど、致し方ない。明日またいっぱい回ろう。
なんとか底まで到達すると、溜まったドリンクと林檎を同時に口に入れる。このドライフルーツ特有の、噛んだときの感じが結構好きなんだよねえ。ドライフルーツにしてもなお異例の美味しさを発揮するフェルミエ家の林檎に感謝をしていると、スピーカーから「あー、あー」という声とポンポンという振動音が伝わってきた。マイクテストだろう。それに合わせて、いつの間にやら一般客席を完全に埋めつくした一般客たちから歓声がわあっ、と上がる。
『……大変長らくお待たせいたしました。全国魔法士養成学校総合文化祭inナイトレイブンカレッジ! 音楽発表会「ボーカル&ダンスチャンピオンシップ」!! ただいまより開演いたします!』
その放送に、辺りは更に盛り上がる。私はというと、やっとか、と思うと同時に胸がドキドキする。何より、偶然にも全員が顔見知り以上の関係なのもあってだ。すると、ステージへと姿を次々に現すのは、言うまでもなく、その顔見知りたち。ヴィルさんを先頭に、それぞれが位置についた。
『最初にパフォーマンスを披露するのは、開催校である「ナイトレイブンカレッジ」の代表選手の皆さんで……「Absolutely Beautiful」です!』
空っぽのカップを両手で持ったまま、指を組むみたいにして、前傾姿勢気味になる。辺りがシンと静まり返ると、七人はアイコンタクトをしてから、代表のヴィルさんが音響さんの方に視線を送れば、イントロが流れ始めた。
数秒のイントロの後、力強い歌い出しはヴィルさんから。ヴィルさんの歌を聞いたのは初めてじゃない。だけれど、生で聞くと声量やら表現力やらに、圧倒される。空気感で、わかる。周りも思わず息を呑むほどに、歌声も、それに、『ヴィル・シェーンハイト』という存在が美しい。いつにも増して異様な美しさを放つヴィルさんに見惚れていると、サブボーカルパートに移る。太陽みたいな笑顔を絶やさないカリムさんと、真剣なスペード。対照的に器用にこなすトラッポラと、あの人ならメインボーカルになれたんじゃないの、と思うほど優雅なルークさん。頑張れ、頑張れ、と心の中で唱え続けていると、関係者席に一番近かったトラッポラとパチッと目が合った。彼は、スペードに比べれば余裕もあって、そつなくこなしていると思う。そう思っていると、不意打ち。
「……は?」
トラッポラが、私に向けてウインクをしてきた、といえば勘違い女子の出来上がりだ。しかし、残念ながら、あのトラッポラのことだから勘違いなわけがない。思いきり私と目が合って、ニヤッと笑ったかと思うと、バチッとウインクを決めてくるものだから、自覚したくはないけれど、ドキッとしてしまったのが本音だ。ファンサをもらったファンの気持ちっていうのか。ただの女たらし、か。
一体なんなんだ、と一度下を向いて落ち着いてから、ステージに再度注目すると、メインボーカルの三人の、それぞれの歌声。
「か、っこいい……」
思わず声が洩れてしまったのは、エペルのソロだった。いや、前に一緒に練習をしたときの比じゃない。よく伸びる声に、なに、自分の魅せ方まで覚えてきたの? つい柵に半身を乗り出し、エペルに釘付けになっていると、それに気づいたらしいエペルがこちらを見て、一度余裕のある男らしい表情をしたかと思うと、今のが幻覚だったのかしらってくらい、花が咲くように顔を綻ばせた。そのせいで、一気に私の胸が貫かれた。いや、これは、ファン増やしちゃうんじゃないの。マジカメで話題になるでしょ。
そうしてまた、サビが来ると、心の中で応援をする。一ヶ月足らずでこのクオリティ、相当頑張った――頑張ったどころじゃないよね。普通にいつも通り私と話してくれていた同級生やクラスメイトが、あんなにもかっこよくて美しい。口を開けたままにするしかなかった私に追い討ちをかけたのは、ジャミルさんのラップパートだった。あのやれやれ系のジャミルさんが、ラップをしながらダンスして、ええ、もう、わからん。なに、どれだけ器用なの? 歌も上手いし、NRCトライブのせいで色々なことがキャパオーバーだ。
ヴィルさんの伸びやかな高音と、それに着いていくようなジャミルさんとエペルの歌声。メインを飾る四人。すべてが、美しかった。ピタッと曲が止まり、余韻の中でかすかに息切れが聞こえる。その余白をあっという間に埋めたのは、観客席からの歓声だった。私もそれでようやく、NRCトライブのステージが終わったのだと理解して、七人に拍手を贈る。つい、自然と立ち上がってしまっていたのだけれど、それは本当に自然なことだったらしい。隅々まで埋め尽くされた観客席が、一人残らず観客を立たせていた。
『な、なんと! 一曲目から観客総立ちのスタンディングオベーションだ〜〜〜! ヴィル・シェーンハイト率いるナイトレイブンカレッジ代表選手、素晴らしいパフォーマンスでした!』
「皆、ありがとう。また会いましょう!」
「メルシー! この後のステージも、目一杯楽しんでいってくれたまえ!」
「皆ー! オレたちの歌を聞いてくれてありがとな! 楽しかったぜー!」
あのヒールで、綺麗な立ち姿を残したままのヴィルさんと、まだまだ余裕さを感じさせるルークさん。それから、息を切らしながらも笑顔で私たち観客に感謝を伝えるカリムさんの言葉で、ひとまず幕は閉じた。ああ、やっぱりエペルにはクーポンだけじゃ少なすぎる。無料くらいにできないだろうか、と考えたけれど、そこまで融通が利くとは思いづらいので、私のバイト代から引いておいてもらおうか。本心は嫌だけれど、涙を呑んで、だ。
「なにをおっしゃいます!!!」
「うわっ」
「リリア様のパフォーマンスの方が、観客をあっと驚かせる意外性がありました!!」
この余韻ひたひたな状態でロイヤルソードアカデミーの発表に移れるのか? と思っていたら、少なくとも関係者席の方の余韻を壊してきたのは、聞き馴染みのある大声だった。ハッとしてそちらを見ると、平然とマレウス・ドラコニアがいらっしゃるし、もちろんリリアさんとシルバー先輩もいた。
「セベク、声を落とせ。もう次のチームの発表が始まる」
ナイスな注意です。そう思っているとシルバー先輩と目が合ってしまい、いつもなら手を振るところだけれど、お隣に例のあの人がいらっしゃるので、小さく会釈をすれば、目を丸くして同じように会釈が返ってきたので、すぐさま前を向き直した。いやあ、部活内では若様はネタにできるようにすらなっていたかと思ったけれど、実物と話してしまった身としては極力顔を合わせたくはない。かといって、実際今後もネタにしてしまうのだろうけれど。
シルバー先輩のひと声で、その場の注目を集めていた四人から、視線が外れる。そのうちの数人はまあ、私と同じ考えの人もいるのだろう。
『続いては、ロイヤルソードアカデミーの代表選手の皆さんです!』
またアナウンスが入ると、今度はネージュと、なんか小さいのが七人出てきた。きっと、ネージュがセンターで、他のが飾り、かな。ネージュはテレビなんかで見るのと変わらない笑顔で、私たち観客に大きく手を振る。
「会場の皆さーんっ! こんにちは〜!」
「こんにちはーっ!」
ネージュに続いて小さいのが挨拶をすると、観客はまたしても盛り上がる。いやあ、それにしても、ナイトレイブンカレッジにはヴィル・シェーンハイトが。ロイヤルソードアカデミーにはネージュ・リュバンシェがいるだなんて、他の学校が不憫で仕方ないな。どんな発表であれ、ファンは好きなタレントの方に入れるだろうし、ここの二つがトップ争いをするしかない。
歓声が鳴り止まない中、ネージュが声を張り上げる。
「皆で一緒に歌いましょう!『みんなでヤッホー!』」
◈◈◈
すっっごく知っている曲だった。どうやら調べたところ、輝石の国で有名な童謡のアレンジらしいが、出身でない私まで口ずさめてしまうほど。幼児向けといわれればそうなのだけれど、悔しいことにネージュの歌の上手さに親しみやすさ、そして本物であるからこそ余計に美しさが際立っていた。これ、ナイトレイブンカレッジの圧勝になるかと思ったけれど、きっと大衆向けなのはこちらだ。
歓声が湧き上がる中、またしても手指を交差させてぐっと力を込めていると、ぽん、と肩を叩かれて、そちらを振り向くと同時に隣に誰かが座ってきた。誰かが、というより、もうお決まりのパターンだ。
「よっ、ナマエちゃん。オレらの見てた? ……って、見てたよな」
「うわ。……見てた。最前でしっかり」
テラコッタは、いつもより艶があるように見えるし、本番だからかスートもまるでシールをそのまま貼りましたってくらい綺麗に描かれている。にこにこしながら私の顔を覗き込んでくるものだから、願うように前傾姿勢になっていたのを起こして、背もたれに身を任せた。
「いっつもオレと喋るとき嫌そうな声出すよな。オレのことそんな嫌い?」
「いや、嫌いじゃない。あ、嫌いって言ってほしい?」
「ばーか、フリじゃねぇって」
トラッポラは、いつにも増して真剣そうにそんなことを聞いてくるものだから、冗談でも嫌い、だなんて言えたもんじゃない。実際、好きな方、だとは思う。こら、と軽く額をこつかれて、予想していたより少し痛くて手で押さえると、「マジ? ごめん」と謝られた。いや、それは全然かまわないのだけれど、それにしたって、
「皆、かっこよかったよ。すっごく綺麗だった」
「ん? へへ、そうでしょ。今までで一番の出来だったと思うんだよね」
「うん。本当にすごかった。お疲れ様」
ふふん、としたり顔を見せるトラッポラに、今日は特にイラッともしないし、素直に称賛したい。全員に何か贈りたいくらいだけれど、今のところは私の気持ちだけを贈らせてもらおう。トラッポラの方を一度ちら、と見て、目が合ってからすぐに逸らして、そろそろトラッポラも逸らしてくれたかな、ともう一度見ると、こちらをじっと見ていたものだから、もう視線を外すことは許されなかった。
「なに、もの言いたげにして」
「んん、……あの、さ」
「どうした?」
「……あんまり、言いたくないんだけど」
そこまで言って一度止めると、トラッポラが眉を歪めてからじっとこちらを見た。いや、そんなに真剣な話じゃないから流してくれればいいんだけど。そこまで焦らして、やっぱりやめるっていうのもありかと思ったけれど、せっかくの機会だし今日くらいは褒めてあげてもいいかな、なんて思って、誤魔化すみたいに一度笑う。
「トラッポラ、私に……ウインクしたでしょ」
「うわ、やっぱ気づいてた? 最前で見てくれてたから、ファンサ――」
「あれ、ちょっとドキッとした。かっこよかったよ」
「…………は?」
不本意ながらね、と付け加えて、その場を立ったけれど、トラッポラは何かを言ってもこないし、追いかけてもこなかった。言い逃げ成功、というやつ。
さて、もう目的のものは見れたし、良い時間だからそろそろ移動販売のお手伝いに行こうかな、とコロシアムの出口に向かったとき、大きな声が私を追ってきた。
「ナマエー!!」
他の団体が発表中のコロシアムに、控えめに響く声。ほとんど毎日聞いているから、多少声がぶれていてもわかる。近づいてくる足音に合わせるように振り返ると、さっきまで輝いていた彼が、ラベンダーの柔らかな髪を乱れさせてその場に立っていた。はあ、はあ、と頬を紅潮させて、息切れさえも彼の美しさを助長する。
「エペル! 見てたよ。綺麗だったし、エペルもすごくかっこよかった。私、ドキドキしちゃった」
「へへ、ありがとう。少し照れる、かな」
「うん。本当、お疲れ様」
エペルの少し汗ばんだ手を握ると、エペルも力強く握り返してきた。本当、あんなに乗り気じゃなさそうだったのに、しかもオーディション前のエペルを知っていた身からすると、成長が著しいどころではなかった。どうやら家族に会ってきた後らしい。この清々しい顔を見るに、どうやらやりきったのだろう。良かった、本当に。
歌声と歓声が響き渡る中、エペルの耳に唇を寄せた。
「今度ラウンジ来たら無料で提供してあげる」
「えっ!? そんな、悪いよ」
「いいの、林檎とジュースと、と、素晴らしいステージのお礼。ね? じゃあ移動販売行ってくるね。結果発表には戻ってくる」
目を真ん丸にしたエペルに手を振って、「ご家族にもよろしく」という旨と、それから「明日は一緒に回ろうねー!」と大声を出せば、困り顔をしていたエペルが、ステージで見たのとも、無理をしているのとも違う、綺麗で思いきった笑顔を私に向けてくれた。いや、ほんとに、絶対人気になってるよね。嬉しいことこの上ないけれど、明日はエペルに変なファンが寄らないように見ておかないと。
◈◈◈
VDCとは縁がないらしいイグニハイド寮生や、警備終わりの馬術部員が私から続々とドリンクを買ってくれた。それと、一般客の男の人。フロイド先輩は結局、置いておいたドリンク分は寮長に天引きされてしまうらしいし、自業自得といえばそうだ。しかしフロイド先輩は特に気にした様子もなく、いつものように私とお客様の距離感を近づけすぎない役目も担っていた。まあ、フロイド先輩って大きいし、見下ろされている威圧感が怖いよねえ。
日が沈みかかって、アナウンスがかかると、本来のシフト時間終了のフロイド先輩と私はコロシアムの中へと向かった。交代の寮生は、「いっぱい売ってくれたからマジで軽くて助かるわ!」と言っていたけれど、ほとんどは無料で提供してしまったものだと思う。
『――どうぞ「一番輝いていた」と思うチームにご投票ください! では入場の際お配りしたQRコードより、スマホで投票をお願いします!』
ナイトレイブンカレッジ在籍だからナイトレイブンカレッジに入れさせてもらうけれど、一般的な目から見ればやはり判断が難しい。悔しいけれど、ロイヤルソードアカデミーも輝いていたのは事実だ。ボタンを押し渋っていると、周りから機械音が溢れ出した。わ、早く投票しなきゃ。
「おや、ナマエさん、どうしたんです?」
「いえ、なんでもないです」
寮長と副寮長が、同時にまだ投票していない私のスマホ画面を覗き込む。あら、残念。覗き見防止フィルムを貼っているので横からは見えないんですよ。すると後ろから覗き込んでいたフロイド先輩が私の画面をじーっと見ると、「うちに入れるしかないよね」と言った。そう、私がどちらにも在籍していない生徒だったら、という話で、確実に美しかったのはヴィルさんたちだ。皆がどれだけ努力したのかというのも、容易に想像がつく。それに、ロイヤルソードアカデミーの……特に周りの小さいのたちはトロトロしていてあまり良い印象は抱かなかった。これはもう、迷うことなくナイトレイブンカレッジに一票を入れさせてもらおう。
私が入れた数秒後に投票締め切りのゴングが鳴って、集計が開始される。その間も、私は心臓がドキドキしていた。きっと、観客席にいる中でもずば抜けて緊張しているのではないだろうか。
「うわ、ナマエちゃんめちゃくちゃドキドキしてる」
「うう〜……緊張する……」
「ふふ、友達想いでいいじゃありませんか」
フロイド先輩が私の喉元に二本の指を当てると、鼓動が伝わってしまったのだろう。この場にいる三人は、ナイトレイブンカレッジに入れてくれたようだけれど、……というか、ナイトレイブンカレッジ生に他の学校に入れるような人はいないと思うけれど。
『……ただいま、集計が完了しました!』
「もう待ちくたびれたんだけど」
「いや、めちゃくちゃ早かったじゃないですか」
オリンポス社様々、瞬く間に集計が終わったというのに、フロイド先輩は待ちくたびれたように私の肩から腕を垂らした。わあ、重い重い。更には頭にまで顎を乗せて体重をかけてくる始末だから、せっかくのヘアセットが、と思いつつ、もう夕方なので気にしないでステージに注目した。
『――なんと、第一位と第二位の票数が、たったの一票差です!!!』
「!!」
「……ということは」
「ええ。ナイトレイブンカレッジとロイヤルソードアカデミーのトップ争いでしょうね」
やっぱり、考えることは同じらしい。冷静に分析をする寮長と副寮長、それから「焦らしてないで早く言えよ」と私の髪を弄るフロイド先輩。私だけがきっと、心臓をバクバクさせながら、こうして指を交差させているのだろう。それを見たフロイド先輩が、ふわ、と片手だけで私の手を包むと、「きっと大丈夫だって」と笑った。あ、さっきよりも心做しか、気持ちが軽い。
長すぎる前置きが終わると、ようやく優勝校の発表らしい。
『――「ボーカル&ダンスチャンピオンシップ」、世界一の栄冠を手にする、優勝校は…………』
「うぅ、」
「だいじょーぶ」
ドラムロールが鳴り響く。お願いだから、私の一票で一位になって。お願い、お願いだから。ぎゅ、と手を握っていると、フロイド先輩が優しく手の甲を撫でる。皆きっと、すごく頑張ってロイヤルソードアカデミーに勝つために練習してきた。だから、お願い。エペルたちの、笑顔が見たい。
『――ロイヤルソードアカデミーです!』
「は?」
「あ?」
「ばかぁ!」
本気の本気で勝ちを確信していた様子の副寮長や寮長は、驚きに驚いて目を丸く丸くした。私が馬鹿を向けたのは、大丈夫大丈夫だと言ってきたフロイド先輩に対してだ。やだ、どうして? なんて考えるまでもなく、ロイヤルソードアカデミーの方が、大衆受けが良かったのだろう。残念だけれど、悔しいけれど、これが受け入れるしかない事実に変わりない。よく頑張った一年生三人を連れて、焼肉でも奢ってあげようかな……。
その後、NRCトライブのエペルとカリムさんが声を上げて泣いていて、ヴィルさんはそれでも堂々とした佇まいで、誰よりも悔しいはずなのに、と私が代わりに泣きたい気分になった。そして、ロイヤルソードアカデミーが歌った『みんなでヤッホー!』を歌うことになったのは、何かの罰ゲームだろうか。少なくとも、関係者席にいるナイトレイブンカレッジ生は誰一人として歌っていなかったと思う。