02 ○○について〈2〉
「ということがありまして…」
月城君がクラブの助っ人でいない帰り道、クラブを休んだ桃矢君に昼間奈々ちゃんと景子に言われたことを少しだけ話した。
奈久留ちゃんの好きアピールが気にならないかということ。そして奈久留ちゃんといっしょに昼食を食べたこと。
「なんか騒いでんなーとは思ってたけど」
「2人が盛り上がっちゃって…」
「まあ盛り上がるわな」
桃矢君と月城君も教室からその現場をたまたま目撃していたらしい。
いわゆる少女漫画によくありそうな展開に2人は大盛り上がりだった。
わたしのことを心配してくれていたのは間違いなく本当なのだけれど、それ以上に転校生奈久留ちゃんの登場は2人とって特に衝撃的なものだったらしい。
美人で明るく抜群の運動神経。それは人気者になるのに充分な要素であったし、本人もその立場を受け入れているみたいだった。
「気づいてないわけないよな、秋月のこと」
「人間じゃないって?」
「………嫌か?」
「ふふ、」
「なんで笑う」
だって桃矢君が本当に心配そうにそう聞くから、普段の意地悪な桃矢君はどこにいっちゃったんだろうって思ったらなんだか少しだけおかしくって。
「桃矢君はやさしいなあって…人間じゃないものにも、もちろん人間にも」
「馬鹿、冗談いってるんじゃねえぞ、」
口調は怒っているみたいだけど、その表情は本当に怒っているわけではなくて。
「おまえがそんなだから、おれも秋月のこと本気で怒れないだろ」
「嫌なの?」
「だから…」
照れながらもわたしのことを気遣ってくれる桃矢君ははあと大きくため息をついた。だからちょっと言い過ぎたかなと思って、わたしは桃矢君の顔をのぞき見た。
「…ごめんなさい?」
「別に謝らせたいわけじゃない…ただ、わかるだろ?秋月は本気じゃない」
だからタチが悪い、ともう一度ため息をつくと桃矢君はわたしの目をしっかり見て話しはじめた。
「あいつが何考えてんのかイマイチわからん。お前にもよく抱きついてるだろ」
「うん。でもそれも嫌じゃないよ?…びっくりはするけど」
「……ゆきと違ってあいつは自分自身が人間じゃないってはっきりわかってる、そう思わないか」
「それは…わたしもそう思う」
月城君はおそらく、ううん間違いなく自分が人間じゃないことに気づいていない。
けれど昨日廊下で月城君に奈久留ちゃんが話しかけていたところを見て、奈久留ちゃんは自分が人間じゃないことを知っていることが何となくわかった。
「それに他のやつにはないものに気づいておれやまなみに近づいてる」
やっぱり桃矢君も気づいていた。奈久留ちゃんがとても不思議な人であることに。
「気をつけろって言ったのはそういうことだ」
「でも…きっと悪い人じゃないわ」
「それはわかってる。ただ油断するなって言ってる」
お前に何かあったら困るから、とさり気なく恥ずかしくなるようなことを言う桃矢君は、恥ずかしいことを言っている自覚はあったらしい。少しだけ頬を赤くさせて今度は視線をわたしからずいとずらした。
「ありがとう、でもだいじょうぶよ」
わたしはだいじょうぶと微笑みかければ「それならいいけど」と視線をずらしたままぶっきらぼうにそう言う桃矢君。
「きょうはここまででいいよ。帰ってさくらちゃんの看病してあげて?」
いつもならアパートまで送ってくれる所だけれど、今日はさくらちゃんのことがある。
さいしょはわたしも行くと言ったのだけれどそれは断られてしまった。
桃矢君はそこまで心配することはない、という。その言葉をそのまま受けとることにした。
「さくらがどうして倒れてんのか、あの雨と関係あったんだろう?」
「その…魔法をつかいすぎちゃって疲れちゃったの。わたしもその場にいたんだけど…」
「なるほどな」
「何も出来なくてごめんなさい、あとさくらちゃんのこと、しからないであげてね」
桃矢君は本当にすごい。このことにすぐに気づいて、それでいてわたしに気をつかわせないようにしてくれている。
不思議な雨と、そしてその雨がやんだことのどちらにも気づいていて、さくらちゃんのことを大切に守ろうとしているのだ。
「また不思議なことが起きたって歌帆にお手紙書こうと思うの、何かあったら言ってね」
「言うことあると思うか?」
「…素直じゃない」
「じゃあまた明日」
ちょうどわかれ道までやってきたのでわたしは自転車で颯爽と去っていく桃矢君を見送った。
さくらちゃん、元気になってるといいなあ。
〇〇について
(転校生について)