ある休日郵便屋さんが来て荷物を直接受けとると、それはウィルからの手紙と小包みだった。
玄関から部屋にもどり中身を確認してみると、そこにはうさぎのぬいぐるみが入っていた。
『まなみの大好きなジェリーラビットの新しいデザインのぬいぐるみを見つけたからプレゼント』、と一言。確かに見たことのないデザインだった。
ジェリーラビットとはイギリスで有名なブランドのひとつで、特にうさぎのぬいぐるみは世界中の人に人気の商品だった。
わたしはこのブランドのぬいぐるみが小さい頃から大好きで、今でも新しいものをみつけるとすぐに収集してしまっていた。
それを知っているウィルがわざわざイギリスから届けてくれたのだ。
「可愛い…!」
思わず声にだしてしまうほど可愛くて、ふわふわの手触りが気持ちよくて、沢山あるコレクションのなかでもわたしのお気に入りになりそう。花柄のお洋服を着ているのも特別に可愛い。
ぬいぐるみは集めだすとキリがないし、このアパートの部屋ではさすがにだんだんと窮屈になってしまうから、ほとんどのぬいぐるみは全てまとめて実家の部屋にある。それでもこの子はここにいてもらおうとさっそく鏡の横にそのうさぎを座らせた。
一方手紙には近々行われるコンクールのこと、このぬいぐるみを見つけたときのこと、そしてもうしばらくすればサプライズをお知らせできること、と様々なことが書かれていた。
最後に書いてあるこのサプライズとはいったい何なんだろう。
「お届け物でーす」
「はーい」
バイトのない休日、天気が良かったから父さんの車の洗車を手伝っていた。すると玄関のほうから郵便局員とさくらの声が聞こえる。
そして洗車を終えて家の中に戻ればさくらに呼び止められた。
「お兄ちゃん、さっき届いた小包みお兄ちゃん宛てだったよ」
「おれ?」
「えっと…吉瀬ウィリアムさんって人から」
はいと両手で手渡されたそれは確かにおれ宛てになっている。
この家で届け物といえばほとんど父さんの仕事関係のものだから、さっき郵便局員の声が聞こえたときもそうだと思って聞き流していた。
ウィリアムとは確かに文通をしていたけれど、ここしばらくはそのやりとりは途絶えていた。それに久しぶりに手紙じゃなく小包みなんて、いったい何なんだろう。
「吉瀬さんってこの前知世ちゃんもでてたコンクールに出てた人だよね!お兄ちゃんそんなすごい人とお友だちなんだ」
「………まあな」
詳しいことは言うまいとそのままリビングに移動した。
リビングのソファーで小包みをあけてみようと少しずつ包装をとっていくと、何やら可愛らしい袋が中に入っていた。
「誰かのイギリス旅行のお土産かな?」
突然父さんがソファーの向かい側にお茶をもって座ったと思えば、そう一言口にする。
「この贈り主がイギリスに住んでんだ」
「なるほど」
「これ知ってるのか?」
「有名なブランドのロゴだね」
『ジェリーラビット』といってとても人気のあるブランドで、イギリス土産として日本では定着しているらしい。知らなかった。
そしてその可愛らしい袋をあけるとなかにはシャツを着てズボンをはいたうさぎのぬいぐるみが。女子が好みそうなぬいぐるみだ。確かに可愛らしくふわふわしている。
「うわあ!かわいい!」
さくらがすぐにそう反応したのでほれと差し出すと触っていいの?と嬉しそうに聞く。実際に触っているさくらはとても喜んでうさぎの頭を優しく撫でていた。
ぬいぐるみが入っていた可愛らしい袋のそばにウィリアムからの手紙と思われる封筒がはいっていた。
さすがにこれはリビングで読むのはためらわれると思い、おれはぬいぐるみをもって自分の部屋にいくことにした。
自分の部屋に入ってからベッドに腰かけて、おれは封筒を丁寧にやぶいてなかの便箋を取り出した。その内容は近況報告とこのぬいぐるみのことについてだった。
さっき父さんが言っていた通りイギリスで有名なブランドだということ、これをまなみがとても好きだということ、そしてこれはまだ新しいデザインでまなみもまだ持っていないだろうということ。
『実はこのぬいぐるみペアなんだ。かたわれの女の子はまなみにプレゼントしました。今度お互いに見せ合ってみて』
おれには似合わなそうな可愛らしいプレゼントなんてはじめはどういう事かと思っていたが、ペアのぬいぐるみの片割れであることを聞けば納得した。
『この子達を離ればなれにしちゃうのは申し訳ないけど、この子達を見たときどうしても君たちにプレゼントしたいなって思ったんだ』と余計な一言まで添えてある。
ぬいぐるみを離ればなれうんぬんはロマンチストな外国人らしい。いやハーフだったな。
けれど国を越えてでもプレゼントしたいからとわざわざ贈りものをしてくれるウィリアムはとても優しい男だと、素直に感謝したいと思った。嬉しいとも違う、けれど何かあったかくなるような気持ちにさせてくれた。
この部屋にぬいぐるみなんていままで置いたことはなかったけれど、このうさぎは置いておいてやろうとベッドのそばに座らせる。
おれの部屋には不釣り合いかと思ったが、わりとしっくりくる気がした。
そしてまるでむかしからそこに置いてあったみたいに馴染んだ。