03 贈り物〈2〉

  


 いつもより少しだけ早起きをして学校に行く準備をしていた。
 今日はお弁当は作らずに購買でパンでも買おうと朝は簡単におにぎりにしてすませたところだ。


 こんな早朝から何があるのかというと、桃矢君と月城君がサッカー部の早朝練習試合に参加するのでそれの応援である。応援といっても特に何をするわけでもなくただ見学するだけ。スポーツ観戦は好きだからそれなりに楽しみだった。

 準備を済ませてアパートを出る。桃矢君と月城君は準備もあるので今日は一足先に登校している。
 朝早い為かいつもより人通りの少ない道はなんだか不思議な感じがした。







「月城君がんばれー!」
「キャーッ!木之本くーん!」

 練習試合とはいえ早朝、そんなに人はいないだろうと思っていたらグラウンドはこの人だかり。まだ試合ははじまっていないはずがすでに相当盛り上がっていた。
 女子が割合多いけれどもちろん男子も大勢いる。

「まなみ!」
「わっ、おはよう」

 二人はどこにいるのかときょろきょろとしていたらちょうどウォーミングアップをするのに近くに来た月城君が声をかけてくれた。

「来てくれたんだ、ありがとう」
「ううん、助っ人がんばってね」
「あ、とーや呼ぼうか?」

 少し話していたら周りの人達からいつも通りラブラブだ、だとかきゃあと歓声があがった。

 桃矢君と違って月城君は女の子達の歓声に嫌な顔ひとつせずに手を振ったり微笑んだりして、いつも王子様みたいだと言われている。
 そんな振る舞いで皆んな月城君に恋人がいると知っているはずなのにいまもものすごく人気者だ。

 本当の恋人ではないけれど皆んな月城君とわたしが恋人同士だと信じているので、否定することもなく仲よくしていると、その姿が何故か理想的な恋人同士にみえるらしい。素敵、応援してます、なんて言われることは少なくない。

「とーやあそこで秋月さんにからまれてるから」

 あそこ、と月城君が指差した方向をみるとストレッチをしている桃矢君が奈久留ちゃんに抱きつかれているのがみえる。
 周りの部員達は驚くこともせずいつものやつか、というように特にはやしたてることもなくそれぞれウォーミングアップをしていた。
 月城君もストレッチをしながらわたしと話している。

「あ、とーや気づいた」
「ほんとだ」

 ちらりとこちらをみた桃矢君にわかりやすいように口を大きくあけておはよう、と伝えた。すると片手をあげてこたえてくれた。試合前から少し疲れたような表情をしている気がする。
 そして奈久留ちゃんもこちらに気がつくと、片手を勢いよくあげて桃矢君に抱きついたまま大きく手をぶんぶんふってくれた。おはよー!と大きな声が聞こえたからこちらも一応大きめに手を振りかえした。

「そうだ、実は放課後も練習試合みたいなんだ」
「そう…なら今日は先に帰るね」

 なんでも大会が近いらしい。最後の追い込み練習のようなものだと言っていた。助っ人も大変だ。

「月城ー!」
「はーい!そろそろいかなきゃ」

 じゃあ、と片手をあげてさわやかに走って去っていく月城君の姿に、わたしの近くにいた生徒達から歓声があがった。相変わらずの人気だ。




 月城君が呼ばれたのは試合がはじまるからで、月城君が走っていってすぐホイッスルが鳴った。試合はこちらのチームが優勢なようで、運動神経のいい二人がどんどん得点をかさねていく。

「とーや!」

 月城君からの華麗なパスをしっかりゴールに決める桃矢君に観客はどんどん盛り上がっていた。

「ナイッシュー」
「おまえがいいパスしてくれたからな」
「とーやくーん!」

 すごい盛り上がりのなか臆することなく桃矢君に飛びつく奈久留ちゃん。それを見て月城君は楽しそうに微笑んでいた。

「もう、照れちゃって!」

 まだ試合中だから離せと言う桃矢君を気にすることなく奈久留ちゃんは抱きついたまま離れない。

「おい秋月、」
「ふふ♡」
「ああもうはじまっちまう…マジ離せよちょっと」

 必死になっている桃矢君が少しだけおかしくてくすりと笑ってしまった。普段クールにすましている桃矢君があんな風に取り乱しているのはめずらしい。
 少し前に月城君や景子達に嫌じゃないのかと聞かれたけれど、それはいまでもまったく変わらない。だって何故だか本当に嫌じゃないんだから。いまの様子を奈々ちゃんと景子に見られていたらまた何で嫌じゃないんだ、と叱られてしまいそう。

 そうしている間に試合は再開して、なんとか奈久留ちゃんを振り切った桃矢君もその試合に参加できていた。
 その後この試合は桃矢君と月城君のいるチームの圧勝で終了した。







「お疲れ様」
「おう」

 練習試合を終えて教室にいつもより遅めに到着した桃矢君と月城君は、さっきまでの疲れを感じさせないさっぱりとした表情でやってきた。いや、桃矢君は少しだけ疲れが残ってるのかも。自分の席につくなり大きなため息をついた。

「まなみ…」
「?」
「おまえちょっと面白がってるだろ」

 ばれた、と月城君のほうをちらりと見れば相変わらずの頬笑みで「結構必死になってるからでしょ、それがおかしくて。ね、まなみ」とわたしのかわりに話してくれた。

「おまえは笑って見てないで助けろ」
「ははは」

 指をさして月城君をジトっとした目でみつめる桃矢君は、今度はわたしの方を向いておまえもだぞ、と低い声を出す。

「でも実際助けるってどうするの」

 本当に助けるとしてもどう助けていいのか。「先生呼んでたよ」とでも言ってその場から離れられるような嘘をついたらいいのだろうか。

「まなみも抱きついてみたら?とーやくーんって」

 お腹を抱えて笑いをこらえながらそう言う月城君に、それがとても面白い冗談だとわたしもお腹を抱えて笑いをこらえた。
 
「おら予鈴鳴ってんぞ、いい加減泣きやめ」

 笑い過ぎて涙目になっている月城君。そんな月城君を横目に桃矢君はまた大きなため息をついて授業の準備をはじめた。