03 贈り物〈3〉
「まなみさん!」
ひとりきりの放課後、ちょうど学校を出たところで声をかけられる。さくらちゃん達だ。さくらちゃん知世ちゃん、それに李君、そして誰か知らない男の子がいる。
「転校生の柊沢エリオル君ですわ」
「はじめまして」
「さくらちゃんのお兄さまのご友人の森下まなみさん」
「はじめまして、まなみです」
知世ちゃんの紹介によろしくね、と声をかければこちらこそと優しく微笑まれる。小学生のはずなのに雰囲気が大人っぽい落ち着いた男の子だ。それにこんな時期に転校生だなんてまるで奈久留ちゃんみたい。
「これからどこかにいくの?みんなそろって」
「はい!手芸屋さんにいくんです」
「わたしもいっしょにいってもいいかな」
商店街の手芸屋さんにいくと言うさくらちゃん。小学生だけでいくのはまだ昼間とはいえ何かあったら大変だ。わたしは保護者がわりといってはなんだがさくらちゃん達についていくことにした。
「あそこがパン屋さんで、あそこが文房具屋さんですわ」
手芸屋さんにいくのはもちろんのこと、まだ引っ越してきたばかりの柊沢君に商店街のお店を色々と紹介してあげている知世ちゃん。なんでも柊沢君はイギリスからきたらしい。勝手に親近感を覚えた。
「森下さんもイギリスに?」
「わたしも転校生なの。あ、まなみでいいよ」
「ではぼくのこともエリオル、と」
落ち着いた印象のまま、小学生の男の子と話しているとは思えないエリオル君。優しい瞳は何か見透かされているみたいにとっても綺麗。
李君がなんだかいつもよりピリピリしているのは恋のライバルが登場してしまったからだったのね、と納得してしまう。
「イギリスのどのあたりに?」
「ナイツブリッジに」
「自然や博物館の多い観光地ですね」
「…ないつ…ぶりっじ?」
「ロンドンにある地区の名前ですよ」
正式にはイギリスではなくイングランドですね、とさくらちゃん李君に説明してくれているエリオル君。知ってくれている人がいるとなんだか嬉しくなってしまった。
「まなみさん、他にもフランスとか色んな国に住んでたんですよね!」
「フランスにも?」
マレ地区というところにわたしのおじいさんとおばあさんが住んでいて、そこにお世話になっていたことがあると話せばエリオル君と知世ちゃんは知っている反応をしてくれた。
さくらちゃんと李君は頭にハテナマークを浮かべていたので、隣にいた知世ちゃんが小声で何か言って説明してくれていた。
「エリオル君も知世ちゃんもとても物知りね」
「いえいえ」
「おほほ」
謙遜する仕草まで大人っぽい2人だ。
「そういえばどうして手芸屋さんに?」
「糸がほしくて」
「糸?」
「はい」
エリオル君とそんな会話をしている間にも手芸屋さんに到着したわたし達はそれぞれ目的のものを探しにばらばらになった。
さくらちゃんと知世ちゃんについていくと手芸キットが並べられているコーナーにたどり着く。
「あった!」
さくらちゃんはくまのぬいぐるみがつくれるキットを手にして嬉しそうにしている。
「可愛いね。ぬいぐるみつくるの?」
「はいっ」
どうしてぬいぐるみを作ろうとしているのかと思って聞いてみると、なんでもさくらちゃんはぬいぐるみにまつわる話を聞いたからだという。知世ちゃんがそれを説明してくれた。
「『好きな方に自分の名前をつけた手作りのくまのぬいぐるみをプレゼントするとずっと両想いでいられる』という言い伝えがあると聞きまして、それを今日学校でお話ししたんです」
友枝小学校のお友だちにちょうどくまのぬいぐるみを作っている子がいたらしい。それをみてさくらちゃんもぜひつくってみたい、と思ったんだそう。
確かにとっても可愛らしい言い伝えだし、キットがあれば小学生の子でもくまのぬいぐるみが作れそうだ。
きっとさくらちゃんの頭の中には月城君が浮かんでいるのだろう。少しだけ頬をあかくして恥ずかしそうにしていた。
「わたしもその言い伝えなら聞いたことがあるわ。上手にできるといいね」
「は、はい!」
キットを手にしているさくらちゃん。けれどいっしょにいる知世ちゃんはそのキットを買うつもりはないらしい。さくらちゃんもそれを不思議に思ったようで、知世ちゃんは要らないのかと聞く。すると知世ちゃんは優しく微笑んで、けれどそのキットを手にすることはなかった。
「わたしは……大好きな方がわたしと両想いになるより幸せなことがあるならずっとそのままでいて欲しいですわ」
「……それって好きな人に好きになってもらえなくてもいいってこと?」
「もちろん好きになっていただければうれしいですわ」
まだ小学生のはずなのに知世ちゃんはとても大人びているとは思っていた。それはもちろん雰囲気やしゃべり方が、と思っていたから。思考や発言までも大人びている。
「でもわたしには大好きな人が幸せでいてくださることが、いちばんの幸せなんです」
「…………」
少し難しいことをいう知世ちゃんに、さくらちゃんは一瞬言葉につまっていた。でもそれは驚いたり理解できなかったりということではなくて、さくらちゃんなりにゆっくりとその言葉の一つひとつをかみしめているようだった。
「知世ちゃんに好きになってもらえた人はきっとすっごく幸せだね」
大好きな人の幸せがわたしの幸せ、だなんて。あったかい気持ちになった。
贈り物
(作ったくまさん、月城君にプレゼントするの?)
(ほ、ほええ!)