04 気づかない訳ないでしょう〈3〉

 


「じゃあ、わたしはこれで」
「おう!またな」

 さくらちゃんを寝室に運んですぐわたしも帰ることにした。長居しても仕方がないし、それに時間も遅かった。

 ケロちゃんとの挨拶を済ませて玄関にたどり着くと、内から鍵を開ける前に鍵穴がカチャリと動いた。
 さくらちゃん家の鍵を持っているのは当然お父さんの藤隆さんとお兄ちゃん、桃矢君だ。

「……ただいま」
「お、おかえりなさい」

 バイトから帰ってきた桃矢君はものすごくジトっとした目つきでわたしを見つめていた。無言で、視線だけで「どうしてここにいるんだ」と訴えている。

「……お邪魔してました」
「どうせまたさくらだろ?あいつ、また最近わたわたしてやがるから」
「心配でしょう?だからわたし気になって」
「現場に駆けつけたって訳か」

 桃矢君は普段ものすごくさくらちゃんのことが心配なのにそれをまわりに見せようとはしない。今が正にそうだった。

「ついさっきまでケロちゃ、……ぬいぐるみさんから話を聞いてたの」
「へえ、なんの話だ」

 そしてどんな話をしていたのか、きっとわかっていて知らないふりをする。
 さくらちゃんがクロウカードを集めていたときだって、大体のことを知っていたのに知っていることを隠していた。
 もちろんそれはさくらちゃんが魔法やケロちゃんのことを必死に隠そうとしていたから隠していたに過ぎないけれど。

「前に妙な雨が降ったとき、さくらちゃん眠くて倒れちゃったでしょう」
「ああ」
「今日もそれと同じなの」

 その時魔力を使いすぎてそれで眠くなってしまうことをケロちゃんに教えてもらって、わたしはそのことを桃矢君に伝えた。
 それと同じようにわたしは今日の出来事を桃矢君に伝える。大体のことは前とおんなじ。でも今日はそれだけじゃない。

「ケロちゃんが言ってたの……さくらちゃんの魔力が足りなくて、月城君が消えてしまうかもしれないって」
「………」

 ついさっきまで桃矢君はわたしの目を見て話を聞いてくれていた。けれど月城君の話をした途端眉間にしわをよせて、ぐっと唇を閉じて何も話そうとしない。

 知らない話なら驚くはず。驚かないということはつまり、そういうことだった。

「桃矢君、気がついてたのね?」

 ユエさんが……月城君が消えてしまうかもしれないって。

 知っていながらどうして話してくれなかったのかは大体想像がつく。優しい桃矢君のことだから、わたしには心配をかけまいと何も話さなかったんだ。
 桃矢君は何か悩み事があっても人に自分から話を打ち明けることがない。そしてそれを人には気づかせない、嘘が上手な人。

 たださくらちゃんや家族の心配事になると月城君やわたしにはわかりやすいくらいに表情に出る。
 今回はさくらちゃんの事だけじゃなく、月城君の事まで。だから眉間にしわをよせて、唇をぐっと閉じたんだ。

「秘密にしてたつもりはねぇよ。……それにおれがどうにかするんだ、お前は何も心配しなくていい」

 物凄く色々なことを心配していたに違いない桃矢君はそれでも平然を装っているようだった。
 そして桃矢君は靴を脱いで整えるとわたしの横を通り過ぎて何も言わずにリビングの方へ入っていってしまった。
 そのまま無視でもされるのかと一瞬心配したけれど、荷物を置きにいっただけだったみたいで、また玄関まで戻ってきてくれた。

「送ってく」
「ダメ!バイトから帰ってきたばっかりで疲れてるでしょう?わたし一人で帰る」
「こんな暗い中ひとりで帰らせられっか。ほれ、靴履け」
「……桃矢君」

 桃矢君はこれ以上月城君のことを話したくはないらしい。アパートまで送っていくと言いわたしの表情をうかがう。
 家まで送ると言えばわたしが遠慮するのを桃矢君は知っている。そして最終的にわたしが絆されて断れないことも桃矢君は知っている。
 だから心配しなくていい、と言った後わざと話題を変えて、有無を言わさず送っていくなんて口にしたんだ。

「ん」

 先に靴を履いて玄関の扉に右手をかけながら、もう片方の左手をこちらに差し出す。
 穏やかな表情をしてはやくしろ、とわたしを急かした。

「帰るぞ」

 月城君が消えてしまうかもしれないのに、どうして今までそれを話そうとしなかったのか聞こうと思った。けれど同時に、桃矢君が話したくないのなら今はそのままでもいいとも思った。

 月城君のこと、物凄く心配しているはずなのにその事を話そうとしない桃矢君。
 いつまで月城君の、ユエさんの力が持つかわかっていて、まだわたしには話すまいとしているのか。


 桃矢君ならわたしがこうして話をしたいと思っていることもわかっているはずなのに、それには気づいていないふりをする。
 そしてわたしもそれに気づいていながら、たった今桃矢君の手を取ろうとしている。


 次にもしまたさくらちゃんが眠くて倒れるようなことがあれば、そのときには月城君のこと、話してくれるだろうか。

 きっと話してくれるんだと思う。ただ今はまだその時じゃないんだろう。
 それまで月城君のこと、わたしがもっとみててあげなきゃ。今のわたしに出来ることといえばそれくらいしか思いつかなくて。

 桃矢君はいったいどんな事を思っているんだろう、それにおれがどうにかするって……何をどうするつもりなの、桃矢君。




気づかない訳ないでしょう
(お互いに気づいてるのに)
(気づいていないふり)