06 それは突然〈1〉
わたしはアパートの二階に住んでいる。
自転車をとめてから、階段をあがってドアの前までくると、下から自転車のベルの音がした。
いったい何かと思って下をのぞいてみると、自転車にまたがったまま顔だけをこちらに向けている桃矢君が見えた。
「おやすみ、まなみ」
夜なので近所迷惑にならないように気をつかってるのか、やっと聞こえるぐらいの小さな声。
桃矢君の笑顔が見えてなんとなく安心する。
「おやすみなさいっ」
わたしもできるかぎり声を小さくして言った。
そして桃矢君はヒラヒラと手を振って、自転車を走らせていった。
小さくなっていく桃矢君の背中を見送ってから、ドアの鍵をあけようとすると、手紙が届いていることに気がついた。
そういえば今日はまだ郵便物を確かめていなかった気がする。
「これ……歌帆から……!」
その手紙は観月歌帆からのものだった。
彼女らしいきれいな字がならんでいる。
イギリスではじめて観月歌帆に会ったあと、一度だけ二人で会ったことがある。そのとき彼女の住所を聞いておいた。
この友枝町に引っ越ししたすぐに、住所をお知らせしようと思ってはじめてはがきを出した。
内容は「引っ越ししました」だけだったけど、はがきがちゃんと届いていたことがわかって少し安心した。
何て書いてあるんだろうか。
早く手紙を読みたいと思って、すぐさま鍵をあけて部屋へと急いだ。