07 くまさんのぬいぐるみ〈1〉

 


 夜、さくらちゃんから電話があった。なんでもこれから月城君の家にぬいぐるみを渡しに行くという。
 この前いっしょに手芸屋さんに行ったときに買ったキットで作ったくまさんのぬいぐるみが完成したというのだ。

「かわいささくれつですわーっ♡」

 日が暮れていた為に知世ちゃん達といっしょに保護者代わりとしてついていくことにしたら、さくらちゃんは知世ちゃんお手製のお洋服に身を包んでいた。

「はずかしいよう……」

 とっても似合っているものの、さくらちゃんにはお洋服を着る予定はなかったらしい。

「『さくらちゃん月城さんに手作りくまさんを渡す』の巻!これは正真正銘特別な日!やっぱり特別な日には!」
「それなりの格好をせんとな!」
「わかっていただけてうれしいですわーっ」

 興奮気味の知世ちゃんに、ケロちゃんもノリノリらしい。

「知世ちゃんのビデオ、新しくなったね」
「はい、新調しましたの!」

 なんでもカードが新しくなったので、ビデオも新調しなくてはとお母さんの園美さんに新しいものを買ってもらったらしい。ピカピカしている。

「なんでケロちゃんまでついてくるの?」
「ゆきうさぎの様子見にな」
「雪兎さんの?なんで?」
「元気かと思て」

 付き添いはわたしと知世ちゃんだけだと思っていたさくらちゃんは、どうしてケロちゃんまでと顔を恥ずかしさに赤くしたままケロちゃんに詰め寄る。ケロちゃんはケロちゃんでさくらちゃん、ではなくてユエさんのことが心配で着いてきたのだと思う。

「……いつまで存在を維持できるかわからんからな」
「え?」
「ま、とにかく早よ渡すもん渡し。ぽちっとな」
「ほえええ!!」

 ケロちゃんの呟きはわたし以外に聞き取れてはいなかったみたいで、さくらちゃんははてなマークを頭に浮かべていたみたいだ。
 そしてその間にインターフォンを押すケロちゃん。心の準備がまだ出来ていなかったさくらちゃんは声をあげて真っ赤になっていた。


———はい。
「あ、あの!さくらです!」

「さ、わいらは隠れとこ」
「はい」

 さくらちゃんはとっても緊張しているらしい。わたしと知世ちゃんとケロちゃんがさっと隠れていることにも気付いていなかった。

———いま開けるね。

 ほんの数秒、インターフォンから音が聞こえなくなると、玄関に人影が現れた。月城君だ。

「こんばんは」
「こ……こんばんは」

 月城君はいつも通り優しく微笑んでいて、さくらちゃんの前に現れた。

「あ、あの、これ!」
「ぼくに?……開けていい?」

 さくらちゃんは緊張で声が出せないらしく、月城君の問いに頭を上下にこくこくとうなずいてこたえる。
 そしてきちんとさくらちゃんのこたえを待ってから月城君はぬいぐるみの入った袋をきれいに開けた。

「これ、さくらちゃんが作ってくれたの?」
「は……はい!」
「ありがとう、大切にするね」

 驚く月城君に、あんまり上手にできなかったんですけどと言うさくらちゃん。その言葉をきちんと聞いて、きちんとできてるよとフォローする月城君。
 少し離れたところから見てみても、さくらちゃんのくまさんのぬいぐるみはよく出来ていた。

「……ケロちゃん」
「ん?」
「以前ユエさんとはじめてお会いした時観月先生がおっしゃってましたよね、さくらちゃんも李君も、クロウ・リードさんの関係者だから月城さんに惹かれるのは当然だと」

 さくらちゃんと月城君の様子を微笑ましく見守っていたわたしと知世ちゃんとケロちゃん。するとひと呼吸整えて、何故か少し心配そうな表情をして知世ちゃんが話しはじめた。

「ということはさくらちゃんが月城さんをお好きなのも…」
「いや、そりゃ違う。ユエが正体あらわしても、新たなカードの主になっても、さくらはまだゆきうさぎ相手にはにゃーんってなっとる。さくらはユエの魔力だけに反応してるんやのうて、ゆきうさぎ自体が好きなんやろ」

 心優しい知世ちゃんはさくらちゃんの気持ちと魔力の関係を心配していたのだ。本当に知世ちゃんは優しい。さくらちゃんのことがとても心配だったんだろう。
 ケロちゃんの言葉を聞いてほっと一息、安心したような表情をする知世ちゃん。良かった。
 けれどそんな知世ちゃんをよそに、ケロちゃんにはめずらしく真面目な表情のまま、音量を下げて話を続けた。

「せやからこそ… ユエ用の魔力をどこぞで調達せんとユエ本来の姿に戻れんだけやない、ゆきうさぎも…」

 ユエさんのことを呟きはじめたケロちゃんだったけれど、次の瞬間ただならぬ気配を感じてわたしと同じく息が止まった。何故なのかはわたしにもはっきりとわかった。クロウカードの時と同じ、これがクロウさんの気配だ。