07 くまさんのぬいぐるみ〈2〉

 


 さくらちゃんもクロウさんの気配に気づいて、辺りをきょろきょろと見まわしている。すると月城君の手に渡ったはずのくまさんのぬいぐるみが宙に浮きカッと光を放った。

 そして月城君だったはずが瞬きをしている間にユエさんの姿にかわると、さくらちゃんを守るように大きく羽根を広げた。
 ものすごい強風に思わず目を伏せると、次の瞬間わたし達の目の前に現れたのは大きくなったくまさんのぬいぐるみの姿だった。


「あぶない!」

 突然の出来事に揃ってくまさんのぬいぐるみを見上げていたさくらちゃんにぬいぐるみの手足が迫る。
 それをユエさんが身をていしてさくらちゃんを庇い空に飛び立った。けれどユエさんの大きな羽根がすうっと消えていく。

「きゃあああ!」

 そして空から急降下していく2人。悲鳴が上がった。

「さくら!ユエ!」
「さくらちゃん!」
「だいじょうぶか!?」
「わたしは平気!ユエさんがかばってくれたから……!」

 だいじょうぶかとさくらちゃんはユエさんに声をかけたものの、ユエさんは黙ったまま視線を逸らした。



 ユエさんの羽根が消えていって、わたしははじめてユエさんの魔力が足りないということを目撃し、理解した。いままではたださくらちゃんが眠くなってしまうことに気を取られていたから。
 月城君の近くにいるときに何か不思議な感覚がしていただけだったのが、ケロちゃんや桃矢君と話した後、その魔力が足りなくなる瞬間を目撃したのだ。

封印解除レリーズ!」

 わたしがユエさんのことを考えている間にも、さくらちゃんは魔法を使いわたし達を助けようとしてくれている。
 わたしも何かしなきゃ、持ち歩いている鏡のことを思い浮かべながらさくらちゃんの様子を見守っていた。

「ケロちゃん!知世ちゃんとまなみさんとユエさんをお願い!」

「またカードが変わった!」
「『ジャンプ』!」

 くまさんのぬいぐるみはさくらちゃんを狙って両腕を振り回している。さくらちゃんは上手にその攻撃から逃れているものの、ぬいぐるみはまわりの木々や月城君の家を次々に壊していた。

「このままじゃ雪兎さんのお家が壊れちゃう!どうすればくまさん止められるの!?」

 その破片や枝がわたし達のところまできていた。
 わたしはユエさんの身体を支えながらも、前にケロちゃんに言われたように自分の身を守る為に鏡に力を送るようなイメージを固めていた。歌帆が月の鈴をつかって身を守っていたみたいに。
 すると一瞬少しだけ風が吹くように破片や枝を返してわたし達を守るようにしてくれる。少しの進歩だ。

 イメージをそのままに意識を集中させていると、わずかにユエさんが身動ぎ話しはじめた。

「あれは…魔力で動いている…、…その源を探すんだ…」

 その言葉にケロちゃんはそうか!と何かに気がつくとさくらちゃんに向かって大きな声をあげた。

「さくら!くまを操ってる魔力の源を探すんや!」
「源って何!?」
「魔力が一番強い所や!」

「耳のとこ!」
「そこを切るんや!」
「『ソード』!」

 ケロちゃんに言われた通り魔力の源を見つけたさくらちゃんは、魔法の杖を剣に変化させて大きく剣を振るった。

「届かない!」

 さくらちゃんが身体を大きく動かして発言通りぬいぐるみの耳の部分を切ろうとしたけれど、剣が耳に届く前に攻撃されてしまう。

「あかん!『フライ』で飛ばんと無理や!」

 ギリギリのところで避けたものの、さくらちゃんのお洋服は所々破けてしまっていた。

「けど『フライ』は杖の先に羽根はやして飛ぶ魔法や!あれつこたら『ソード』は使えん!」

 ケロちゃんがそう話してくれている間にもくまさんのぬいぐるみはさくらちゃんを狙って攻撃をやめなかった。そしてその一撃が月城君家の屋根を破壊して、その破片がわたし達の所に迫ってきた。

「あぶないっ!」

 さくらちゃんが叫ぶと、ケロちゃんが真の姿に変わって大きな羽根でわたし達を守ってくれた。それはわたしの力ではとても防ぎきれなかった。
 自分の魔力が足りない為にまだ羽根が出せないユエさんもほっと一息ついている。

 皆が無事なことを確認してから、さくらちゃんはクロウカードをぎゅっと握りしめて魔法を使った。

「『フライ!』」

 するとさっきまで杖の端にはえていた羽根が場所を変え、さくらちゃんの背中にはえていた。まるで天使の羽みたいだ。
 それからさくらちゃんは上手にその羽根を操るとまた『ソード』のカードを使ってぬいぐるみの耳を切ろうとした。今度は攻撃に邪魔されることなくぬいぐるみの耳を切ることができた。
 大きかったぬいぐるみがみるみる元の大きさに戻っていく。

 ケロちゃんとユエさんもほっと一安心、穏やかな表情を浮かべていた。
 元の大きさに戻ったくまさんのぬいぐるみは知世ちゃんの腕に抱かれている。けれど耳は切られているために少しだけ痛々しい。せっかくさくらちゃんが頑張って作ったのに、これじゃあ月城君に渡せない。

 そしてユエさんがまた突然仮の姿にもどると言う。

 ドタバタしている間に光に包まれ月城君の姿に戻ったユエさん。
 この後耳が切れているぬいぐるみの事とか、散乱している瓦礫や木々とか、不思議そうにする月城君を誤魔化すのが物凄く大変だった。




くまさんのぬいぐるみ
(ほえええ!作り直さなきゃ!)