08 「邪魔しないでね」〈2〉

 


「今にもキスしちゃいそうなキケンな雰囲気だった」
「危険な?」
「そう、2人ともアンニュイな表情で見つめあって……」

 そんな会話が聞こえてきたのは選択授業の後のお昼休み。サッカー部のミーティングの為に教室を離れてひとり廊下を移動していたときだった。


「見た?授業前の月城君と森下さん」
「見た!廊下でコソコソ話してるなーって思ったらあの表情!」
「そうそう、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうくらい絵になってたー」

 「ねー」と皆んな口をそろえてゆきとまなみの話をしているみたいだった。
 以前から気がついたら勝手に話題になっている2人だが、今回はいつもと何か違うと思わず聞き耳をたててしまった。けれど本人達はその噂話に気づいているのかいないのか、けろっとした表情でついさっき教室で挨拶を交わしたばかりだ。
 選択授業が終わって違う教室から帰ってきたゆきとまなみに「サッカー部のミーティングあるから」と一言断りを入れた。すると2人は天気がいいから校庭に行ってくると言って仲よくその準備をはじめていた。
 その2人を置いてミーティングに向かっていくおれの耳に、そんな噂話が舞い込んできたのだ。

「いいなあ……わたしも月城君と見つめ合いたい」
「無理無理、なに夢みてるのよ」

 相変わらず色々な噂を呼ぶゆきとまなみに同情する。同じく今頃校庭に移動しているだろう2人は注目の的なはずだ。

「あの時近くにいた子に聞いたんだけどね、なんでも会話の最後に「木之本君には内緒ね」って2人で微笑みあってたんだって」
「えーっ気になる」

 気になる情報が聞こえたもののただの噂話。信憑性はないし、気になるといってもどうして久しぶりにこんな風に大きな噂話になっているかのほうが気になった。まあただ単にあの2人がまわりの目を気にすることなく仲よく一緒にいることが多いからなのだが。

「おう!木之本」
「よし、全員揃ったしはじめるぞー」

 ほんのすこしだけ気になる気持ちを抑えておれはサッカー部のミーティングに参加していた。








「何か見られてる気がする」
「ぼくも」

 お天気だったからお昼休みを校庭ですごそうと、サッカー部のミーティングでいない桃矢君と別れ月城君と移動して、そして弁当を食べ終わった頃だった。
 2人でいるときにちらちらと見られることはよくある。けれど今日のお昼休みからそれがいつもより多いような気がする。それは月城君も同じみたいで。

「何かしちゃったっけ」
「うーん……別にいつも通りだったと思うけど」

 月城君といっしょにいて恋人同士だと言われることはいつものこと。けれどさっきから何やらいつもとは違う周りの人の様子に、月城君といっしょにまた何かしてしまっただろうかと必死に考えていた。けれど何も思いつかない。

「……桃矢君に迷惑かけてるかも」

 こうやってわたしと月城君の話題があがったとき、何か情報を聞きだそうと桃矢君に話を聞きに行く人達が一定数いる。今頃はまだミーティング中だと思うけれど、それが終わってこっちに向かって来てくれるときに何か聞かれているかもしれない。

「あ、いたいた!まなみー!」
「!どうしたの」

 月城君と2人でうんうん悩んでいるところにわたしの名前を呼びながらかけて来てくれたのは奈々ちゃんと景子だった。

「きっと2人ともどうして注目されてるのかわかってないだろうなって思って」
「すごい、どうしてわかったの」
「そんなことだろうと思った……」
「月城君、ちょっとまなみ借りていい?」
「、どうぞ?」

 月城君の返事を待たずに奈々ちゃんと景子はわたしの手を取って、月城君から離れた人気のない場所に連れてきてくれた。

「あのね……」と奈々ちゃんと景子はとてもわかりやすくその噂のことを教えてくれた。

 わたしと月城君が選択授業がはじまるまでの間儚げな表情で見つめ合い、会話しはじめたと思えばキスでもしそうな近さで、とうんぬん。

「……なるほど」

 恋人同士であれば見つめあったりは普通なのではないかと思いつつも、そこは年頃の高校生が集まる場所。ちょっとしたことで大きな話題になったりすることはある。

「2人とも久しぶりに何で注目されてるのかわからないだろうなーって……」

 まさにその通りだった。本人達はいつも通りの日常を過ごしていたつもりだったのだから。
 教えてくれてありがとう、と伝えれば今度スイーツ奢ってねと言われ、奈々ちゃんと景子はその場から去っていった。

 わたしはこういう噂がたっているという話を月城君に話しにいこうと来た道を戻ろうとした。けれど今その場所には月城君と桃矢君がいて、何やら神妙な雰囲気だった。
 もしかしたら桃矢君が月城君に、人間ではないことを知っていると話をしているのかと思ったけれど、側の木の上から奈久留ちゃんが現れたからそれは多分失敗に終わったんだろう。
 わたしがそこに戻ればちょうど予鈴のチャイムが鳴った。

「あ、お昼休み終わっちゃった!桃矢君、日直でしょ?はやくいかないと先生さきにきちゃうよ」
「秋月……」
「なーに?」

 秋月じゃなくて奈久留って呼んでと注意されながら桃矢君は奈久留ちゃんにわざとなのかと問いただす。けれど奈久留ちゃんは「なんのこと?」と何も知らないふりをする。

「……先行ってる」
「うん!教室でね!」

 桃矢君はそれ以上は話すことを諦めたみたいで、先に行くと校舎に向かって歩いていった。

「……桃矢君、やっぱりわたしのことも気付いてるか……」

 奈久留ちゃんは桃矢君に手を振って後ろ姿を見送るとそうつぶやいた。

「でも、あなたはほんとうに何もわかってないのね」

 月城君に話しかけながらわたしにも聞こえるような声の大きさで話し出す。その声はクラスメイトと話す時とは違う、とても大人っぽいトーンで、「まなみは気づいてるみたいなのに……ま、『前』に『創ったもの』のほうが能力が下なのは仕方ないか」と続けた。


「桃矢君はわたしがもらうわ」




「邪魔しないでね」
(………)
(……月城君?)
(まなみ、……に言ったんじゃないよね……)