09 隠した気持ち〈2〉

 


 月城君と別れてアパートに帰ってきたわたしは、明日のテストの勉強をしていた。少し暗くなってきたからカーテンを閉めようと窓のそばに立つと、あれからどんどん濃くなっている霧が目に入る。
 前とおんなじクロウカードが現れたときのようなこの気配が、亡くなったはずのクロウさんの気配らしい。亡くなったはずのクロウさんの気配がすることがまずおかしいのに、そこにまた友枝で不思議なことがよく起きる。
 クロウカードがさくらカードになったり、一体この友枝町で何が起こっているんだろう。

 この気配にいつものさくらちゃんなら気がつくだろう。けれど風邪をひいて熱があるさくらちゃんがまさか外にでていくとは思わない。もしいくと言ってもケロちゃんがひきとめてくれるだろうし。
 わたしはカーテンを閉めて、またテスト勉強にとりかかった。







 次の日、霧はなくなっていた。不思議な気配ももちろんなくなっている。
 一体どういうことなんだろうと思っていたら、いつもの待ち合わせ場所に元気に現れたさくらちゃん。風邪はすっかり治ったらしい。そんなさくらちゃんの様子にどこかまだ心配そうな桃矢君。もう一日休めと言ったもののそれをさくらちゃんは全然聞かなかったみたいで。

 桃矢君と月城君が前を歩いていてさくらちゃんと後ろからついていくかたちで歩いていると、さくらちゃんが「あの、」と一言、小さな声で話しかけてきてくれた。

「きのうの夜クロウさんの気配がして、また一枚クロウカードがさくらカードにかわったんです」
「あんなに辛そうだったのに外に出ていったの?!」
「ケロちゃんにも怒られちゃいました……」

 すみませんと申し訳なさそうに謝ってくれるさくらちゃん。

「カードがかわった後またすぐ眠っちゃって、でも熱もさがってたんです」
「そう……無事ならよかった」

 でもまた今度何かあったときは電話して知らせてねと言えば、はいと元気よくこたえてくれた。もし何かあったら大変だ。
 歌帆みたいには頼りにはならないだろうけど、少しだけでも何か手助けしてあげたかった。







 昨日と同じく無事テストが終わると、ざわざわとする教室。今日は桃矢君と月城君といっしょにお昼ご飯を食べようと約束している。

「手ごたえは?」
「まあまあ」

 近い席にいる月城君が桃矢君に聞いていた。まあまあと言いながらいつも桃矢君はトップクラスの点数を叩きだしているから狡い。今回もきっと良い成績に違いない。
 特に化学の得意な桃矢君に化学の点数はいつも負けてしまっていた。

「まなみは?」
「わたしもまあまあかな……」

 ちなみに月城君は数学が得意でこちらもいつもトップクラスの点数をたたき出している。

「そんなこと言って英語はまた学年1位なんでしょ」
「……英語は得意だから」

 一応海外でながく暮らしていたから英語は得意だった。たまたま前回のテストのときに満点をとれたおかげで先生に皆んなの前で褒めてもらったのを月城君は覚えていたのだろう。
 褒められたのはもちろん嬉しかったけれど、それ以上にみんなの前で褒められたことが恥ずかしかった。

「そういえばさくらちゃん元気になってよかったね、とーや」

 テストでの緊張感がやわらいでやっと世間話ができるようになった頃、月城君が桃矢君に言う。

「飯食って寝たら熱もさがってな」

 机で頬杖をついたまま教卓の方向を向いてそうこたえる桃矢君は熱がさがったはずのさくらちゃんのことをまだ気にしているみたいだった。そして桃矢君はまだ何か話したいことがあるみたいで、視線だけをこちらに向ける。

「……実は夜に父さん帰ってきたんだ」
「あれ?出張で来週末まで帰ってこないんじゃ……」
「朝のさくらの様子がおかしいって思ってたらしい。気になって帰ってきたっつってた」

 今日発掘現場に戻って行ったけど、とどこかうれしそうにそう言う桃矢君。なんでも普段藤隆さんの勘はあまり当たらないらしい、けれど今回はその勘が見事当たったのがささやかながら藤隆さんは嬉しかったのだという。優しく微笑んでいる藤隆さんの姿が目に浮かんだ。

「あ、そうだ、お昼何食べる?」
「どうしよう」
「……簡単なもんでよけりゃおれん家で作るけど」
「ほんと!」

 月城君のお昼何食べる?という言葉に何故か照れくさそうにこたえる桃矢君。

「どうかしたの、とーや」
「……さくらのことで心配かけたからな」

 律義な桃矢君に遠慮なくじゃあオムライスが食べたいという月城君。本当はどこか商店街で食べようとしていたので、わたしも月城君も桃矢君の手料理を食べれると声をあげて喜んだ。

「それじゃあスーパー寄っていこうか」
「お菓子も買ってパーティーしよう?ね、まなみ」
「賛成!」
「なんでパーティーなんだよ」
「えっと……テストお疲れ様パーティー?」




隠した気持ち
(月城君、こっちのケーキおいしそう)
(本当だ!じゃあそっちにしよう)
(…遠慮ねぇのな)