12 桃色のリボンで〈2〉
まなみが同じクラスで仲よくしている女子と出かける予定があると言っていたある休日、バイトが終わって帰り道をぼーっと歩いていたときだった。
駅が近い商店街のために人通りも車通りも多い道だった。突然の車のクラクション音に道路を振り返ってみると、見覚えのある車が一台そばに寄ってきた。
停車した車の窓が開くと「久しぶり!」と爽やかに挨拶をされる。
「南さん」
「桃矢君だったよね」
車から降りてきた人物とは、まなみが声をかけられ雑誌のモデルをしたときにお世話になった編集者の南さんだった。今日の服装もおしゃれに決まっている。
「こんばんは。どこか行くところ?送っていくよ」
バイトの帰りだと告げれば、家まで送っていってくれるという。
南さんは仕事終わりにたまたまおれの姿を見かけてクラクションを鳴らしたらしい。
「ねえ桃矢くん、このあとって予定あるかい」
「いえ……帰るだけですけど」
おれの返事に南さんは瞳を輝かせて「じゃあちょっと寄り道しない?」と嬉しそうにそう言った。
「いやあ焼肉食べたくって、でも一人じゃ楽しくないだろう?」
桃矢君がいて良かった、と肉で口をいっぱいにしている南さんはトングでおれの取り皿にお肉を運んでくれている。
南さんは寄り道をしないかと言ったあと、おれを焼き肉屋に誘った。どこかこの近くでいいお店を知らないかとも聞かれて、以前バイトで働かせてもらったことのあるお店を紹介するとそこにしようと言われ、そして車に乗せてもらって、今に至る。
「桃矢君はバイトの帰りだったよね」
「はい」
「まなみさんは?」
「今日は学校の友達と出かけるって言ってました」
南さんの質問にこたえていると、それがだんだんまなみの話になって、最近のまなみの様子を聞かれた。まなみが南さんをはじめ雑誌の編集者の人達からあの撮影のあとそのままモデルをやってみないかと誘いをうけていたこともあってのことだろう。
「まなみさんに会ったらまた聞いておいてもらえるかな」
「多分やらないって言うと思いますよ」
まなみはモデルの誘いをうけていた。でも今はモデルをする気はないとその話を断っていたことをおれは本人から直接聞いていた。なんでも今回はたまたま誘ってもらったものに運命を感じた、ただそれだけだったから。すくなくとも高校生の間はモデルをする気はないらしい。
「惜しいなあ……。あの創刊記念号とっても評判良かったから」
南さんはとても残念そうに、でも笑ってそう言う。けれど次の瞬間には何か違うことを思いついたみたいだった。
「桃矢君は休みの日にバイトばっかりしてるのかい」
「……大学にいくお金、自分で貯めたいんで」
「えらいね」
でもたまにはデートしないと駄目だよと前にも言っていたようなことを言う南さん。
そこでおれは数日前にウィリアムに言われたことを思い出した。バレンタインデーのお返しとは別に何かプレゼントをまなみにしたほうがいいと言われたことだ。
「あの、」
「何だい」
「女子が好きそうなお店、知ってますか」
何かプレゼントをさがすにしても、まなみが気に入りそうなお店なんて考えても思いつかなかった。女性向けのファッション誌の編集者をしている南さんならそういうお店に詳しいかもしれない。そんなことを聞くのはなんだか恥ずかしいけれど背に腹はかえられないとおれは思い切ってその質問をすることにした。
「デート?それとも何か贈り物かな」
「………贈り物のほうで」
女子が好きそうなお店、と聞いただけで察してくれたような表情をする南さんは自身の手帳を取り出すとその手帳に何か書きはじめる。そしてびりっと1枚のページを破るとおれの目の前にその紙を差し出す。
「おすすめ、書いておいたから行ってみて」
差し出された紙を見てみると簡単に書かれた地図と住所。どういうお店なのか聞いてみると、さがそうと思っていたアクセサリーや雑貨をあつかうお店らしい。恥ずかしさがあったものの思い切って南さんに聞いてみて正解だったと思った。
「ちゃんと恋人らしいところが見れて嬉しいな」
撮影のときは全然だったから、とまた肉で口をいっぱいにしながら南さんはぽろりとつぶやくようにそう言った。
「桃矢君、見た目はクールだからね」
第一印象が怖そうだとよく言われることがある。だからクールだとか、そういった類の言葉にはなれているつもりだった。けれど南さんみたいな大人の人にそう言われると、本当に自分自身がクールなのかもしれないと思ってしまう。
まなみにもおれはクールだと思われているのだろうか。
「ああ、本当にクールなんじゃなくて、そう……女の子にプレゼントだとかしなさそうって意味ね」
「……やっぱり似合いませんかね」
自分でも珍しく弱気になっているみたいだ。ウィリアムに言われたまま柄にもない、まなみにプレゼントだなんて。
それにぼんやりとアクセサリーが良いと思っているだけで、実際まなみの好みはよくわからないし、どんなものが似合いそうかなんてセンスはおれにはない。せっかくプレゼントするんだから、そのプレゼントを普段身につけて欲しいと単純に思うからこそ下手なものは選べないと思った。
「ありきたりな事しか言えないけど……気持ちだよ。その人のこと考えて一生懸命に選んだものなら、絶対に相手は喜んでくれるさ」
「だと、いいですけど……」
さあ遠慮なく食べてとトングでどんどん肉を焼く南さん。
おれは南さんに書いてもらったおすすめのお店の住所と地図が書かれた紙を見ながら、どんなものがまなみに似合うだろうと考えをめぐらせていた。