13 きらきらひかる〈3〉

  


「……ネックレス?」

 小箱のなかには小ぶりなスワロフスキーがきらりとひかるネックレスが。
 誰かにあげるものか、と思っても、ならどうしてわたしが開けてよかったんだとか、桃矢君のものだとして、桃矢君にはちょっとだけ似合わなさそうなピンクゴールドのチェーンだなだとか、色々なことを考えてしまった。

「えっと、」
「まなみに」

 わたしが何か言おうとするのにかぶせるようにはっきりとわたしの名前を呼んだ。今わたしに、と言った?

 「嬉しい」とか「きれい」とか、言えることはいくらでもあったと思う。けれどいきなりのことに思わず無言になってしまった。だって誕生日でもないし、ホワイトデーにはまだ早いし、と色々な理由が頭のなかを駆け巡っていたから。

「誕生日プレゼントでも、ホワイトデーでもねーよ」

 きっとものすごく顔にでていたんだろう、桃矢君はわたしが思っていたことを次々にあげていく。記念日だとかいうものにはふたりとも興味がないのは周知の通りだし、誰かにもらったけど女物だからやるとか、そういったものではない。

「おれたちは恋人らしいところがないってどこかの誰かさんに言われてな、別にそれでいいじゃねえかと思ってた。でも、」

 贈り物くらいはしたいと思ってた、と真面目な顔をして、わたしの瞳をみて話し出す。

「まなみに似合うと思ったんだ」

 ついさっきまで数学の宿題をしていてそんな雰囲気なんて全くなかったのに、急に恋人同士らしいムードをつくりだす桃矢君。わたしの手の中にある小箱からそのネックレスを取り出すと、繊細な手つきでわたしの首元にそれをつけるその仕草はまるで恋人みたい。いや、本当に恋人なんだけれど。

 こんなふうに、愛しさみたいなものが伝わってくるのははじめてだった。

「恋人みたい」

 いままで感じたことのなかったような桃矢君の気持ちが伝わってくるような気がしたのだ。

「違ったか?」

 思わず口から出ていた言葉にくすりと笑って返す桃矢君。何だかいつもと違う人みたいな桃矢君に、そういえば彼はムードを気にする実はロマンチストな面があったと心の片隅で思い出す。

「ありがとう、大切にするね」

 スワロフスキー以外に無駄な装飾のないシンプルなつくりのそれはどんなお洋服にでも似合いそうだ。もちろん今日の服装にも。チェーンの長さも調節できるみたいだし、これなら普段から制服の下にもつけられそう。と、わたしがネックレスをつけたままその石を手に取ってながめていると、その手を桃矢君がすっと取り少しだけ持ち上げた。

「?」

 目は口程に物を言う。
 とられた手を何んとなしに眺めていると、その先にある桃矢君の瞳と目が合う。わたしたちはこの先に起こる出来事を知っている。
 すっとまぶたをおろせば近づく気配と温もり。お互いのくちびるをはなしたところで瞳を開ければ、同じくこちらを見ていた桃矢君の瞳とまた目が合った。瞬間にバッと離れた桃矢君は困った顔をしてわたしの行動にびっくりしたとくちを出す。

「お前なあ……」
「ふふ、ごめんなさい」

 桃矢君のまつ毛がすごく長くて綺麗だったと言えば、困った顔のまま、照れたようにため息をつく桃矢君。
 何だかいつもと違う人みたいだった桃矢君が一瞬でいつもの桃矢君に戻っていく。わたしはいつもの少しだけ照れ屋さんな桃矢君の方が好きみたい。心がほっと安心できるような気がした。








「なーに思い出してるのかな」
「え、」

 このネックレスを貰ったときのことを思い出していた、なんて恥ずかしくて言えない。

 そういえば桃矢君が言っていた、わたしと桃矢君が恋人らしいところがないと言っていたどこかの誰かさんとはきっとウィリアムのことだったんだろうな、と今ならわかる。桃矢君にわざわざそんなことを言うなんてウィリアムくらいだろうから。月城君は今更そんなことは言わないと思う。多分。

「誰からもらったの」
「知ってるくせに」

 わかったようにお互い言い合って笑いあえば、通りを向こうから歩いてきた人にどうしたんだろうという目で見られてしまった。

「桃矢は束縛が強いようにはみえない」

 すると突然男性から女性にネックレスをプレゼントする意味についてすらすらと説明をしてくれるウィリアム。
 なんでもネックレスをプレゼントすることは、相手を束縛したい、という意味があるらしい。犬につける首輪カラーみたいに、と自身の首を指さすウィリアムはまだまだしゃべり足りないようだった。

「束縛されたい?」
「うーん……でも嫌じゃないかな」

 もちろん桃矢君になら、という意味で、特別に束縛されたいとかそういうわけじゃない。あくまでも例えだった。

「じゃあ実際のところはどうなの」
「どう、って……束縛なんて全然ないよ」

 むしろとても自由というか。だって元恋人であるウィリアムとこんな風に仲よくしているのを許してくれているし、月城君とのことだってそう。

「なら「束縛したい」は違ったか……」
「……何か他の意味でもあるの?」
「ずっと昔ね、ネックレスを贈るってことは「相手の幸せを祈る」っていう意味があったんだよ」

 桃矢はきっとこのネックレスを選ぶとき、きみのことを束縛したいじゃなくて、きみの幸せを祈ってたんじゃないかな、と嬉しそうに微笑む。

「それじゃあ、これはわたしの大切なお守りね」

 わたしはネックレスの先にある石を愛でるように指でなぞった。このスワロフスキーに触れるだけで、いまここに桃矢君がいるみたいに心がとっても落ち着くのがわかる。ただの石のはずなのに、あったかいような、そんな感じ。

「伝わるかい」
「?」
「彼からの愛さ、あたたかいだろう?」

 思わず気持ちを口に出してしゃべっていたのかと思ったけれど、そうではない。ウィリアムはいつもそうだ。わたしの心のことによく気がつく。

「本当に……まなみによく似合う」

 ウィリアムはわたしに向けていた視線をまたネックレスに戻すと、心底嬉しそうに微笑んだ。






きらきらひかる
(あら、そのネックレス素敵ね!)
(普段アクセサリーしないまなみが珍しい……彼からのプレゼント?)

((さすがウィリアムのご両親ね……))