14 眠りから覚めたら〈1〉
「……遅い」
今日はホワイトデー。たまたま学校もお休みで、わたしはお昼頃に桃矢君家にお邪魔していた。バレンタインのときにさくらちゃんにチョコレートをもらっていたので、そのお返しをするために。
今日は月城君も桃矢君家に来るはずだった。それなのに約束をしていた時間を過ぎても月城君はなかなか現れない。しびれを切らした桃矢君は月城君家に電話をするという。
「月城君出た?」
「…………」
電話をかけにいって、そして部屋に帰ってきた桃矢君に声をかけてみても無言のまま横に首を振る。
「ちょっと行ってくる」
「待って!わたしも行く」
虫の知らせのように、なんだか嫌な予感がしたのはもちろんわたしだけではなかった。月城君の家に行くという桃矢君にわたしもついていくことにした。
月城君の家のインターホンを押しても何の返事もなかった。誰もいないのかと家のまわりをぐるりと見てまわるという桃矢君。まさか入れ違いになったわけではないだろう。桃矢君家から月城君家まではそう遠い距離ではないし、道のりも単純だ。
「ゆき!」
玄関の前にいたら、まわりを見に行った桃矢君の大きな声が聞こえた。おもわずびっくりしてしまったけれどその声のしたところへと急いでかけつける。そして桃矢君の声が聞こえた庭先にかけつけると、そこには月城君が倒れて眠っていた。
「月城君!?」
倒れていた月城君の体を起こそうとしていた桃矢君のそばに近寄ってわたしも月城君の体を支えるのを手伝った。そして桃矢君が月城君の体をゆさぶると、月城君はゆっくりと意識を取り戻した。
「……とーやに、まなみ?」
わたし達の存在を確認をして、そして頭を片手でおさえる月城君。
「おどかすなよ!」
きっと月城君は桃矢君の家に行こうと玄関をでたものの、そのあとすぐ力尽きて庭で眠ってしまったんだろう。
「最近すごく眠くて……。変だよね、昨日もたくさん寝たのに……」
月城君はまだ眠気が覚めないみたいで、頭を片手で抑えたまま下を向いてしまった。体も力が入らないのか脱力したままだ。
「今日うちにくるっつってたのにいつまでたってもこねえから……電話しても誰も出ねえし」
「……ごめん、電話気づかなかった…。今日ホワイトデーだからさくらちゃんに……」
わたしと同じように、月城君はバレンタインデーのチョコのお返しをさくらちゃんに渡しに来るはずだったのだ。そこまで言いかけた月城君は起こしていたはずの上半身をぐらりと揺らして気を失った。それを慌てて受け止める桃矢君。
「お、おい!」
「月城君!」
桃矢君とわたしがほぼ同時に呼びかけると、月城君は瞳を閉じたまま、なんとか声を絞り出すようにしゃべってくれた。
「ごめん……なんかほんとうに眠くて……」
ぽつりぽつりとしゃべってくれたものの、この一言を最後に桃矢君の腕のなかで月城君はそのまま眠ってしまったようだった。その直後、月城君の腕や脚がすうっと透き通るように消えていく。
「……桃矢君、」
「ああ」
前に桃矢君は話してくれた。月城君が人間ではないことを本人に気づかせて、桃矢君のもっている力を月城君に渡さなくてはならない、と。
うすく透き通っていった腕や脚は徐々にまたはっきりと色を取り戻してくれたけれど、月城君は眠ったまま、すぐに意識をとりもどすことはなかった。
きっと限界が近いんだ。はやく桃矢君の力を渡さないと、月城君は消えてしまう。
「……早く気づけよ……ゆき……」
桃矢君は本当に辛そうに月城君の身体を抱きしめていた。
眠ってしまった月城君を部屋まで運んだ桃矢君は、今日はこのまま月城君の家に泊まっていくと言った。わたしも泊まっていこうと、一度自分のアパートまで帰って準備をしてまた月城君の家に戻ってきた。その間も桃矢君はずっと月城君のそばについていた。
「代わるよ、桃矢君」
「ん?……ああ」
眠っているだけとはいえ目を離してしまうのはなんだか嫌だった。それは桃矢君も同じだ。月城君のことが心配だった。
けれど桃矢君もずっと見ているのは疲れてしまうだろうと、一度休憩をしてほしいとお願いをした。桃矢君はそれを案外すんなりと受け入れてくれた。
さくらちゃんの力はものすごく強くなっている。ケロちゃんも言っていたし、わたしにもわかるくらいのすごく強い力になっていた。きっとこれも桃矢君は気づいているだろう。でもそれだけじゃ月城君を、
どんどん強くなっていくさくらちゃんの力に、わたしはもしかしたら桃矢君の力が必要じゃなくなるときがくるんじゃないかと思ったりしていた。でもそれは違った。やっぱり月城君には桃矢君の力が必要なんだ。
わたしは自分が肌身離さず持っている太陽の模様が描かれた鏡を鞄から取り出した。わたしがお守りがわりに持っているものだから、きっと月城君のことも守ってくれる、そんな気がしたから。
以前ケロちゃんに魔力の足しになるようにこの鏡をさくらちゃんに渡すことが出来ないかと聞いた。魔力の波動が違うから渡しても意味がないと聞いたあとに月城君は、と思ったけれど、それも無理で。
けれどわたしに力を与えてくれているのは確かで。何か、ほんの少しだけでも魔力の足しになればと、月城君が消えませんようにと、願をかけるようにわたしはその鏡を握りしめた。