07 思ってたよりきみを意識してた〈1〉

 


「ここから78ページまで!提出遅れないように!」

 ぐんと暑くなってきた最近、学校生活にもなれてきた。
 あの歌帆の手紙が届いてからは、特に不思議な出来事は何も起こってない。
 そのせいか完全に緊張感がぬけて、イギリスにいたころと同じような普通の生活に戻っていた。

「ねえまなみ、放課後あいてる?」
「うん」
「これから桃矢の家で勉強会なんだ。どう、いっしょに来ない?」
「お邪魔しちゃっていいの?」

 月城君と桃矢君のふたりはとても賢いから、いっしょに勉強できるなんてラッキーだと思った。
 ちょうど宿題もたくさん出たところだし。

「たいしたもんはねぇけどな」
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「決まりだね!」




 授業も終わって放課後になり、わたしはふたりに連れられて桃矢君の家に向かった。

 そして住宅街のなかにたたずむ、黄色い壁が可愛らしいお家の前で桃矢君が立ち止まる。

「ここがおれん家」

 桃矢君は玄関の方を親指でさし、先に中へと入っていった。

「ただいまー」
「おかえりー!はやかったね」

 先に桃矢君が入っていったところからなんとも可愛らしい声がきこえた。

「あっ、勝手に食べたーっ!」

 急に大きな声がしたから何事かとどきどきしたのに、月城君はまったく動じず、ニコニコしながら部屋へ入っていった。

「せっかくおこづかいでホットケーキミックスかったのにー!」

 わたしも月城君につづいて部屋に入った。

「おいしそうだね」
「雪兎さん!まなみさんも!」

 さくらちゃんは顔を真っ赤にさせて、月城君に憧れの眼差しを向けていた。
 机の上には食べかけのホットケーキがあって、それがとってもおいしそう。さくらちゃんが作ったんだ!


「こ……こんにちは」
「さくらちゃん、お料理上手なんだね」
「そ……そんなことないです!」
「うん、ほんとにそんなことねぇ」

 学校とは違って、意地悪なお兄さんになる桃矢君がおもしろくって思わず顔がゆるんだ。
 さくらちゃんに足を踏まれて痛がってるのがなんだかかわいい。

「あ、あの、よかったらホットケーキ……食べませんか?」
「いいの?お小遣いで買ったんでしょ?」
「いいんです!あの、まなみさんも一緒に!」
「わたしも?」
「あとでお兄ちゃんの部屋に持っていきます!」
「ありがとう」
「ありがとう、さくらちゃん」

 さくらちゃんはとびっきりかわいい笑顔を浮かべると、キッチンの方へ歩いていった。






 桃矢君の部屋で勉強をはじめて少したった頃、月城君が急に立ち上がって部屋の戸を開くとそこにはさくらちゃんが立っていた。

「あ?さくらいたのか」
「ご苦労さま」

 月城君はさくらちゃんからおぼんをもらうといつもみたいににこりと優しく微笑んだ。

「ありがとう、さくらちゃん」
「い……いえ」

 わたしがお礼を言ったら、さっきみたいにさくらちゃんがまた顔を真っ赤にさせていた。

「あ…あの、どうしてノックしてないのにわかったんですか?」
「なんとなく、さくらちゃんが来てくれたかなあって思ったんだ」