「まなみさん!」
「?」
買い物の帰り道、急に名前を呼ばれたから急いで振り向けば、そこにいたのはさくらちゃんだった。
「クラブの帰り?」
「は、はいっ」
そしてさくらちゃんはお友達といっしょにわたしの近くまで駆けよってきた。
「さくらちゃん、お知り合いの方ですか?」
「お兄ちゃんのお友達でまなみさん、毎日いっしょに登校してるんだ」
さくらちゃんといっしょにいた女の子3人は可愛らしくて、特に髪の長い女の子の髪がうらやましいくらい綺麗で目を惹かれた。
「はじめまして、森下まなみです」
「「こんにちは」」
3人ともが軽くお辞儀をしたから、こちらもおもわずお辞儀をかえした。
「それにしてもさくらちゃん、さっきからびくびくしてどうしたの?」
はじめからさくらちゃんは挙動不審で、さっきの髪の長い女の子の後ろにぴったりとくっついている。
不思議に思って聞いてみたら、さくらちゃんはこたえに困っているみたいだった。
すると髪を二つ結びにした女の子がかわりにこたえてくれた。
「実はペンギン大王公園の池に幽霊がでるらしいんです」
女の子はわたし達がいる道の先にみえるペンギン大王を指さした。
「ほ、ほえーっ」
「それでこわがってたのね」
確か前にさくらちゃんはこわいものが苦手なんだと桃矢君が教えてくれた気がする。
みんなで話しながら歩いていたらもう公園の前まできてしまった。
さらにこわがっているさくらちゃんはみんなの少し後ろを歩いてる。
「だいじょうぶですわ、まだ明るいですし」
さくらちゃんは髪の長い女の子の腕にしっかりとしがみついて恐る恐る池の方へ歩いていった。
それにしても幽霊なんて、あの池の横はよく通るけれど、今まで特別何も感じたことはなかった。
確かに、この公園のおっきな木には感じるものがあったけれど、池では幽霊なんてみたことがなかった。
「ここ!」
池の前までくると、眼鏡をかけた女の子が池の上を指さした。
「とくに変わったところは……」
すると急に池の上がぱっと光りだした。
「きゃーっ!」「ほえーっ!」
目の前に眩しいくらいの光りが広がると同時に、みんなでその場から逃げ出した。
「なんかおっきくて目がひとつでぐるぐるのが」
「もやもやしてよくわかんなくてとんがった耳の……」
「「?」」
みんなが何をみたのかはわからなかったけど、何故だか皆ばらばらなことを言いはじめた。
そして何も言わないわたしと髪の長い女の子の方を今にも泣きそうな目でみた。
「ペンギン大王でしたけど……」
「わたし、おっきなカレーライスが……」
「ほえ?」
幽霊騒ぎの後、わたしはまっすぐ家に帰っていた。
そして晩ご飯をつくりながらさっき起こったことをゆっくりと考えていた。
……プルルルル……
電話がかかってきたから、さっと手をふいて受話器をとった。
「はいもしもし、森下です」
「こんばんは、さくらです」
「さくらちゃん!どうしたの電話なんて」
「あの、あしたペンギン大王公園でお祭りがあるんです!」
そういえば公園の近くでお祭りのポスターをみた気がした。
「い、いっしょにいきませんか?」
「お祭りに?」
「わたしのお友達もいるんですけど、よかったらっ」
お祭りのお誘いなんてすごく嬉しいと思ったけど、今日さくらちゃんがあの池でこわがっていたことはだいじょうぶなのか心配になった。
「さくらちゃん、幽霊だいじょうぶなの?」
「あの池に近づかなければだいじょうぶです!」
「そう……ならいっしょにお祭りいきたいな」
「じゃあ、あしたの5時に家にきてください!」
「わかったわ」
電話ごしに聞こえるさくらちゃんの楽しそうな声に癒される。
「おやすみなさい、さくらちゃん」
「おやすみなさい!」
わたしは電話をきってまた晩ご飯の準備をはじめた。
それにしても、どうして皆みたものがばらばらだったのだろう。
池でみたものがクロウカードということに確信はもてたけど、どうしてみんながばらばらなものをみたのかわからなかった。
そしてわたしがみたのはなぜかおっきなカレーライス。
あれはクロウカードだってことにさくらちゃんが気づいてるのかはまだわからない。
聞きたいことがあっても、聞ける人もいない。
そのとき、わたしの心のなかで歌帆に逢いたい気持ちがぐんと強くなっていた。