08 どうして、ばらばら?〈2〉

  


 次の日の夕方、わたしはさっそくお祭りの準備をしはじめた。
 一年間ねむっていた浴衣に袖をとおしてみる。

「変じゃないかな……」

 去年着た浴衣なんて、と思う人も多いはず。
 でもわたしにとってこの浴衣は大切な想い出がつまってるから、身につけると嬉しさで胸がいっぱいになる。
 ちょうどイギリスにいた頃、仕事で忙しい両親がまとまったお休みをとれたのがこの時期だった。
 去年はそろってお休みがとれて、親子3人で夏祭りにいった。
 この浴衣がそのとき着た想い出の浴衣。

「お父さんお母さん、元気にしてる?」

 写真にむかっていってみると、なんだか2人が微笑みかけてくれた気がした。
 時計を確認したらちょうどいい時間だったから、わたしはその浴衣といっしょに買った下駄をはいて玄関の外にでた。

 もう一度あの池にいったら何かわかるかもしれない。
 わたしはそんなことを思いながらアパートの階段をくだった。






———ピンポーン

「はーいっ」
「こんばんは、森下です」

 インターホンごしに声が聞こえると、すぐにドアが開いて浴衣姿のさくらちゃんが出迎えてくれた。

「こんばんはまなみさん!わあっ、すっごくきれいです!」
「ほんとう?ありがとう、さくらちゃん」

 すると家の中からきのう会ったばかりの髪の長い女の子がでてきた。

「こんばんは」
「昨日はどうも」
「はい、今日はよろしくお願いしますわ」
「知世ちゃん、まなみさん、はやくいきましょ?」
「うん、今日とっても楽しみにしてたの」

 少し浮かれ気分になっていたら、ドアの中から声が聞こえた。

「待ってたやつってまなみのことだったのか」
「と、桃矢君!」
「ぼくもいるよ」

 わたしが来るのを知らなかったのか桃矢君は少し驚いていた。
 月城君はそんなに驚いてないみたいだったけど。

「お兄ちゃんどうしてもついてくるっていうんです」

 あきらかに不服そうな顔をしたさくらちゃん。
 きっと夜人出の多いところに小学生だけじゃ心配だと思ったんだろうな。

「さくらちゃんなら、わたしがいるからだいじょうぶよ?」
「いーや、ついてく」
「いきたいんだよね、とーや」
「おう」

 話してる間に目の前まできていた桃矢君と月城君も浴衣姿だった。

「ほらいくぞ、さくら」
「ちょっとお兄ちゃんっ、まってよ!」

 さくらちゃんはずんずん歩きはじめた桃矢君においこされまいとお友達の手をとってついていった。

「まなみもほら、いこっか」
「うん」

 わたしもおいていかれないようにと月城君の隣を歩きはじめた。








「あっ!りんご飴!お兄ちゃん買って!」

 お祭り特有の雰囲気を楽しんでいたら、さくらちゃんの声が耳にとどいた。

「おまえの小遣いはどーした」
「お兄ちゃんバイトしてる、わたしお兄ちゃんがバイトの間全部お皿洗った」

 桃矢君は少し困ったような顔をすると、渋々りんご飴を買いにいった。
 そしてわたし達のいるところまで戻ってくると、一番最初にさくらちゃんとそのお友達にわたして、次にわたしと月城君にわたしてくれた。

「ゆきもまなみも、足りるのかこれで」
「だいじょうぶよ」
「家でいっぱい食べてきたから」
「ちょっとお兄ちゃん、雪兎さんとまなみさんがすんごい食べるみたいないいかた……」
「食うんだよ、おれの数倍」
「え?!」

 さくらちゃんは月城君がいっぱい食べるのを知らなかったみたい。

「わたしは月城君ほどじゃないけどね」
「お前もじゅうぶん食べてるよ」

 さくらちゃんとお友達にむかって話したら桃矢君におもいっきり否定された。

「月城君はわたしの倍食べるよ?」
「その時点でおれの倍は食べてるだろーが」
「ううっ……」

 桃矢君のあきれた顔がつらかったから、視線で月城君に助けをもとめた。

「ぼく、いっぱい食べないともたないんだよ」
「い、いっぱいって」

 月城君が一日の食事を説明していると、その量の多さにさくらちゃんはだんだん顔をひきつらせていた。

「け、健康でいいですよね!」
「あははは」



「きゃーっ!」

 話しの途中で悲鳴がきこえた。
 その声はあきらかに池のほうからきこえた。

「池のほうですわ!」

 すると池のほうからすごい勢いで女の子達が走ってきた。

「なんか足の長い変なのが!」
「ちがうー!白いのだよ!」
「きりんみたいに首が長いの!」
「ピンクでぴかぴかってまるいの!」

 そして女の子達はきのうわたしとさくらちゃん達が体験したのと同じように、みんなそれぞれが違うことを言いはじめた。




どうして、ばらばら?
(やっぱりクロウカードなんだわ)