09 やっぱり照れ屋さん〈2〉

 


「目、覚めた?」
「雪兎さん!まなみさん!」


 さくらちゃんはついさっき起きたみたいで、なんだかそわそわしている。

「ここ、ぼくの家だよ」

 月城君は布団の横に腰をおろすと、さくらちゃんに飲み物を手渡した。
 それからわたしも月城君の横に右足をのばしたまま腰をおろした。

「着替えさせたのはわたしだから、安心してね」
「まなみさん、あの…、わたし」
「池でおぼれそうになったの覚えてる?」

 さくらちゃんはまだ落ち着かないみたいで、部屋をきょろきょろとみまわした。

「ちょうど通りかかったの」
「知世ちゃんは……」
「サングラスしたお姉さんたちが迎えにきたわ」
「すごく心配してたけど、ぼくが桃矢に連絡するっていったら「よろしくお願いします」って」

 最後に月城君がいうと、さくらちゃんはあきらかにしまったという顔になった。

「お兄ちゃん!?」
「だいじょうぶ、ぼくからちゃんといっとくからしかられたりしないよ」
「そうだ、ケロちゃん……!」

 たぶんあのオレンジいろのぬいぐるみのことだと思う。
 月城君もあのぬいぐるみだって気づいたみたいだった。

「あ、知世ちゃんが「きょうはお預かりします」って伝えてくれって」

 それをきいて安心したのか、さくらちゃんは眠たそうに目をとろんとさせた。

「さ、もうちょっとお休み」

「……雪兎さん……」
「ん?」
「お母さんに……会ったんです……」

———さくらちゃんのお母さんって、確か亡くなったんじゃ……。

 前に桃矢君からお話を聞いたのを思いだした。

「公園の池の中……あれ、お母さんの幽霊かなぁ……」

 さくらちゃんは目をとじると話しを続けた。

「むかし……お兄ちゃんいってたの、幽霊が出てくるのには理由があるんだって……お母さん、わたしに何かいいたいことあるのかな……」

 いつも元気で明るいさくらちゃんの声とは違う、弱々しい声だった。
 すると月城君は優しくさくらちゃんの頭を撫でた。


「……でもね、もしお母さんなら……さくらちゃんを危ない目に遭わせたりするかな」








「悪かったな、まなみもゆきも」
「ううん」

 さくらちゃんのことを迎えにきた桃矢君は、心なしかいつもより元気がなかった。
 やっぱりさくらちゃんのことがすごく大事なんだってあらためて感じた。

「まなみ、おまえ足どうした」
「ちょっとくじいちゃって……でもちゃんと歩けるから」
「んなことねぇだろ、ひきずってんじゃねーか」

 すると何を思ったのか、おぶっていたさくらちゃんを月城君にあずけて、少ししゃがむとわたしに背中をさしだした。

「おぶってやるから、はやくしろ」

 桃矢君は前みたいにわたしのことをにらんでいた。
心配してくれてるときの桃矢君の表情だ。

「けがしたときぐらい甘えとけ」
「……うん、……ありがと」

 遠慮がちに桃矢君の肩に手をおいて背中に体重をかけると、桃矢君はいとも簡単に立ちあがった。
 桃矢君の背がたかいから、視界がぐんとひろがる。

———いつもこんなふうにみえてるのか……。

 少し歩きだすと、月城君が話しはじめた。

「……あのね、さくらちゃん、お母さんに会ったって」

 わたしは月城君の肩にのっているさくらちゃんの顔を横目にみながら話に耳をかたむけた。

「とーやも見たことある?亡くなったお母さん」
「ある、池ん中じゃねぇけど」

 桃矢君は大きくうなずいた。

「こいつが幽霊やお化けがだめになったのはおれのせいだかんな」
「どうして?」
「ちっちぇころからあっちに足がないねーさんがいるとか、こっちに頭割れたじーさんがいるとか、毎日いってたから」
「それでさくらちゃん、こわがりになっちゃったんだ」
「こいつも見えないけどなんとなくわかるらしい。とくにあんまり良くないもんは、おれがいわなくても勝手にみーみー泣いてた」

———さくらちゃんにも力があるんだから感じて当然、か……。

「お母さん、今もよく見えるの?」
「いや、おれが中学あがったころにはもういなかった」

 桃矢君は急にかなしそうな表情になって、月城君の背中で眠っているさくらちゃんの顔をみつめた。
 うしろからみた桃矢君のいつもとは違う横顔に少しどきりとした。

「……やっぱ、母さんがいなくてさみしいのか」

 その言葉にわたしは胸が痛くなった。
 わたしの両親は生きているけれど、今は会えていないから時々さみしくなる。
 わたしの年齢になってもさみしくなるのに、まだ小学生のさくらちゃんがさみしくないわけがない。

「そんなことないよ、ただ……会えるなら、会いたいと思うのもしょうがないかも」

 月城君もちいさいときに両親を亡くしてるっていってた。
 といっても月城君は人間じゃないから、ほんとうに両親がいたのかどうかはわからないけど、きっと同じような気持ちなんだと思う。

「さくらちゃんにもいろいろあるんだから、きょうのことしからないよーに」
「……ふん」
「でも、こーんなにさくらちゃんのこと可愛くてしかたないんだから、いじわるするのやめればいいのに」
「こいつで遊んでいいのはおれだけだ」
「桃矢君、ほんとはすんごく優しいのにね」
「とーや、シスターコンプレックスってしってる?」
「うるせー」
「さくらちゃんのこと、心配でしかたないくせに。ね、月城君」
「ね、まなみ」
「おまえらなぁ……」




やっぱり照れ屋さん
(まなみにも素直になったらいいのに)
(何がだ)
(わかってるくせに)