10 正直に会いたいなんて言えないから〈1〉
「元気そうでよかったわ」
次の日わたしはさくらちゃんのお見舞いにきていた。
さっきさよならを済ませてきたばかりのさくらちゃんはすっかり元気で、いつも通りのかわいい笑顔をみせてくれた。
お見舞いをすませてすぐ帰ろうとしたら、桃矢君にひきとめられてお茶を一杯いただくことになった。
「足はだいじょうぶなのか」
「うん、もう平気」
リビングのソファーに座わってまっていたら、桃矢君がキッチンでお茶をよそっている。
わたしはそのお茶を運ぼうと立ち上がって桃矢君のそばまでいった。
「撫子さんってモデルのお仕事してたんだよね」
「まあな」
「さっきさくらちゃんが写真をみせてくれたの。「撫子」って名前も教えてくれて、それで……」
わたしはそれを言うのに何となく躊躇してしまった。
「それで何なんだ?」
そのまま黙っていたら桃矢君につっこまれたので、とりあえず何でもないといってまたリビングにもどった。
それにしてもきょうの桃矢君は機嫌が悪い。それもそう、さくらちゃんが池で溺れかけたんだから。
わたしはソファーに座ってからゆっくりと口をひらいた。
「怒ってるの?さくらちゃんのこと」
「あたりまえだ。さくらのやつ、また危ねぇことしやがって」
すごい力の持ち主桃矢君はなんでもお見通しだった。
今回の事件がクロウカードのせいで起こったってことに気づいてる。
「きのうあの池にいたのは、さくらが心配だったからか?」
「そんな感じ、かな」
「……ったく」
桃矢君は大きなため息をした。
「さくらちゃん、きっとまた池にいくわ」
「だろうな」
「だからわたし、みはってる!」
わたしは思いきって桃矢君にそういった。というよりも、勝手に口が動いていた。
「わたしがさくらちゃんのこと守らなきゃって思うの」
さくらちゃんのことを守るなんてちょっと大袈裟なことをいってしまって恥ずかしくなったわたしは、おもわずうつむいた。
そんな大袈裟なことを言ったわたしをみて怒る気もなくなったのか、桃矢君はくすくす笑いだした。
「わ、笑いすぎよ!」
「無茶だけはするなよ」
桃矢君はやさしく微笑んでそう言ってくれた。
「お前が無茶して、もし怪我でもしたら意味ないだろ」
「うん、……わかってる」
わたしはその日の夜、またペンギン大王公園にきていた。
すると思った通りにさくらちゃんはやってきた。
きのうよりもより近くにいって二人とぬいぐるみの会話が聞こえるところまできた。一応気づかれてはいないはず。何かあったらわたしが助けなくちゃ。
「何かあったらかならず知らせてくださいね」
「無茶はあかんで」
「うん」
そうしていたらすぐ池の水がうずまきはじめた。
「見てみ!」
オレンジいろのぬいぐるみが指さしたところがパアッと光りだす。
そこにはきょうさくらちゃんに見せてもらった写真と同じ撫子さんが現れた。
「写真と……おんなじや!」
「さくらちゃんのお母様!?」
さくらちゃんはクロウカードを使って池の上に現れた撫子さんの近くへと飛んだ。
たぶんあのカードは前につかまえた鳥のカードだと思う。
「どうしてここにいるの、何がいいたいの?」
撫子さんはまるでさくらちゃんをこっちにおいでと招くように両手をひろげている。
そしてすぐそばまできたさくらちゃんを抱き寄せて池の中に消えてしまった。
「さくらちゃん!」
「さくら!」
わたしは必死に思わず前に出そうになるからだを抑えた。ここで出ていったら、あとで上手に説明ができない。
それでもあと少ししてもさくらちゃんが出てこないなら、助けなきゃ。
今はさくらちゃんを信じるときだと思った。
そう思っていた直後、池の中からさくらちゃんが飛びだしてきた。
「お母さんはこんなことしない!」
さくらちゃんがそう叫んだ瞬間、今まで撫子さんにみえていたものがユラっと画像がぶれるようにゆらいだ。
「あの模様に見覚えあるで!そいつは『クロウカード』や!」
「カードはどこにあるの!?」
「おそらく池の中や!」
「
すると池の水が生き物みたいに動いて、下の地面がむきだしになった。
「カードですわ!」
下の地面にはカードがきらきらと光っている。
「汝のあるべき姿へ戻れ!『クロウカード』!」
さくらちゃんはさっき捕まえたカードをもってお友達とぬいぐるみのところまでもどってきた。
「こいつは
「どういうことですの?」
「
するとお友達は何か思いだしたように話しだした。
「……そういえば、わたしまえにここを通りながらペンギン大王のこと考えていましたわ。こんどすべってみようかしらって」
わたしはこの池でおっきなカレーライスを見た日のことを思いだした。
たしかにあれは買い物にいった帰り道で、カレーを作ることばっかり考えていた気がする。
さっきまで撫子さんが見えていたのは、みんな撫子さんが出てくると思っていたからなんだろう。
そんなカードがあるんだと感心していたら、さくらちゃんはカードをにぎりしめて泣いていた。
「でもよかった、お母さん、この池で一人ぼっちじゃなくて」
「会えたらうれしいけど……でも、お空の上のきれいなところにいてくれたほうが、もっとうれしいもん」
「もちろんや。さくらこんながんばってんのや、お母はん安心してはるて。ま、今回は心配やったかもしれんけどな」
わたしはなんだかほんわかした気持ちになった。
それはきっとさくらちゃんの、撫子さんを大好きな気持ちが伝わってきたから。
なごやかにしゃべっているのを見て安心したわたしは、ばれないようにその場をあとにした。