休みの日にお買い物をして帰ってくると、お母さんからの手紙が届いていた。
この数週間、仕事で忙しかったからなのかまったく返事がこなかったから、いつもよりも封を切るのに胸が高鳴った。
まなみへ
お手紙すこし遅れてしまってごめんなさい。
わたしは今、中国にきています。中国にきたのははじめてなの。意外でしょ?
それと実は最近日本に行きました。連絡したかったんだけど、仕事で忙しくて時間があくかわからなかったからやめておきました。
会えるって期待させちゃったら悪いと思って。
でも今度日本に行くときは絶対に時間をつくるわ!
あと最後にもうひとつ、日本に行ったときに園美ちゃんに会いました。忙しくてあんまりお話はできなかったんだけど。覚えてるかしら?
天宮さんのお孫さんで、あなたが小さい頃よく遊んでたでしょう。
あなたが日本にいるって言ったら是非会いたいって言ってたわ。連絡先を教えてもらったから連絡してみてね。
お母さんより
わたしのお母さんは有名な菓子メーカーを経営していたお祖父様のあとをついで社長になった。
そんなお祖父様の友人だったのが天宮さん。小さい頃によく遊んでもらったのがその天宮さんのお孫さんの園美さん。
そのときのわたしにはむかしの映像がよみがえっていた。
今まで全然覚えていなかったのに、思い出したのと同時に次から次へと映像がよみがえってきた。
そして昔のことを思いだしているうちに、ふと気づいたことがあった。
思いだした記憶のなかに、まえにさくらちゃんのお見舞いにいったときみせてもらった、撫子さんにそっくりな人の写真があったのを思いだした。
おもえばいつだったか園美さんに写真の人について聞いたことがあるような気がする。
でもそれが誰だったのか明確に思いだせない。
桃矢君達のお母さんにそっくりなことも何だか気になった。
わたしは便箋の裏側に書いてあった番号を確認して電話をかけてみることにした。
プルルルと音がきこえるとすぐに相手側の声がしたから少しびっくりした。
「はい、大道寺です」
「あ、森下です。えっと、園美さんは……」
「森下様ですね、少々お待ちください」
何も用事を伝えていないのに、受話器からきこえる高い声の女の人は、待っていましたというように受け答えをしてくれた。
「もしもし?園美よ、お久しぶりねっ!」
「……っ園美さん!お久しぶりです」
電話ごしに聞こえる懐かしい声に、おもわず声が上ずってしまう。
「お母様からきいてたから、いつ電話くれるかしらって楽しみにしてたのよ?」
「わたしも、園美さんの声がきけるなんて、すごくうれしいです」
「本当に久しぶりね……もう高校生なんでしょう?」
「はい!おかげさまで」
たわいもない会話にはながさくと、園美さんは頑張って予定をあわせるから、と家に遊びにこないかといってきた。
「でも、お仕事忙しいんじゃないんですか?」
「だいじょうぶよ、何とかするから!」
やや強引に、さっそくいつが暇なのかと聞かれた。
わたしはほとんど暇だからいつでも予定があわせられるけど、園美さんは忙しくて予定がなかなかあいそうじゃなかった。
「やっぱり会うのは無理なんじゃ」
「あ!ねぇ、いまからはどう?いまからなら何の問題もないわ」
「た、たしかに暇ですけど、ちょっと急すぎません?」
「じゃあ決定ねっ!車で向かえにいくから住所教えてくれないかしら?」
「……園美さん……」
ちらりと時計をみると、針はちょうど夜の7時半ごろをさしていた。
「もう夕飯は食べた?」
「まだ、ですけど」
「よかったわー!家でいっしょに夕飯食べましょうね」
「わたしそんなつもりじゃ!」
「いーのよいーのよっ、それで住所は?」
いますぐ会えなんて嬉しいと思ったけど、なんとなくそうじゃないような、変な気持ちになった。
一応住所を伝えると、「いますぐいくわ!」とすごく気合いのこもった返事をかえされた。
園美さんの勢いにぽけーっとしてしまったわたしは我にかえり、急いで服を着替えなきゃとクローゼットをあさった。