12 ずっと気になってた!〈1〉




「さくらちゃんすごーい!」
「ほんとうに足速いんだね」
「まあそれ以外取り柄がねえからな」

 きょうは友枝小学校の運動会。
 月城君といっしょに木之本家の団らんにお邪魔して、さくらちゃんの応援をしている。

 それにしてもさくらちゃんは運動神経がいい。
 兄妹そろって運動神経がいいなんて、うらやましいな。

「それお弁当?おっきーい!」

 さくらちゃんは桃矢君が両手にもっていた大きな包みを指さした。

「桃矢とまなみといっしょに作ったんだよ」
「たくさん作ったから楽しみにしててね」

 朝はやくから3人で作ったから愛情はたっぷり。あきらかに人数分より多いとわかる包みに少し笑いそうになる。

「父さんは大学の発表会がおわったらすぐこっちにくるとさ」
「お仕事だもん、しょうがないね」

 さくらちゃん達のお父さんは大学の講師だからけっこう忙しいのか、きょうはまだこれていなかった。

———チアリーディング部の人は入場門前に集まってください。繰り返しますチアリーディング部の人は……

「さくらちゃんも出るの?」
「はい!」
「写真いっぱい撮るね」

 さくらちゃんは恥ずかしそうに微笑んでから、桃矢君に月城君の写真を撮っておくように頼んでいた。
 それからチアリーディング部の演目の準備があるからといって、さくらちゃんはそこから走り去っていった。

「さくらちゃんに怒られないように上手に撮らなきゃね」
「……からかってんのか?」
「ううん、違う違う!…………ふふっ」
「笑ってんじゃねぇか」

 わたしはなんだか家族といっしょにいるみたいな気持ちになった。桃矢君と月城君はお兄さんみたいで、さくらちゃんは妹みたい。

———わたしいま、幸せ……。

 月城君と桃矢君と仲よくなれたことにあらためて感謝しなきゃなと思った。




「ほんとうによろしいんでしょうか」
「もちろんだよ!ほら卵焼き、おいしいよ」

 知世ちゃんもいっしょにお弁当を食べることになって、みんなでお弁当をかこんでいた。
 そして桃矢君がコップに飲み物をついでいる横で、月城君はものすごい勢いで卵焼きをほうばっていた。

「あ、ごめんね、ぼくばっかり食べて」

 いつも落ち着いてる知世ちゃんも少し苦笑いをしていて、その隣ではさくらちゃんも同じように苦笑いをしていた。
 どうやら月城君がたくさん食べているところをはじめて見たみたいだった。

「いっぱい食べるっていいですよね!」
「お弁当箱が重いけどね」

 するとものすごい速さで、スーツを着た男の人がわたし達のところにむかって走ってきた。

「ごめん遅れて!」
「お父さん!」

 さくらちゃんが叫んだ通り、この男の人がさくらちゃん達のお父さんらしい。
 桃矢君から聞いたことがあったから歳は知っていたけど、それよりも若くみえたから驚いた。

「あー……チアリーディング部の演目に間に合わなかった、」
「わたしビデオ撮りましたから」
「ぼくも写真いっぱい撮りましたから」

 さくらちゃんのお父さんは残念そうに、さくらちゃんの髪をなでた。

「ごめんね、さくらさん」
「ううん!走ってきてくれてうれしい!」

 いつもよりも数倍うれしそうに笑っているさくらちゃんをみて、さくらちゃんのお父さんを大好きな気持ちが伝わってきた。

「そちらの方は?」
「まなみさんだよ!」
「ああ、桃矢君のお友達ですね」
「はじめまして、森下まなみです」
「木之本藤隆です」


 さっきまで走っていたとは思えないとても爽やかな笑顔で挨拶をしてくれた藤隆さんに、何だかすごく癒された。
 すると藤隆さんは肩からさげていたクーラーボックスを置いて、中をみせてくれた。

「はい、きのう作っといたんだ」

 クーラーボックスの中にはおいしそうなゼリーが入っていた。

「まなみさんもどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」

 ゼリーは冷えていてとってもおいしかった。
 わたしのお父さんも料理は上手だったけど、藤隆さんには負けると思う。

「藤隆さんってお料理上手なのね」
「うちで何でも一番上手いのは父さんだかんな」

 わたしはお世辞なんかじゃなく本当に素敵なお父さんだなと思った。