13 いま気づいたんだ〈1〉

 


 ちょうどゆきが用事があるから、と教室を出ていったときだった。

「ねぇ桃矢君、土日あいてたりする?」
「日曜ならあいてっけど?」
「お買い物、付き合ってくれないかな」

 きのうの休み時間にまなみが遠慮をしながらおれとゆきの誕生日を聞いてきた。
 今まで誕生日を聞いたことがなかったから、と手帳をスタンバイしていたらしい。誕生日を聞くとすぐに日にちを手帳に書きこんでいた。

「月城君のお誕生日もうすぐだから何かプレゼントしたいんだけど……」

 まなみは申し訳なさそうに眉をさげていった。

「ようするに何買ったらいいかわかんねぇってことか」
「あ、うん!……いいかな?」
「ああ」
「ほんと?ありがとう」

 途端にぱあっと明るくなったまなみの表情におもわず自分も笑ってしまった。

 それからすぐに、もう用事をすませたのかゆきが教室に帰ってきたのでおれはその表情をみられないようにこらえた。
 ゆきにさっきの顔をみられたら多分からかわれるだろうから。

「……ん?何かいいことでもあった?」

 こんな風にたまに鋭いことを言うからこっちはたまったもんじゃない。

「……何もねーよ」

 ちらりとまなみをみたら、ゆきにはプレゼントを買いにいくのを知られないようにとジェスチャーでおれに伝えているみたいだったからとりあえずそうした。

 一応、日曜日にまなみと買い物にいくのはゆきの誕生日プレゼントを買いにいくためだから、それは秘密にしなきゃならない。

「月城君ほらっ……、用事って何だったの」
「用事っていってもたいしたことじゃないんだけど、えっとね……」

 まなみがゆきに話しかけてくれたおかげで、どうやらゆきはさっきのことは忘れてくれたらしい。

———キーンコーンカーンコーン……

「あ、先生きちゃった……また後で話すよ」
「うん」

 礼がおわった後にまなみは小声で、また後で日曜日の予定をたてようといった。
 それから放課後までずっとまなみが嬉しそうにみえたから、きっと日曜日を楽しみにしてくれているんだと勝手に思っておいた。

 それと、本当は心のなかで日曜日を楽しみにしている自分がいたのをまなみに知られるのが恥ずかしくて、おれは必死に隠していた。








———ちょっと早すぎたか……?

 きょうは商店街で15時に待ち合わせになっていたが、まなみを待たせちゃいけないと思い少し早めに家を出ていた。

 歩きながらちらっと腕の時計をみると、時計の針は14時45分をさしている。


「とーや君っ!」

 かどを曲がってすぐ、待ち合わせ場所にまなみがいるのがみえた。
 おれを確認したと思ったらこっちに向かって小走りでやってきた。
 寒さでまなみの頬が真っ赤で、何だか前にたっているこっちが恥ずかしくなる。

「桃矢君早かったね!まだ15分あるよ」
「おまえこそ早いだろ、……待ったか?」
「ううん、わたしもついさっき。桃矢君を待たせるなんて嫌だったから」

 じゃあいこっか、と言ってまなみは歩きだした。




 商店街にはクリスマス前の土日だからか、家族連れやカップルが嫌というほど沢山いた。

「それで、プレゼントなんだけど」
「何か考えてきたのか」
「一応……冬だから、マフラーなんてどうかなって思って」

 まなみは買うものに目星をつけていたのか迷いなく店にはいっていった。
 その店の中にはたくさんのマフラーがならんでいて、その前には人だかりができていた。

「マフラーにしようとは決めてたんだけど、好みだとかわからないから」

 こいつは心配性すぎると思った。
 たぶんまなみのセンスなら変なものは選ばないだろうし、まなみからもらったもんならゆきは何だって喜ぶだろう。

 まなみは一つひとつ手にとってどれがいいか考えている。みた感じではたぶん消去法らしい。

「これなんだけど……」

 なんとか4つにしぼりこめたのか、どれがいいかときいてきた。

「お前はどれがいいと思うんだ」

「う、あ、……これ……かな」
「なら、それがいい」
「これ?」
「ああ」

 おれはまなみがいいと言ったやつを指差した。
 まなみが選んだものに間違いはないと思ったし、それが1番だとおれ自身も思ったから。
 まなみはわかったと言ってすぐレジにむかったが、店内はもちろんレジもこんでいた為におれは入口の近くで待つことにした。

 それからレジをおえたまなみがこちらにやってきた。

「ごめんね、ラッピングしてもらうからもうちょっと時間かかりそう」
「わーった」

 おれはふと店の壁にかかっている時計をみた。

 思えば今日15時に待ち合わせをして、ゆきへのプレゼントを選んで、まだ1時間もたっていなかった。

「まなみ、これから用事あるか」
「ん、ないよ?」
「ならちょっとつきあえ」

 せっかく楽しかったのに、これだけでおわるのは少しもったいない気がした。
 急に言われたことにまなみは驚いているみたいだった。

「どこか行きたいところでもあるの?」

 そうきいてくるまなみは、決して嫌そうな顔もせずにむしろどこか楽しみだというような顔をしていた。

 それはきっとおれの思いこみではなかったはずだ。