13 いま気づいたんだ〈2〉
「きょうはお買い物手伝ってくれてありがとう、助かりました」
「おれはほとんど何もしてねえから、気にすんな」
おれとまなみはマフラーを買った店を出てから、とりあえず色々な店をまわった。
いつの間にか空は真っ暗になっていて、気がつけば時計の針はもう8時前をさしていた。
「人すくなくなったね」
「もう遅いからな」
商店街の道沿いには、どこもかしこもイルミネーションが飾られていて印象的だった。
「すごく綺麗……」
まなみはやっぱり女だ、イルミネーションをみるなり目を奪われていた。
さっきまで歩いていた足は止まっていて、顔はななめ上を向いてそのイルミネーションを眺めている。
「イギリスも、クリスマスは街中イルミネーションだったの」
おれはまなみの少し後ろにたっていた。
人通りの少なくなった歩道には、おれとまなみと、道の先にひと組のカップルがいるだけ。
「小さい頃は、お父さんとお母さんと手つないで歩いて」
まなみはおれに背中を向けたままだった。
ただ、さっきまでななめ上をみていた顔はいつの間にか下をむいている。
「楽しかったな……」
そしてこっちに振りかえったまなみの顔は、笑いながらもどこか悲しそうだった。
「どうした?」
無理に笑顔をつくろうとするまなみに少し近づいた。
そして気がつけばおれはまなみの頭を、なだめる様に撫でていた。
はじめは頭を撫でられてることに戸惑ってるのか口を開かなかったまなみも、それになれたのかゆっくりと話しだした。
「両親と生活してたときのことを思い浮かべるの」
「…………」
「たまにね、さみしくなるんだ……会いたくなるの」
ちょうどそのとき近くの店からクリスマスソングが流れてきた。
ホワイトクリスマス、といっただろうか、ゆったりとしたメロディが英語の歌とともに店内からうっすらときこえてきた。
それはまなみの耳にもはいったのだろう、少し呼吸する合間にチラリとお店の方に視線を向けて、ほんの少しだけ笑った気がした。
「2人とも仕事で忙しいから、会えないってわかってる」
そして一言ひとこと話す度に抑えられないものがあったんだろう、まなみの目からは涙がながれていた。
「わがままだってわかってる……っだけど、」
「黙ってろ」
そんなまなみの姿をただ見ているのは辛くて、耐えきれずおれはまなみの頭を抱き寄せるみたいに自分の胸に押しあてた。
「何も言わなくていい」
こいつの気持ちが痛いほど伝わってきたから。
親がそばにいないっていうさみしさが、そしてそれを自分のわがままだとかたづけてしまうことも。
よく気をつかうこいつのことだから、きっとおれに話すのにも躊躇したはずだ。
おれの母親がもうこの世にはいないことを考えて、親がこの世にいるのといないのとではさみしさだって違うはずだ、とでも思ってるんだろう。
「話、あとで聞いてやる……いまは黙っとけ」
そっと近づけたまなみの肩は震えていた。
自分より小さいのは当たり前だ。
けれど寄せた肩は思っていたよりも華奢で、思わず触れた髪の毛はふわりと柔らかかった。
「ありがと」
そしてやっと聞こえた声はすごく小さくて弱々しかった。
いまここで何もしなかったら、まなみはそのさみしさを抱えたまま一人家に帰らなくてはならない。
彼女が落ち着くまでは絶対にひとりにさせちゃいけない、とそう思った。
小さな身体で、いままで誰にも愚痴や悩みをこぼすことなく隠していたまなみ。
きっとそれは無意識だろう。
おれはそんなまなみから目がはなせなくて、ずっとまなみを抱きしめていた。
「ごめんなさい……!」
急に泣きだしてしまったことをよほど後悔してるのか、まなみはおれにむかって何度も何度も謝ってきた。
まなみが泣き止むまでとりあえず近くにあったベンチに座らせておいたらこれだ。
「だから、いいっつってんだろーが」
「でも、イルミネーションみて急に泣きだすなんて迷惑だったよね……本当にごめんなさい!」
「…………」
別に気にしてなんていないのに、終始まなみはぺこぺこと頭をさげていた。
「親に会いたいと思うのは、わがままなんかじゃねーから」
「!」
「さみしくなったら、おれを頼ればいい」
なにも、ひとりでかかえこむことなんかないのに、こいつは甘え方を知らない。
「たまには、人に甘えたっていいんだ」
少しでもまなみの役に立てたらそれでいいと思った。
「意地悪なんだね、桃矢君は」
「?」
「優しすぎるんだってば、」
街灯に照らされているまなみの顔には泣いたあとがのこっている。
でもいまはちゃんといつもの笑顔だった。
「もう平気か?」
「うん、だいじょうぶ」
「なら帰るか」
そういっておれ達は立ちあがって歩きだした。
「ねぇ桃矢君」
「ん、」
「このプレゼント、月城君喜んでくれるかな」
「ゆきなら絶対喜ぶ」
「絶対?」
「ああ、絶対だ」
いま気づいたんだ
(おまえの笑顔を、おれはみていたい)