02 もう、友達〈1〉




「あやー…迷子になっちゃった…」

 朝張り切って家をとびだして、さっそく道に迷ってしまった。
 今日から学校だ、と浮かれていたわたしは、調子に乗って以前学校に行った時とは違う道を通ってしまった。
 学校には転入の手続きで何度か行ったことがあったけれど、正直、正確な場所までは覚えていなかった。

 知らない道なんて通るんじゃなかったと後悔しながら、自転車をおりてとぼとぼ歩いていたら、自分と同じ星條高校の制服を着た男の子が立っているのがみえた。
 そこに立っている男の子からは何か不思議な感じがして、一瞬わたしは足をとめてしまった。
 でもこういう不思議な感じは初めてじゃなかったから、特別気にはしなかった。

「すみません、星條高校まで行きたいんですけど道がわからなくて」
「……1年生のこかな?」

 星條高校の制服を着てるのに星條高校の場所がわからないというわたしに、男の子はわたしのことをまだ学校に慣れていない1年生なんだ、と判断したらしい。

「に、2年生です、この辺りに引っ越してきたばかりで」
「じゃあ転校生とか?」
「はい」
「ぼくもこの辺りに住んでるんだ。えっとね、学校はこの道をまっすぐ……」

 不思議な男の子は、わたしに丁寧に道を教えてくれた。

「そうしたら友枝小学校があるから、わかると思うよ」
「わかりました!ありがとうございます」

 お礼を言って、わたしは自転車をまたいで走りだそうとした。

「あ、ちょっとまって」

 急に呼び止められたと思ったら、男の子は右手でさっとアメをさしだした。

「ぼくも2年生なんだ。学校で会ったら、よろしくね」
「あ、うん……!よろしくお願いします」

 男の子が素敵な笑顔をうかべて言ってくれたから、わたしも精一杯の笑顔で返した。
 わたしはアメを受け取ると、なんだか友達になれそうなんて心をはずませなから自転車を走らせた。


 人間じゃないんだ、あの男の子。
 教えてもらった道を進みながら、さっきの男の子のことを考えた。
 はじめに感じた不思議な雰囲気はそれだった。
 でも悪いものじゃないと思ったし、むしろこっちが癒されるような感じがした。

 はやく学校着かないかなあと、わたしは自転車をこぎながら、これからはじまる新しい学校生活のことを考えた。








 桃矢と雪兎の2人は学校の駐輪場から教室に向かっていた。

「とーや、知ってる?今日転校生がくるみたいだよ」
「……転校生?なんでゆきが知ってんだ」
「朝、たまたま家の近くで会ったんだ。ご近所さんみたいだよ」

 しばらくして教室の前までたどり着いた2人がまばらな朝の挨拶が飛び交う教室に入ると、数分後早速学年主任の教師がやってきた。
 いつもとは違う出来事に教室中がざわざわしている。
 実は朝から教室に新しく机が用意されている、と盛り上がっていたところだったので、さらに教室は騒がしくなった。
 そして見知らぬ女子が教師の横に立っていることにみんなが釘付けになり、やっぱり転校生だったんだと口々に言う。

「急なんだが、転校生を迎えることになった」

 教師がしゃべりだすと、さっきまでの騒ぎは一瞬でなくなり、とても静かになった。

「森下まなみです。よろしくお願いします」

 こちらに気がついたのか、雪兎と目があうと、まなみはにこりと微笑んだ。

「あいつがゆきの言ってた転校生か?」
「偶然同じクラスなんて、なんだか仲良くなれそうだね」

 人懐っこい笑顔にクラスの雰囲気が和やかになると、男女共に「よろしく」「仲良くしようね」と声がかけられる。
 そしてまなみが用意されていた席につくと、先程の教師からたくさんのプリントを貰っていた。

 偶然にも近い席になった桃矢と雪兎はまなみに「よろしく」と声をかけた。

「さっきはありがとう」
「気にしないでよ。……あ、ぼくは月城雪兎」

 よろしく、と笑顔で挨拶する。

「それと、こちらもご近所さんになると思うよ」
「……木之本桃矢、よろしく」
「こちらこそ、よろしくね」

 教師の説明では家庭の事情で急な転校になったとされていたが、桃矢には何故だかそれは違う気がしていた。
 根拠は何もないけれど、彼女が転校してきた事が何かしら自分の生活に影響するのだろうと、この時桃矢は頭の片隅で考えていた。