15 このあと街は大騒ぎ〈2〉




 その日の夜、わたしは当たり前のように商店街にきた。もちろんそれはさくらちゃん達がくると思ったから。
 あのお店に李小狼君がきた後、何にも買わないで帰ってきてしまったことがちょっとだけ残念だけど、いまは食べ物よりもクロウカードのほうが大事。

 あの感じは絶対にクロウカード。
 別にわたしがここにいたところで、さくらちゃんがクロウカードを集めることになんの手助けも出来ない。
 でも前みたいにさくらちゃんが危なくなったら、すぐに助けることができる。

 わたしがここへきてから30分ほどでさくらちゃん達がやってきた。
 前と同じように、知世ちゃんとオレンジいろのぬいぐるみをつれて、可愛らしい衣装でやってきたさくらちゃん。
 あのぬいぐるみは確かケロちゃんとかなんとか呼ばれていたと思う。

 わたしはその場にいるのがばれないように、さくらちゃん達からみた死角に隠れた。
 当たり前のようになにかの気配を感じる。

———あの電柱あたりから!

 おそらくそれはクロウカードのはず。でもいったいどんなものなのかはわからない。
 前にクロウカードをみたときは、実際に大きな鳥だったり、撫子さんの幻をみたけど、今回は何も確かなものの姿をみてはいなかった。

「あそこ!」

 さくらちゃんが急に叫んだと思うと、さっきの電柱からのびていた影がぐらっとゆれて動きだした。

「『フライ』!」

 さっきの影がまるでさくらちゃん達を包みこむみたいに地面からのびると、それから逃げるようにさくらちゃんは魔法で杖に羽をはやして空中へと飛んだ。
 同時に知世ちゃんを安全なところへと避難させている。

「これ、なに!?」
『影』シャドウや!」

 その見た目通りにクロウカードの正体は影らしい。
 あらゆる建物の影からものすごい勢いで影がのびてきた。

「気ぃつけやさくら!そいつは!」
「きゃあっ」

 のびた影がさくらちゃんの杖の羽をとらえて引っぱっていた。

「そいつは影を操ることができるんや!」

 するとさくらちゃんは魔法で風をおこさせてその影から逃げ出した。
 わたしはそれに安心してひとまず胸を撫でおろした。

「まだ手こずってるのか」

 急にきこえた声に驚いて声のした方向に目を向けると、そこには李小狼君がいた。
 しかもなにか式服みたいな服を着ている。

———李小狼君もこのクロウカードの関係者なの?

『影』シャドウは攻撃カードでこそないけど、クロウも扱いには困っとったくせ者なんや!」

 ここに現れたのは、てっきり李小狼君がさくらちゃんを助けにきたんだと思ったけれど、あのケロちゃんっていうこの話し方を聞くかぎりそういう訳じゃなさそうだ。
 むしろ敵なんじゃないかってくらいの扱い。

!」

 李小狼君はふだみたいなものをなげた。
 確か月城君の誕生日のとき、桃矢君の腕に投げつけられたふだと同じようなもの。
 でもなげられたそのふだは影をすり抜けてしまった。

『影』シャドウはわいらに触れるけど、わいらは『影』シャドウには触られへんのや!」

 ケロちゃんと李小狼君は「物知らず!」「だれが物知らずだ!」と言い合っている。

「あぶない!」

 知世ちゃんがそう叫んだときには、すでに影がさくらちゃんと李小狼君に向かって襲いかかろうとしていた。

「李君!」

 李小狼君は前に出てさくらちゃんをかばうと、背中にかけていた大きな刀を抜いて何か呪文のようなことをいいはじめた。

雷帝招来らいていしょうらい…… 急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう…… 雷撃らいげき!」

 すると刀が光って、まわりに雷がおちた。

———すごい……夜なのに周りが明るくなった!

「そうか!影は光が当たったら消えてしまう!さすがクロウの一族、クロウカードのことちょっとは知っとるようやな!」
「でも、あの方法では対処しきれないのでは!?」
「くそっ!」

 安心したのもつかの間、すぐに影がまた襲いかかろうとしている。

「ケロちゃん!どうすれば『影』シャドウをカードに戻せるの!?」
『影』シャドウ本体を停止させることができればええんやけど……!」

———そんなのどうやって……?

『影』シャドウはクロウカードの中でも一、二を争うくらい素速いやつなんや!『影』シャドウのカード以外の影は『影』シャドウに操られてるだけや!光を当てたら消える!しかしいっぺんに光を当てんと、けっきょくまた影ができてしまう!」
「いまは夜ですわ、一度にそんなに大量の光を当てるなんて……」

 するとさくらちゃんは何か気がついたようにずんずんと前に歩きはじめた。

「おい!あぶないぞ!」
「だいじょうぶ、うまくいけば影を消せるかも!」

 何をするのかと李小狼君がポカンとしていると、さくらちゃんはまよわずに魔法をつかいはじめた。

「『クロウ』の作りしカードよ、我が『鍵』に力を貸せ……『サンダー』!」

 さくらちゃんが叫ぶと、その上に大きな虎のような光の塊が浮かんでいた。

「それじゃ、おれがやったのと……!」

 その虎が吠えるとまわりにあった電灯に雷がおちてメラメラと燃えはじめた。
 円をえがくようにならんでたっている電灯らの中心で、さっきまで暴れまわっていた影が小さくなっている。
 その燃えあがる電灯のまぶしさにわたしはおもわず目をうすめた。

「そうか!『サンダー』にはそういう使いかたもある!」
「さすがですわ」

 するとすぐに小さくなった影が、まるで布をかぶった人のような姿になった。

「『ソード』!」

 さくらちゃんが魔法をつかうと、杖が剣になって、逃げようとする『影』シャドウの本体を捕らえた。

「なんじのあるべき姿に戻れ!『クロウカード』!」

 見事にカードをつかまえたと思ったとたんに、さくらちゃんは李小狼君に駆け寄ってさっとハンカチをとりだした。

「かばってくれて、ありがと」

 さくらちゃんは李小狼君の腕の傷にハンカチをあててきゅっと優しく結んでいた。

「あなたが雷を使ったから、思いついたんだよ」

 急にされたことに照れたのか、李小狼君はすぐに去っていってしまった。

「ようやったで、さくら!」

 李小狼君が去っていって1人でたちつくしていたさくらちゃんのもとにケロちゃんと知世ちゃんが笑顔でやってきた。

 そんななか、さくらちゃん達とわたしは大変なことに気がついた。
 魔法で燃やした電灯がそのままの状態でメラメラと音をたてて燃えている。
 さくらちゃんは急いで炎を消すと、知世ちゃんとケロちゃんをつれて、空へと消えていった。

 そしてわたしも誰かに見られちゃいけない、と急いで家に帰ることにした。




このあと街は大騒ぎ
(李小狼君は関係者だった……クロウカードとどんなつながりがあるのかな……)