16 ねぇ、さっきの本当?〈2〉
学校の中ではたくさんの生徒がそわそわとしていた。
朝から教室では男子と女子の間になんともいえない空気がただよっている気がする。
そのなんともいえない空気のながれで、わたしは桃矢君達といない時にいるグループの中にいた。
「何だか大変そう」
「木之本君は毎年こうだから」
「さっきからひっきりなしに呼び出されてるもんね、もちろん月城君も」
まわりの子が言う通りさっきからいろんな学年の女子が桃矢君と月城君の席に直接渡しにきたり、二人を廊下に呼び出したりと大変なことになっていた。
正直わたしもここまですごいとは思わなかった。
「二人ともあんなにモテるのに彼女いないのよね、不思議」
「ほんとに不思議……ねぇまなみ、何か知らないの?」
「二人の好きな人とか?」
そういえばそういう話、したことがなかった。
でも2人ともかっこいいんだから、好きな子ができたら告白しちゃえば誰も断る子なんていないと思う。
「たぶんだけど……、いないんじゃないかな?」
わたしの答えを楽しそうにまっていた二人はいかも残念そうな顔をして「そっか、いないかー」と口をそろえた。
「とりあえずこの混乱は、昼までだから安心してね」
「それより後は放課後に集中するわよ」
「放課後もずっとこんな感じなの?」
わたしは二人に渡すお菓子を放課後に渡そうと思っていた。
こんなに混むなんて思っていなかったから、この調子じゃ放課後に渡すのは無理そう。
「とは言っても木之本君はクラブだし……たぶん二人ともはやく帰っちゃうから、そんなに混まないわよ」
「流石に帰り道まで追っかけてはこないでしょ」
「そう、なんだ……」
お友達のその言葉に、とりあえずいつも一緒に帰る月城君にはきちんとお菓子をわたせると確認したわたしは、ここにいる二人用に自分が作ってきたお菓子をわたした。
「二人の口にあうか心配なんだけど、どうぞ」
「わあっ!ありがとうまなみちゃん!」
「まなみ、わたしからもあるわよっ」
みんなでお菓子を交換しおえたらちょうどチャイムがなったからみんな席についた。
近くの席の桃矢君と月城君は机の上につまれた可愛らしいたくさんの小包をせっせと片付けていた。
ざっと見ただけでも20個以上はあるみたい。
「下駄箱もいっぱいで置くとこねぇんだ」
「そ、そう、」
疲れた顔をした桃矢君はそう漏らした。
わたしは流石人気者、と思いながら二人が片付けている姿をながめていた。
それから休み時間は毎回女の子が教室にきて桃矢君と月城君にお菓子を渡しにきている。
もちろんちょっとしたファンの子もいて、みんながみんな本命ってわけじゃなさそうだけど、女の子が教室に入ってくるたびにクラスの男の子達は残念そうにしていた。
放課後、いつもクラブのある桃矢君がきょうはクラブがないからといっしょに帰ることになった。
クラブのある桃矢君にいつ渡そうか悩んでいたわたしは、いっしょに帰ることになってよかったと安心した。
そしてその帰り道わたし達は自転車をおして歩いていた。
「大変だったね、2人とも」
「そんなことないよ、たくさんお菓子が食べれるしね?」
少しむすっとして何もしゃべってくれない桃矢君は別として、月城君はたくさん食べるから、ある意味このバレンタインは月城君にとってはすごく嬉しい日なのかもしれない。
これならわたしがあげても迷惑にならないと思ってかばんからお菓子を出そうとしたとき、となりの桃矢君の疲れた表情をみたら一瞬出すのをためらってしまった。
食べてもらわなくっても、あくまでも気持ちが大事。
そう思って勇気をふりしぼって勢いよくかばんからお菓子を取り出した。
「これ、わたしからも」
2人は少し驚いたのかちょっとの間無言になったけれど、月城君はすぐにこりと微笑んでくれた。
「ありがとう、まなみ!」
「月城君たくさん食べるから、量多めに入れちゃった」
「ほんと?うれしいな」
意を決して桃矢君にもお菓子をさし出すと、意外とすんなり受け取ってくれたから少しびっくりしてしまう。
するとわたしが内心ほっとしたのがわかったのか、月城君が「よかったね」というように笑いかけてくれた。
「とーやね、まなみからもらえるか心配だったんだよ?」
「心配?」
「…………」
「朝からそわそわしてたんだからー」
まるで桃矢君をからかうみたいにいう月城君がおもしろくって少し笑ってしまった。
そわそわしてる桃矢君なんて考えられない。
すると恥ずかしかったのか桃矢君はそっぽを向いてしまった。
「あ、とーや照れてる!」
「照れてねー」
それからあきらかに歩くのが速くなった桃矢君に、わたしと月城君はおいていかれまいと必死でついていった。
ねぇ、さっきの本当?
(桃矢君、さっきほんとに照れてたの?)
(だから照れてねーよ)
(もう、とーやったら意地はらないの)