17 懐かしい名前が瞳に映る〈1〉




「あ…れ……?」

 だいぶ暖かくなってきた春先、わたしは目覚まし時計に気づかずにいたみたいで、時計をみたらもう昼前だった。

 わたしはなんとなく永い間夢をみていた気がする。
 でも夢の内容は覚えていないみたいだった。

 きょうは日曜日だから遅くても何の問題もないけれど、いつもの生活リズムはくずさないでおこうとベッドから起きあがった。
 とりあえずわたしはトーストにベーコンとタマゴをそえて、コップに牛乳をよそって机にならべた。

 それからご飯を食べおわって服を着替える。
 ちょうど服を着替え終わったとき、まるで世間でいうフラッシュバックみたいに頭に映像が浮かんだ。
 この服を着替える自分をきっと夢でみたんだとわたしは思った。

———あ、まだ郵便みてなかった……。

 ふと郵便をみるのを忘れていたことを思いだしたわたしは、玄関のドアを確かめようとドアの前に立った。

———これもだ……、夢とおんなじ……。

 またフラッシュバックみたいに夢の映像がよみがえって目の前の状況と重なる。
 郵便物が届いてないかな、とドアの前に立っている自分、わたしはこれも夢でみたんだと思った。

 すると一瞬、そのドアの前に誰かの強烈な気配を感じてわたしはドアを勢いよく開いた。




 でもそのドアの前には誰もいなかった。

 それと、そこに誰かがいた気配も完全に消えている。
 さっきの気配は決して幽霊なんかじゃないってことは、部屋の中からでもすぐにわかった。
 でもドアの外側の通路を見回しても誰もいないし、アパートの前の道にも人っ子ひとりいなかった。

「気のせい、か」

 気にはなったけど、先に郵便物だと思って家の中にもどった。

 わたしに手紙をくれる人は両親か、海外の友達かに限られてるからなんとなく誰からの手紙なのかすぐわかる。
 でも郵便受に入っていた一通の手紙は切手がはられていない、ましてや封もしてない手紙だった。

———……誰……?

 手紙を手にとって中の便箋をみたら、いつだったかの見覚えがあるきれいな文字。
 わたしは無意識にそこに書かれた文章を声にだして読んだ。

「……わたしは今、日本に来ています。もう少しで会えると思うわ……」

 そして便箋の右下に書かれた名前は、観月歌帆。


「…か、ほ……」




懐かしい名前が瞳に映る
(なんとなく気づいてたのかもしれない、歌帆が日本にいるって)