18 大切な人にしか見せない〈1〉




———なんだろう……何か違う……。

 朝、わたしはいつも通りに桃矢君達といっしょに学校に向かっている途中だった。
 桃矢君とさくらちゃんの雰囲気がなんとなくいままでと違う気がして、じーっと2人を見つめてみる。
 一応桃矢君とさくらちゃんが待ち合わせ場所にきたときすぐに何か違うと思って気になってはいたけど、何が理由かはわからなかった。

———こういうときよくあるのって……。

「わかった!髪!」
「ほえ!?」

 おもわず大きな声をあげてしまったせいでさくらちゃんをびっくりさせてしまった。

「ごめんなさい!さくらちゃん」
「いえっ、そんなことないです……!」
「どうした、急にでかい声だして」

 急に騒いでしまったわたしとさくらちゃんをよそに桃矢君は落ち着き払っていった。

「もしかして、ふたりとも髪を切った?」
「……そのことか」

 何か違うことを言われると思っていたのか、大きなため息をついた桃矢君はちらっと月城君をみてから「ああ、切ったよ」とこたえた。
 やっぱり、と思っていると隣にいたさくらちゃんがボッと顔を真っ赤にさせてもじもじとしはじめたから、何かなと思ってさくらちゃんを見つめてみる。

「ゆ、雪兎さんに切ってもらったんです……!」

 わたしは思いがけない台詞にびっくりしてしまった。
 それは、勉強が出来てスポーツも出来て器用な月城君でも、髪まで切れるなんて知らなかったからだった。

「月城君が切ったの?」
「うん、そうだよ」

 桃矢君の隣にいる月城君はいつもとかわらない笑顔をしてこたえた。

「さすが月城君、何でも出来るんだね!」
「さすがなんて……!そんなにすごくないのに」
「ううん!じゅうぶんすごいよ!」

 そんな和やかないつもの雰囲気にのまれていたのか、わたしはまったく気づかなかった。
 いつもとの雰囲気の違いは髪を切っただけじゃなかったのに、それに気づけなかった。

 わたしはなんて馬鹿だったんだろう。
 わたしの霊感みたいな力は、いつも無意識のうちに働いているはずなのに、そのときのわたしは桃矢君に危険が迫ってるなんてこと、これっぽっちも気づいていなかった。








「崖から落っこちたって……桃矢君が?」

 夜、さくらちゃんから電話がかかってきたから何かとおもえば、桃矢君が崖から落ちてけがをしたらしい。
 あんなに運動神経のいい桃矢君が崖から落っこちるなんてはじめは冗談かと思ったけれど、どうやら本当みたいだった。

「雪兎さんとまなみさんには、今すぐに伝えたほうがいいと思って……」

 電話ごしのさくらちゃんの声は、いつもの明るい声とは違ってとても悲しそうに聞こえた。

「桃矢君は……だいじょうぶなの?」
「おっきいけがはしなくて済んだので、……すぐ元気になると思います!」

 どうしてなのかわからないけど、わたしは桃矢君が心配でしかたがなかった。
 そわそわするし胸が苦しくなるしで頭がいっぱいみたい。
 大きなけがじゃないって聞いたのに、なぜかいてもたってもいられないみたいだった。

「今から家に行ってもいいかな?」

 後から考えたらすごく大胆なことを言っていた。
 でもその時のわたしは、自分がそんなことを言っていたなんてまったく気づいていなかった。

「そっ、そんなっ!まなみさんに悪いです!お兄ちゃんのけがならだいじょうぶですから!」
「心配なの……だめかな……?」

 無理を言っているのはわかっていた。
 でもわたしが必死になっていたのが伝わっていたのか、電話の向こうでさくらちゃんが藤隆さんと話しているのが聞こえた。

———お父さんどうしよう、まなみさんに心配かけちゃった……。
———……お父さんにかわってくれるかな?

「もしもしこんばんは、藤隆です」
「藤隆さん!お久しぶりです……」

 藤隆さんの声は初めて会ったときと同じ優しい声で、その声だけで藤隆さんのやわらかい表情が浮かんできた。

「桃矢君のこと心配してくれたんですね、ありがとうございます」
「あっ、いえ、そんな……」

 お礼を言われてなんだか恐縮してしまった。

「きょうはもう遅いし、夜道を女性1人じゃ危ないですから……どうぞ明日お見舞いにいらしてください。桃矢君ならだいじょうぶですから、安心してください」
「……すみません、でも……どうしても顔がみたくて……。それに家も近いからだいじょうぶです!」

 わたしはすごく必死になって話していた。
 それに桃矢君の顔がみたいって思いが今、わたしのなかで1番強かった。

「無理を言ってすみませんっ、でも……どうしても心配なんです……」

 電話のむこうで藤隆さんはしばらく黙っていた。

「……提案なんですが……」
「…………?」