20 『かもしれない』、なんて嘘〈2〉




 歌帆はわたしに見せたいものがあると言って神社の奥へと入っていった。
 わたしがこんな奥まで勝手に入っていいのかなと不安がっていたのが伝わったのか、歌帆はだいじょうぶよと微笑んだ。

「実家なの、ここ」
「えっ……神主さんの娘ってこと?」
「ええ」

 そして歌帆は少し待っているように言うとある部屋に入っていき、出てくると手に何かを持っていて、そしてそれをゆっくりとわたしに手渡した。

「…………鈴?」
「そう、そしてこれをさくらちゃんに渡すのがわたしの役目」

 急に鈴を見せられて、さくらちゃんの名前が出てきたから、わたしは混乱しないように頭の中を整理した。

「もう少しで、さくらちゃんがこの鈴を必要とするときがくるの」

 詳しいことはよくわからなかったけど、歌帆はこの鈴を渡すために日本に帰ってきたらしい。
 この鈴はさくらちゃんを助ける為にクロウ・リードっていう凄い魔術師が死ぬ前に月峰神社に預けておいたもので、歌帆みたいに力を持った人が月峰神社に生まれて、それに気づくのもクロウ・リードはわかっていたんだろう、と歌帆は説明してくれた。

「誰にも言ってないんだけどね」
「じゃあ、どうしてわたしに教えてくれたの?」
「うーん……なんとなく?」

 にこにことまるで月城君みたいな笑顔に何もつっこめなかった。
 それからわからないなんて答えになっていないと歌帆に言うと、彼女はこう言った。

「ただ、あなたには話さなきゃいけないと思ったの」

 笑顔はそのままに、だけどどこか真剣な歌帆の表情になんだか緊張した。
 それは歌帆の表情がすごく綺麗で、思わずどきっとしてしまったからだった。

「……ありがとう、話してくれて」
「いいえ……それよりまなみこそ、わたしに聞きたいことがあるんじゃなかったの?何かしら?」
「あ……っ、聞きそびれるところだった!」

 一瞬そのことを忘れてしまっていたわたしは、あたふたしながらも話しはじめた。

「クロウ・リードについて、歌帆は何か知ってる?」

 ずっと気になっていた。
 クロウカードのことはなんとなくわかってきていたけれど、それを創ったクロウ・リードっていう魔術師についてわたしは何も知らなかった。
 歌帆の話を聞いていると、歌帆はクロウ・リードのことをよく知っているように感じた。

「すごい力を持ってる魔術師ってことは、さっきの話でよくわかったわ。ただ、どんな人なのかな……って」

 散らばってしまったクロウカードを集めているさくらちゃんを助けるために、あの鈴を月峰神社に預けたって話が本当なら、きっと優しい人だったんだろうと思うけれど。

「変わり者……かしらね、ふふふっ」
「…………?」

 まるで誰か思い当たる人がいるみたいに思いだし笑いをした歌帆に、わたしはまた何も言えなくなってしまい、微笑んでかえすのだった。




 それからクロウ・リードやカードについて話した後、わたし達はたわいのない話に花が咲いてずいぶんと長い時間をすごしていた。

「あのときの彼、いったい誰なの?」
「ああ…彼ならいまも東京にいるんだけどあのときちょうどイギリスに遊びに来てて…」

 話は途切れることがなくて、わたしはその場に座って時間を忘れるくらいに夢中になっていた。

 歌帆のほうも会話に夢中になっていたみたいで、お互いお昼をすぎていたことにこの時は気がつかなかった。

「ねえまなみ……好きな人、いる?」

 話しているなかでいわゆるガールズトークもたくさんしたけれど、直接こんな質問はしてなかっただけに、少しごもってしまう。

「どうしたの、急に」
「最初に言ったでしょ?綺麗になった、って」

 歌帆はそう言うとふわりと微笑んだ。

「綺麗、いえ違うわね、いまとっても幸せそうだわ」

 確かにいまのわたしはすごく幸せだった。
 両親は遠くにいてもしょっちゅう手紙をくれるし、学校も楽しいし、家族みたいに接してくれる友達もいる。

「うん、わたしいま幸せ!それに……」
「それに?」

 歌帆に好きな人はと聞かれて、なぜか頭にあの人の顔が浮かんだ。
 もちろんその人はわたしにとってすごく大切な人。

「本当の家族みたいに大切な人ならいるわ」

 普段思ってはいても、実際口に出して言うと少し恥ずかしくなって、胸がくすぐったくなった。

———……どうして、くすぐったいの?

 わたしはあの人を思い浮かべて自分の胸に問いかけた。
 するとまた胸がくすぐったくなって、ほんの少しだけ苦しくなった。

「歌帆」
「なーに?」

 わたしはこの感覚を知らないほど幼くはなかった。
 でも自分のことなのにほんのちょっと信じられなくて、それからまたほんのちょっと嬉しくなる。

———……すき、なのかな?

「その家族みたいに大切な人のこと、もしかしたら好きなのかもしれない」

 思い切って言ったらすっきりした。

「ねっ、お昼ごはんどっか食べに行こうよ」
「あっ……ちょっとまなみ!どんな人なのかまだ聞いてないわよ!」

 わたしはすっと立ち上がって歩きだした。

 和食がいいか洋食がいいかなんて考えながら、歌帆からの質問をわざと無視した。
 それは恥ずかしくて何も言いたくなかったからで、質問のたびにまたあの人の顔が浮かぶのがさらに恥ずかしかったからだった。




『かもしれない』、なんて嘘
(どんな人なの?)
(……優しい、ひと)