21 予感〈2〉

 


 次の日、わたしは桃矢君と月城君といっしょにさくらちゃんが忘れたらしい笛を届けに外にきていた。
 笛のテストがあるのに肝心な笛を忘れちゃうなんて、さくらちゃんらしいといえばさくらちゃんらしい。
 そして桃矢君はさくらちゃんをみつけたのか大きな声でさくらちゃんを呼んだ。

「きょう笛のテストだろ、玄関にわすれてたぞ」
「あや!?……そういえばかばんのなかになかったかも……」

 こっちに向かって走ってくるさくらちゃんの後ろにはさっきまでいっしょにいたらしい知世ちゃんと李君と———


「歌帆……!」

 あまりの衝撃にわたしの頭は真っ白になってしまって、歌帆の名前を呼んだあと、その場に立ち尽くしてしまった。
 おととい会ったばかりで、まさかこんなにすぐに再会するとは思っていなかったから。

 向こうからこっちを見ている歌帆は相変わらずのふわりとした笑顔で。

「か…ほ……」
「おっきくなったね、とーや」

 急に歌帆の口から桃矢君の名前が呼ばれたことに驚いて本人のほうを向くと、桃矢君もまたわたしと同じように目を見開いて驚いていた。
 それに桃矢君も小さな声だったけれど、確かに歌帆の名前を口にしていた。

 わたしにはこの2人が知り合いだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


 さくらちゃんに笛を渡して、教室にもどってからというもの、桃矢君はずっとぼーっとしたままだった。
 話しかけても、まるで魂がぬけたみたいに上の空で。

 どうしてそんなふうになってしまうのか、その時のわたしにはわからなかった。








「まなみはあの観月先生って人の知り合い?」

 ぼーっとしている桃矢君を置いてお昼ご飯を買いに売店に来ていたとき、月城君にそう聞かれた。

「彼女の留学先がイギリスでね、知り合う機会があって、それで」
「そっか、友枝に来る前はイギリスにいたんだよね」

 同じイギリスとはいってもそう偶然知り合えるものではないけれど、月城君は納得してくれたみたいでよかった。
 「夢で会ったことがあって、そのあと知り合いになった」なんて、上手く説明出来ないし、それに言えるわけがない。

「算数の先生って言ってたよね」

 おととい歌帆と話したときに聞いたのはしばらく日本にいるっていうことだけで、友枝小学校の先生をするなんて一言も聞いていなかったから、あの時は本当にびっくりした。
 先に言ってくれていてもよかったのに、とも思ったけれど、あまり自分のことを話さないミステリアスなところがあるのが歌帆だったとも思った。

「とーやも観月先生と知り合いみたいだけど……」
「桃矢君、観月先生と会ってからずーっと上の空よね」
「何かあったのかな、観月先生と」

 何もなかったなら、ああはならないだろう。
 どちらかというといつもクールで相当のことでないと驚いたりしないから、あんなふうになっている桃矢君を見れるのはとても貴重で、クラスの子も不思議そうにしていた。

「とりあえず聞いてみようか」
「きっ、聞くの!?」

 月城君と売店から教室にもどろうと廊下を歩いていたときに、わたしが思わず大きな声を出してしまったから、廊下を行き来していた生徒が何人かわたしのほうをふりかえった。

「多分話してくれないと思うけど、いちおう……ね?聞いてみようよ」
「う、うん……」

 別に悪いことは何もしていないのに、いけないことをしているみたいにドキドキしてしまって心臓に悪いと思った。

 そして教室につくなり、月城君は迷いなく言った。

「きれいな人だったね、観月先生」

 月城君の一言に桃矢君の肩はびくりと大きく震えて、わたし達のほうから視線をわざとらしくそらせた。

「きかないほうがいい?」

 桃矢君は少し間をおいてから月城君が持っていた食べかけのパンを盗むと、それをもぐもぐと食べはじめた。
 視線は相変わらずあわしてくれない。

「……もうちょいしたら話す」

 もうちょいっていったいどれくらいなのか、気になって気になって仕方がなかった。
 わたしの頭の中は、好奇心と、でもなぜか少しの不安でいっぱいになっていた。
 歌帆はいったいいつ桃矢君と知り合ったのか、それに桃矢君があんなに動揺しているなんて、2人の間に何かがあったのだろうか。

 2人とも凄い力の持ち主という共通点があるけれど、それ以外の接点は思いつかなかった。




予感
(いますぐにまなみには言えない、おれはそう直感で思った)
(なぜかなんて自分が1番よく知ってる)