22 気づいていないふりをして〈2〉

 


 いくらさくらちゃん達がいるだろう方向がわかったとはいえ、そこまでの距離はまだまだ結構あるみたいだった。
 迷路を進むたびに力が近づいているのはわかるけれど、彼女達にはまだ会えなさそう。
 何もしゃべらずに黙々と歩いていたら、ぼーっとしてしまって何もないところなのに思わずつまずいてしまって歌帆にくすっと笑われた。

「まなみって、しっかりしてるように見えて実は結構おっちょこちょい?」
「ちょっとぼーっとしちゃっただけ!」

 それから歩きながら話がとまらなくなって、歌帆に前に会った時に恥ずかしくてあまり話さなかった桃矢君のことについて聞かれてしまった。

「とーやだったのね、あなたの好きな人」
「え?」
「あなたを見てたらわかっちゃったわ」

 そうだ、歌帆は桃矢君のことを前から知ってるんだと思ったら余計恥ずかしくなってきて、少しだけ顔が熱くなってきた。

「桃矢君が言ってた、中学2年生のときにはじめて歌帆に会ったって」
「……それだけ?」
「あ、うん。『もうちょいしたら話す』って桃矢君が」
「ふふっ、なるほどね」

 歌帆は何か自分で納得したみたいに頷くと、ニコニコと微笑んで「彼が話すまでわたしも話さないでおくわ」と言った。

 そしてわたしが話そうとした瞬間、力がぐんと近づいた気がして、2人の会話が止まった。

「近いわね」

 すると歌帆は持っていた鈴を鳴らしながら歩きだした。
 少し進むと、もうそこにいる感じがしてきて、角を曲がったところでちょうどさくらちゃん達と会うことが出来た。

「観月先生にまなみさん!?」

 さくらちゃん達はよほど驚いているみたいで、小狼君も「なんで先生達がここにいるんだ!?」と大きな声を張り上げていた。

「うちの神社の中がなんか変だったから調べてたら、巻き込まれちゃったみたい」
「うちの?」
「わたしこの月峰神社の神主の娘よ」

 「ちなみに一人娘」とつけ足すと、さくらちゃん達を落ち着かせるような優しい表情でさくらちゃんに話しかけていた。

「まなみさんはどうして観月先生と?」
「わたしは歌帆と会う約束があったの、そうしたらこんなことになっちゃって」

 まわりの迷路を指さしながら言うと、さくらちゃんが「わたし達もすんごくびっくりしましたっ」と目を真ん丸にさせて言った。

「鈴の音、聞こえなかった?」
「そういえば……なんかまわりがぐにゃってなったときに」
「気をつけてってつもりで鳴らしたんだけど、遅かったね」

 歌帆はごめんなさいと謝ると、続けてさくらちゃんに話しかけた。

「迷ってたの?」

 歌帆の問いにさくらちゃんは全力でこくこくと頷いた。

「そういう人がいたら困るなと思ってまなみと見まわってたの。じゃ、出ましょうか」
「え!?」
「ずっと探してたけど出口なんか……」

 わたしもはじめこの迷路に巻き込まれたときに出口なんてあるのかと歌帆に聞いたら、わたしに任せてと言われて、出口がどこにあるのかは知らなかった。
 疑うつもりはないけれど、本当に出口なんてあるのか不安になった。

「迷路の出方って知ってる?クイズとかでやってるの」
「片手をついて、ならやりましたわ」
「じゃ、これは?」

 歌帆は次の瞬間、「えーいっ」と持っていた鈴を壁にむけて勢いよくぶつけた。
 するとガラガラと大きな音をたてて迷路の壁が崩れていった。

「ほええええ」

 あまりに衝撃的な行動にさくらちゃん達だけじゃなく、わたしも驚いてしまった。
 一方、次々と壁をぶち壊していっている彼女はずんずんと前へ進んでいく。
 確かに壁をつっきっていけばいつかは端っこにきて出口までたどり着けるけれど、ちょっと無理矢理すぎるような気がして苦笑い。

 この時わたしは暢気にも、歌帆はとっても綺麗な美人さんなのに男らしいところがあるんだなと内心思っていた。

「出口ね」

 そしてようやく出口まで来たみたいで、わたし達は早く早くと迷路から脱出した。

「早くカードに戻さないとまた別の迷路ができるぞ!」

 迷路から出ると李小狼君がさくらちゃんに何か言っていて、それが早く魔法を使えといっているんだとわかった。

「で、でも……」
「?」

 さくらちゃんはわたし達がいるから魔法を使うのを躊躇していたらしい。

「わたし達のことなら気にしないで」
「でも、でもっ……」
「あ、じゃうしろむいてる」

 わたしと歌帆はさくらちゃん達に背を向けて、目を両手で覆った。
 すると後ろですごい音が聞こえて、呪文か何かをとなえるさくらちゃんの声が聞こえた。

「おわった?」
「はい!」
「よかったね」

 そう笑いかけるの歌帆の笑顔にさくらちゃんは、はにゃーんとしていてなんとも微笑ましかった。



「さくら!おまえ何やって……!」

 和やかな雰囲気はよく知る声に壊されて、その声の主はものすごい形相でさくらちゃんのもとまで走ってきた。

「ちょっと道に迷っちゃってたの!で、観月先生が助けてくれた…っていうか出口につれてってくれたっていうか……」

 さくらちゃんはさっきあったことを隠そうと必死になっていて、そんなさくらちゃんをかばうように歌帆がすっとさくらちゃんを背に隠した。

「いろいろあったの、しからないであげて」
「………歌帆………」

 桃矢君もおそらくクロウ・カードの仕業でこうなったんだろうとわかっているみたいで、それ以上何も聞いたり怒ったりはしてこなかった。


 そして知世ちゃんと李小狼君が帰っていくと、そこに藤隆さんから話を聞きつけたらしい月城君がわざわざこの月峰神社まで駆けつけてくれていた。
 さくらちゃんはそれが嬉しかったみたいで月城君を前にして恥ずかしそうにはにかんでいた。
 歌帆はというと、桃矢君と2人で何か話をしているみたいで、その話はすごく盛り上がっているようにみえた。
 そういえば学校で会ったときは以前から知り合いだというのに、ほとんど会話をしていなかったみたいだから、時間のある今、会話に花が咲いているのかなと思う。

 そしてその会話をしている最中、突然桃矢君が屈むように身体を歌帆のほうに傾けたと思うと、歌帆は桃矢君の頭を優しく撫でた。
 その光景をみていたら少しだけ胸が苦しくなって、思わず息がとまってしまった。

———すごく親しいんだ、2人は。

 一応それなりには桃矢君と仲よくなったつもりだから、彼が普段そんな風なことしない人だってことは知っている。
 だからどうして桃矢君がすぐに歌帆との関係のことを月城君やわたしに言うのをためらったのか、わかったような気がした。

———きっと、歌帆とのことを好きだったんだ。

 もしかしたら今も好きなのかもしれないなんて思いながら、わたしは視線を歌帆と桃矢君がいる方からはずした。
 それはもちろん、その光景を見ていられなくなったからだった。

 照れ屋な桃矢君のことだから、好きな人とかそういう感じの話は恥ずかしくって、あまり言いたくはないんだろうと思う。
 なら歌帆はどうして「彼が話すまでわたしも話さないでおくわ」と言ったんだろう。
 きっとわたしが桃矢君のことが好きだって知ってる歌帆は、わたしに気をつかって話さなかったんだと思う。
 気をつかって話せないなんて、そんなの、答えがわかっちゃうよ。

———2人は、恋人、だったの?

 勝手に浮かんだその答えは、いままで2人が話さなかった理由としては十分すぎて、しっくりとしすぎていて、この理由以外には何も想像がつかなかった。
 それが過去の話なのか今もなのかはわからないけれど、胸が裂けるように痛くなったのは紛れも無い事実だった。

 そしてこんなふうになるくらい自分は桃矢君が好きだったのかと思いながら、わたしはひとり帰ろうとその場から自転車を見つけてアパートのある方向へと歩きだした。
 これが嫉妬というのかはわからない、でも歌帆を妬ましく思うような嫌な気持ちは湧いてこなくて、とりあえずいまは落ち着こうと深呼吸をしてみる。

 すると息を吐き出すのと同時に、歌帆との話を終えたらしい桃矢君がわたしの方に向かって走ってくるのが背中越しにわかって、少しびくっとしてしまった。
 すぐ後ろまで来たなと思って振り返ると、まるで睨みつけられているみたいで、桃矢君はわたしの手首を少し強めに掴んだ。

「帰るんなら送る」
「そ、そんな、いいよ!すぐそこだし」
「だったら送らせろ……『すぐそこ』なんだろ?」

 意地悪そうな笑みを浮かべて言う桃矢君はいつもより少し強引だと思った。
 でもそんな桃矢君の気づかいが嬉しい、なんて思ってしまって。

 2人の関係に気づいていないふりをして、桃矢君の誘いにのろうとした自分がふと、すごく嫌になった。

「ごめんなさいっ、やっぱりひとりで帰るね?」
「は、ちょっ…………まなみ!」

 勢いよく自転車をこいで、わたしはその場から立ち去った。


 本当のところはわからない。
 だってもしかしたらわたしの想像は全部はずれているかもしれないし。
 でも2人は過去を話すのをためらっているようで、そんな2人が狡いとさえ思った。

 でも歌帆も桃矢君も変に隠そうとか、そんな意地悪なことなんてしないって、心から信頼できる人だってわたしが一番よく知っているから。

 まだ、と言葉を濁しても、必ずきちんと話すから待っていてくれと言ってくれたその言葉を信じられないなんて。
 本当はもう気づいているのに、なんにも気づいていないふりをしているなんて、本当に狡いのはわたしだ。




気づいていないふりをして
(話してる2人、すごく幸せそうだった)

(追いかけた方がいいんじゃない?)
(もちろんそのつもりだよ)