27 これからわたしが、貴方に〈1〉




 放課後はあっと言う間にきてしまった。
 月城君がわざわざ留守電で中テストのことを知らせてくれたのに、しっかり勉強もしたのに、放課後のことで頭がいっぱいでテストの出来は最悪だった気がする。
 ちゃんと問題が解けていたのかさえわからないのは緊張しているからだ。

「痛っ……!」
「何ぼーっとしてんだ、帰るぞ」

 頭を鞄で軽く叩かれて桃矢君が後ろにいたことに気づく。
 振り返れば相変わらず視線を合わせてくれない桃矢君がいて、2人の間には気まずい空気が流れている。
 そしてそのまま一言も話さないまま校門までくると、流石にこの沈黙が辛くなって今日の中テストはどうだった、なんて質問をしてしまった。
 賢い桃矢君にどうだった、なんてまったく意味のない質問に「まあまあだな」ときちんと答えてくれる桃矢君。

「まなみ」
「?」

 校門をちょうど出たすぐのところで声をかけられる。
 けれどその声は一緒にいた桃矢君のものではなかった。

「………っゴメン、タイミング最悪だったね」
「ウィル!」

 驚いたまま固まっているわたしを見兼ねて、桃矢君は一体何事なんだと目の前のウィリアムに視線で助けを求めているみたいで。

「あー…、僕は吉瀬ウィリアム。まなみのお友達。彼女に用があったんだけど……今日のところは帰らさしてもらうよ」

 ウィリアムはそう言うと、わたしには何も言わせないまま嵐のようにさっと帰ってしまった。
 はじめは警戒しているような表情をしていた桃矢君もそんな彼の行動にあきれているみたいだった。

「何だったんだ、アイツは」
「用事って何だったんだろうね、ははは……」

 彼の行動にわたしの変な緊張感はなくなったものの気まずさは相変わらずで、お互いの目は合わせられないでいた。

 でもこのまま帰るなんてせっかく月城君が2人きりで帰らせてくれたのに意味がないと思ったわたしは勇気をふりしぼって寄り道を提案した。

「ちょっと、寄っていかない?」
「ん?…ああ」

 そうして帰り道の途中にある公園の近くの散歩コースのようなところに自転車をとめて、わたし達はゆっくりと歩きはじめた。




 ふわっと風がふくだけで、その風の通り抜ける音にびっくりしてしまうほどには2人は静かだった。
 別にいままでだってお互い無言でいたことは幾度となくあったのに、本日何度目かの沈黙に少し疲れていたのは確かで。
 むしろ何も話さなくてもいっしょに居るだけで落ち着けて、変な気をつかわなくてもよかったのが、いつものわたしと桃矢君だったはず。

「あ、あのね……桃矢君」
「何だ」

 いつも通り冷静にみえる桃矢君だけれど、多分、緊張しているような気がする。

「あの…さっきの子、ウィリアムのことなんだけど、すっごくピアノが上手なんだ」
「ピアノ?」
「うん、イギリスで同じ先生達に教わってたの」

 いつもは心地のいい沈黙がこの時ばかりはたえられなくて、とりあえずウィリアムの話題を出した。
 本当はあんまりウィリアムのことを話したくはなかったけれど仕方が無い。

「わたしの親友」

 だってわたしの初めての恋人だった人だから。

 いまは本当に大切な親友だけれど、付き合っていた頃はそれなりに恋人らしい関係だったと思う。
 ただ、わたしの彼に対する『好き』は、親友以上の『好き』にはならなかった。
 でも好きだったのは確かで、その時のわたしは彼のことを特別な存在だと思っていた。
 気づいたときにはもう充分に家族みたいな存在になっていたウィリアムは、わたしにとってある意味恋人以上の存在で。


『どうして、って聞いてもいい?』
『ウィルがわたしにくれる愛と、わたしがウィルにあげてる愛は、少し違う気がするの』
『違ってたらダメなの?』
『わからない……でもウィルに申し訳がないって思うわ』


 ウィリアムは本当に優しくて、わたしに沢山の愛をくれていた。もちろんそれは今もだけれど。
 それはわたしにとって親からもらう愛情とかわらなかったのだと、そう思う。

「あ、急に黙ってごめんなさい……」
「別に……その前からお互い黙ってたろ」
「そっか、」
「………で、なんだ、お前はそいつのことが好きなのか」

 ポツリと桃矢君の口から放たれた言葉は、すごくかなしい感じがした。

「……え?」
「だから、お前はそいつのことが好きなのかって聞いたんだ」