27 これからわたしが、貴方に〈2〉




 もの凄く真剣な表情で、まっすぐにわたしを見つめて、はっきりと大きな声で桃矢君はそう言った。
 あまりに真剣な眼差しに、わたしは何も言えずに黙ってしまう。

「………まなみ?」

 そうしていたら、今度は見ているこっちが切なくなるような顔をして名前を呼ばれた。
 こんな桃矢君ははじめてだった。

「……聞いてほしいの」

 そんな桃矢君を目の前にして、やっと言うときがきたと思った。

「うまく言えないと思うけど、わたしの話を聞いて?」

 はじめの頃は同じように霊感がある人に出会えてすごく嬉しかったこと。

「わたしね、桃矢君にすごく感謝してるの」

 親と離れて暮らしているわたしに、本当の家族みたいに接してくれて、すごく心があったかくなったこと。

「あと桃矢君の前でだけ泣き虫だったのは、……素直になれたのは……ね、」

 ほら、また桃矢君の前だとすぐ泣きそうになるから困っちゃうよって。

「桃矢君が好きなの」

 いっぱい伝えたいことがあったのに、もっとたくさん言おうとしていたことがあったのに、結局ほとんど何も言葉には出せなかった。
 ただ好きだと伝えるだけでこんなにもいっぱいいっぱいになって、頭もほとんど真っ白だ。

「さっき言ってたウィルのこと、好きだよ……昔は恋人だったんだ」
「つき合ってたのか?」
「………う、うん」

 わたしが話しはじめてから黙りこくっていた桃矢君はここで一言そう聞いた。

「あのね、桃矢君が歌帆とのことを話してくれたから……わたしもウィルとのことちゃんと話しておきたいって思った」

 それからまた桃矢君は黙ってしまった。

「はじめての恋人だった……でもわたしのウィルに対する『好き』は恋愛の『好き』とは違………っ、」


 そして黙ったまま、桃矢君はわたしをゆっくりと抱きしめた。
 突然の出来事に桃矢君、と声を掛けようとしたら、さらにぐっと強く抱きしめられて、出かけていた声は引っ込んでしまった。

「……なら、さっきおれに言った『好き』は?」
「……?」
「そのウィリアムへの『好き』とは違ったのか?」

 桃矢君の顔が見えないから彼がいったいいまどんな表情をしているのかわからない。
 いまの桃矢君の声だけじゃ、まるで怒っているようにも聞こえるし、泣いているようにも聞こえるから。

「桃矢君だけ」
「?」
「桃矢君のこと考えて、考えて、…こんなに胸が苦しくなるのは、桃矢君がはじめて」

 わたしの素直な思いが口から出てしまえば、心がすっと軽くなったような気がした。

「好きだからなんだと思う。桃矢君のことすごく好きだから、桃矢君のこと考えてると、胸がいっぱいになって…幸せな気持ちになれるわ?」

 そっと、桃矢君の背中に腕をまわしてみたら、もっと胸がいっぱいになって苦しくなるのに、それが嫌じゃなかった。




 夕方の太陽を背にして、もうどれくらいの時間抱きしめられていたのか。
 恥ずかしさから実際の時間よりもずっとながく感じていたのは確かだけれど、それでも本当に長かったと思うのは勘違いではないはず。

「とーや君、」
「何だ」
「そろそろ離れてもいい?」
「嫌だ」

 子供じゃないんだから、と思いながらも、そうわがままを言ってくれたことが嬉しかった。
 抱きしめられたまま、力加減だけ弱まっていたけれど、お互いをものすごく近くに感じるのが本当に幸福だった。

「聞いてくれるか、おれの話も」
「………このまま?」
「、このままじゃないと嫌だ」

 何も言わないかわりに肯定の意味をこめて桃矢君の背中にまわしていた手で背中を優しくとんとんと叩くと、彼はゆっくりと話しはじめた。

「おれは、多分はじめて会ったときからまなみに惹かれてた」
「っ、………」
「いまも、毎日、惹かれていってる」

 普段の桃矢君の声とは違う、かすれたような甘い声。
 こんな声も出せるんだと驚くのもつかの間、その言葉ひとつ一つに自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
 こそばゆくて、これが桃矢君の好きな人にみせる顔なのかと思うと、恥ずかしさでものすごく熱かった。

「この前ちゃんと言ってねぇから、言わせてくれ」
「ちゃんと、って?」

 するとわたしを抱きしめていた腕がすっと離れて、桃矢君の右手がわたしの左肩を優しくつかんだ。


「まなみが好きだ、…やっと言えた」


 それからやっとみれた桃矢君の表情はいつもより優しくて、ほんのりと少しだけ赤くなっているような気がした。


「お前が旅行から帰ってきて、無視されたらどうしようかなんて考えたりしてさ……結構焦ってたんだぜ?」
「わたしだって、いつ桃矢君にこの事言おうかって、一日中そわそわしてたんだからっ」
「……ゆきに感謝しねぇとな」

 そうだね、と笑顔で言えば、ああ、と微笑んで返してくれる桃矢君はすごくかっこよく見えた。

 そしてさあ帰ろうと言うように自転車をとめてある方向へと歩きだしたわたしの少し後ろにいた桃矢君は、何故か歩きだそうとはしない。
 振り返れば不意に左手を掴まれていて、今度はふわりと握りしめられる。

「嫌なら嫌って言え」

 こうやって手をつなげるのは自転車までのほんの少しの距離。
 嫌な訳ない、と微笑んで桃矢君の手を握りしめかえせば、自然と2人並んで歩きだす。
 お互いの想いが伝わったいま、恋人らしいことをしているわけだけれど、これまでの距離感が急にかわることはないと思う。
 ただ、好き、って気持ちだけは歩くたび、足を進めるたびに大きくなって。

「とーや」
「………っ?」
「……ちょっと言ってみただけ」

 うじうじしていたときのわたしが今のわたしを見たら驚くだろうな、なんて思いながらわたしは歩いた。




これからわたしが、貴方に
(してあげられること、教えてください)