「どう、順調?」
「ん?何が?」
「彼と」
休日に歌帆と2人でお出かけしていたとき、お昼ご飯を食べようと立ち寄ったレストランで不意に聞かれた。
「…………歌帆……」
「?」
わざとなのかいつもの天然なのか、あまり聞いてほしくないことを聞いてくる歌帆は終始にこにこと笑顔を崩さない。
「桃矢君、歌帆のことすっごく気にしてる」
「どうして?」
「どうして戻ってきたんだ、って」
わたしはそう言いながら歌帆が持っているあの鈴のことを思い浮かべていた。
「彼ならもうわかってるんじゃないかしら?」
「いいえ、わかんないって言ってたわ」
本当?気づかないふりしてるだけじゃないの、と驚いたように言うと、歌帆は野菜のスープを美味しそうにすすった。
「意外ね」
「どうして?」
「彼ほどの力があればわからなくはないと思っていたから、かしら」
「桃矢君にだって、わからない事もきっとたくさんあるわよ」
意外、と思っていたのは歌帆だけではない。
わたしも同じように、桃矢君はすべての事を見透かしてしまえるくらいの力をもっていると思っていたから。
前に桃矢君と話していた時に、「お前、ほんとは何か知ってんじゃねぇのか?」と聞かれたとき、結構驚いてしまった。
「ええ……いくら力があっても、人の心まで読む事は出来ないもの」
「……そっか……そうだよね」
桃矢君は人の感情を読みとることに長けている、とわたしは思う。それは力のおかげではなくて、彼の生まれ持った才能というか、優しさのおかげだと思う。
だからすべての物事が桃矢君にはみえているのかといったら、そういうわけではないはずだ。
「好き、って感情は、流石のとーやでもわからないと思うわ」
急にそれた話についていけず、わたしは何?と表情で訴えると、歌帆はにこにこしながらゆっくりと話しだした。
「ちょっと前に校庭でばったりとーやに会ったの、フェンス越しに。少し話してたんだけど、『ウィリアムって奴のこと知ってるか?』って聞かれたわ」
「……桃矢君が?」
「気になるの、って聞いたら『昔のあいつを知ってる奴だから』って、……知ってるようにあしらっておいたけど、ねえ誰なの?」
好奇心丸出しの歌帆があまりにも嬉しそうに聞いてくるので、わたしは話さざるを得なかった。
おまけに聞き上手な歌帆のせいでなんだか余計なことまでしゃべってしまった気がする。たとえば桃矢君には話していないようなことを。
「素敵な彼じゃない!きっとお似合いだったんでしょうね」
「もう、歌帆!」
「ごめんなさい、でも安心して?今のとーやとまなみだってすごくお似合いよ」
「う、うん、ありがとう……」
なんだか最終的には全部歌帆の思い通りに話しが進められていて、いいように遊ばれていたようで、わたしがすべて話し終えた後満足げな表情の歌帆が目の前にいた。
「あれ、何の話してたんだっけ?」
「…………歌帆がどうして戻ってきたのか、って話」
「ああ、そうだったわ!」
そして相変わらずの歌帆の言動に、思わず笑ってしまう。
歌帆は少し聞き過ぎたと反省しているのか苦笑いを浮かべながら、ごめんなさいね、と謝ると、今度はしゃんとした顔をして話しはじめた。
「クロウ・リードは亡くなる前に月峰神社にあの鈴を遺した。わたしみたいに力のあるものが産まれるってきっとわかっていたから、って前に話したわよね。………すべては必然なのよ」
正直わたしには、歌帆の言っていることが半分くらいしか理解出来ていなかった。
クロウ・リードとそのカード達のことは前に歌帆に教えてもらった通り知っているつもりでも、未だに歌帆があの鈴でさくらちゃんを助けるということの具体的な意味がわからなかった。
ただ、クロウカードを捕まえる為にあの鈴をつかう訳ではない、と直感で思った。
じゃあいったいどうしてあの鈴でさくらちゃんを助けなければいけないのか。
さくらちゃんを助けなければいけない、何かが起こるのだろうか。
これはきっと歌帆に聞いても、今は言えないの、ごめんなさいと言われてしまうだろうから、わたしは何も聞かなかった。
「ねえ、歌帆……」
「ん?」
「わたしは歌帆を信じてる。だから何かわたしに出来ることがあったら言って?」
さくらちゃんのことを見守っていて欲しいと言われてから、わたしは歌帆の言うことを信じていたし、実際にその通りに色々な物事が進んでいくのをみている。
けれどそれは歌帆がたくさんのことをひとりで背負い込んでいるんじゃないかと思えてならなくて。
「わかった、ちゃんとまなみの言う通りにするわ」
でも結局は逆に気をつかわせてしまったのか笑顔でそう言ってくれたものの、「心配性なんだから、もう」とクスクス笑いをされたかと思うとぱっと話の話題をかえられてしまった。
「また一緒にご飯行きましょうね?」
「わたし、次は中華がいいな」
「わたしも同じこと考えてたの!じゃあ次は中華で決まりね」
そして食事を終えたわたし達は、そこから服屋に雑貨屋にと一日中色々な買い物をしてまわって、楽しい休日を過ごした。