28 秘密〈2〉
「おはよ!まなみ」
「まなみ、待ってたのよっ」
朝、おれと雪兎とまなみとで教室に入るといつもまなみと仲よくしている女子2人がまなみのところまでやってきた。
その女子2人がやけに楽しそうにしているもんだから、まなみは不思議そうに首をかかげながらおれ達から離れていった。
「ねえ、どう?」
「あーっと……ごめんなさい、その日はもう予定が入ってるの」
「そっかー…、残念……仕方ないわね。わたし達だけで行ってくるけどいい?」
「もちろん!楽しんできて?」
どこか遊びにでも誘われているらしい会話が聞こえてきて、いったいどこに行くんだろうなと何と無く考えていたら、まなみがその誘いを断ったのですこしびっくりした。
よく3人でちょこちょこ遊びに行っているみたいだったから、まさかまなみが誘いを断るとは思ってもみなかったから。
その予定っていうのは一体何なのだろうか、と気になってしまった。
そして話を終えたまなみが自分の席まで来ると、そのまま近い席にいるおれ達に話しかけた。
「あ、1限目移動教室だったよね?教科書教科書……」
「あいつらと何の話してたんだ?」
「え?」
特に何も、とたいした事じゃない風に答えるまなみに少しイラついてむすっとしてしまう。
おれの悪い癖らしい、前まなみとゆきに2人同時に怒られてしまった。
「どっか、遊びにでも行くんじゃねぇのか?」
「うん、そうだったんだけど……わたし、予定がある日だったから、残念」
「予定?何の」
「ちょっとした用事……かな?」
バイトかと聞けば違うと言われ、結局最後までその予定については何も聞き出すことが出来なかった。
別に秘密が嫌いな訳じゃない。現に今さくらだっておれに秘密にしていることがあるし、まあ、ばれてるが、秘密は秘密だ。
ゆきだって本人は気づいちゃいねぇが、おれに秘密にしていることがある。
人には何かしらの隠し事や秘密があると思う、家族にさえ知られたくない事だってあるだろう、プライバシーがある。
でもまなみの言う予定とは何なのか、気になって仕方がない自分がいる。
「とーや、早くしないと間に合わないよ?」
「あ、ああ…」
少しぼーっとしていたらしい、ゆきに話しかけられるまで結構時間がたっていたことに気がつかなかった。
そのくらいまなみの予定について考えてしまっていた。
「何か考え事?」
「いや、別に」
となりで不思議そうに聞いてくるゆきに、そんなゆきのとなりを同じように不思議そうな顔をして歩いているまなみに、少しホッとした。
まなみのことがもっと知りたいと思う。
今何を考えているのか、今何がしたいのか、この前歌帆と遊びに行ったのはどこなんだとか、どんな服を買ったのかとか、何食べに行ったんだとか。
まなみはあんまり自分のことを話すような奴ではないし、もともとおしゃべりでもない。
本当はもっと色々な話が聞きたいのに、答えてもらえなかったらどうしようか、と臆病な自分が心のどこかで邪魔をする。
だからウィリアムってどんな奴なんだとか。
ふと、そういえばまなみは何色が好きなんだろうかなんて思ったりして。
好きな人の好きな色って何色なんだろうか、なんて今時小学生でも思わないだろうな。
こんな風にあいつの事が気になって、あいつの事がもっと知りたいなんて思ってるってこと、知られたくねぇから。
これはまなみには知られたくない、おれの秘密。
「あー、びっくりした…」
「よそ見して歩いてっからだ」
日曜日のバイト帰り、前方にいっしょに歩いているゆきとさくらを見つけて近づくと、数日前に無くなったと思っていた冷蔵庫のゼリーを食べた犯人がさくらだとわかったから、少し驚かせてやった。
きょうさくらが夕食当番なのは知ってたが、何でゆきがいるのかと聞けばさくら自ら夕食に誘ったらしい。それから家に帰って、おれは夕食づくりを手伝っていた。
「あ、そういえばお祭りあるの知ってる?」
招かれて来たはずのゆきも何故か夕食づくりを手伝っていて、ちゃっかりエプロンまでしている。
そしてキャベツを刻んでいるおれのとなりで、ゆきは突然話しはじめた。
おれはその祭りのことを知らなかったが、さくらは知っていたらしい。
「知世ちゃん誘って行こうと思って!」
「二人でか?」
「うん」
「おれも行く」
今は10月だ、だんだんと日も短くなってきたし、第一小学生が2人だけでお祭りなんて危なすぎると思ったおれはそれについて行くことにした。
「ぼくも行っていい?」
「はい!」
おれが行くと言ったときとは違って嬉しそうに元気よく首を振るさくらは顔を赤くして、知世ちゃんに電話をしてくると言ってパタパタとかけていった。
「お祭りだったら人出も多いし、夜遅いと危ないし心配?やさしいね、お兄ちゃん」
「うるせー」
小声で面白そうに話しかけてくるゆきに、そう返せばクスクスと笑われるし、こっちは何も面白い事なんてない。
すると電話をかけ終えたらしいさくらがかえってきた。
「知世ちゃんもだいじょうぶです、って」
「じゃあ4人で行こうね」
「あ、そうだ!」
そう叫んだと同時に両手を合わせて何か思いついたみたいにまた電話を掛けにいったさくらは、まるでるんるんと効果音をつけても違和感がないくらいに嬉しそうだった。
「今度は何だろう」
「さあな」
すると戻ってきたさくらはさっきとはうってかわってしょんぼりした様子で、とぼとぼと歩いてきた。
「まなみさんも誘おうと思ったんですけど、留守電になっちゃって…」
「お出かけしてるのかな?また後でかけ直してみようか」
「はい…………」
そう、まなみが予定があると言って友達の誘いを断っていたのはきょうだ。
何の予定かも知らなければ、時間も勿論知らない。
でもお祭りに行く時間は夜だから、きっと電話もつながるだろうとおれは思っていた。
「あ、そうだ、さくらちゃん。場所は?」
「『月峰神社』です!」
ピタリとおれの動きが止まったのにゆきは気がついただろう、となりでさくらに向けて優しく微笑んでいた。
歌帆はおれをいじめたいのだろうか、戻ってきてからというもの心臓がいくつあっても足りないと思うようなことが沢山ある。
あの事は、さくらに話すにはまだ早いし、知られたくもないから必死で隠しているのに、何となく気づかれてしまいそうでこわい。
「そうだ!お兄ちゃんも観月先生に教えてもらったことあるんだね、教育実習生っていうの?」
「……………まあな」
ああもう、やめてくれ。
秘密
(やっぱりつながらないです……)
(4人で行こうか、残念だけど仕方ないね)