29 真っ赤な林檎〈1〉




「森下さん、こっち」
「はい」

 名前の呼ばれた方をふり返ると、綺麗な着物を着た可愛らしいおばさんに手招きされていた。
 わたしは呼ばれた通りにおばさんの近くまで寄ると、そのまま裏に入っていった。

「きょうはありがとう。おかげで助かりました」
「いいえこちらこそ、こんな経験なかなか出来ませんから。すごく楽しいです」
「あら本当?思っているより体力のいる仕事だから、やめちゃう子が多いのよ。森下さん、この仕事に向いてるんじゃないかしら」

 優しく微笑むおばさんの冗談は冗談に聞こえないから少し笑えなかったりもするけれど、仕事が楽しかったのは確かで、ありがとうございますと何度もお礼を言った。

「まなみ、お疲れ様」
「歌帆」

 するとそこに巫女の格好をした歌帆が現れて、おばさんと何か話していた。
 歌帆はさすが神社の娘なだけあって巫女の姿が様になっている。
 ミステリアスな、神秘的な雰囲気の歌帆によく似合っているし、もともと美人な彼女の魅力が存分に引きたてられていた。

「きょうはありがと。あともう少しで終わりだから、その後はお祭りでも楽しんできて?」
「歌帆はまだお手伝い?」
「ええ、でも今は休憩中。だから後でいっしょにまわりましょう?」
「やった!楽しみ」

 するとじゃあ後でと歌帆は何か用事でもあるようにそそくさとその場から立ち去っていった。

「じゃあ森下さん、あと数分だけお願いね」
「はい、よろしくお願いします」

 そしておばさんはそう言うとまだまだ忙しそうにしてその場から小走りで去っていった。
 そんなおばさんの後ろ姿を見てわたしもあともう一踏ん張りだと、ひとつ深呼吸をして、またもといた場所に戻る事にした。



 瞬間、何か不思議なものを強く感じて、わたしは思わず歩くのをやめた。
 ここ月峰神社にはあの大きな御神木もあるし、お祭りの夜、神社の外れに霊のような何かがいても全然おかしくはない。

 でも怖い感じはしなかったから、幽霊ではないだろうと思ってまた歩きはじめようとすると、ちらりと見えていた小窓から何やら光っているものがみえた。
 お祭りだから飾りや何かで明かりは多いものの、そんな明かりとは違う、それはふわりとまるで雪みたいに小さなものだった。

 その時わたしはちょうど外につながる扉のすぐ近くにいた。
 仕事中だったし、勝手に行動するのはいけないと思ったけれど、やはりあの光がどうしても気になってしまって、わたしは少しだけごめんなさいをして外に出た。

「…………綺麗………」

 そして何かに導かれるように手をのばせば、その光はまるで生きているかのようにふわりと手のひらにおさまった。
 そしてわたしのまわりに蛍みたいに浮かんでいた。

「あなた達、ひょっとしてクロウカード?」

 その光に、わたしはひとり言みたいに話しかけた。
 いつの間にクロウカードの気配までわかるようになってしまったんだろうか、すると光はその質問に肯定するかのように一瞬ざわざわと動いた気がした。