03 夢見〈2〉
「はやく帰るわよ、今日は大切な15歳の誕生日なんだから」
「あ……ちょっと待って!お母さん」
わたしは両親の仕事の関係でいろんな国に住んだことがある。
両親のどちらかが数年その国に滞在することになると、わたし達家族は少しでも一緒にいられるようにその国に引っ越すことにしている。
そしてわたしは今イギリスにいる。
小さい頃から日本と海外を行ったり来たりしていたから英語に関しては問題がなかった。
それに今まで行ったことがある国の中で、イギリスがいちばん好き。
ただ、わたしの髪は濡れるとうねっちゃうから、よく雨になるこの気候だけはちょっと嫌だった。
そして今日はわたしの誕生日。
お父さんは仕事で遅くなるから一緒に食事は無理そうだけど、お母さんのお手製ケーキが食べられるからすっごく嬉しい。
お買い物の帰り道、ふたりで歩いていると、わたしは思いも寄らない人に出会った。
その人はわたしの家の玄関の前に立っていた。
「あら、誰かしら……まなみのお知り合い?」
「え、あっと、お知り合い……」
観月歌帆。間違いなかった。
夢の中の人物だった人が目の前にいる。
「それなら今からパーティにいらっしゃらない?ねぇまなみ」
急なお母さんのお誘いにわたしはかなり動揺していた。
だってわたしが知ってるだけで、相手は何も知らないはずなんだから。
でも夢の中の人物、観月歌帆はいたって冷静だった。
「いいえ、お気になさらずに」
いったいなんなんだろう。まるでほんとうの知り合いみたい。
そしてまだ動揺したままのわたしに話しかけてきた。
「すこし話さない?……森下まなみさん」
「話……?」
「お話するなら夕方までに帰ってきてね、まなみ」
「……う、うん」
するとお母さんは早々と家の中へ歩いていった。
どうしてわたしの名前を知っているのだろう、彼女はわたしの名前を言った。
わたしは動揺を隠せず、隣にいる観月歌帆を見つめていた。
「急でごめんなさい。驚かせちゃったわね」
「あの、どうしてわたしの名前を?」
「あなたがわたしのことを知っているように、わたしもあなたのことを知っているの」
「……どういう意味ですか」
わたしは次の言葉に自分の耳を疑った。
「夢の中で、会ったでしょう……?」
驚いた。
夢の中の人物が急に目の前に現れたと思ったら、わたしと同じように、彼女も夢の中で会ったと言いだした。
「わたしもあなたと同じように、少し力を持ってるの」
「力、って?」
「いろんなものが見えるでしょう」
「……あなたにも見えるのね?」
「ええ。それになにか感じることもある、あなたも同じね」
優しく微笑むと、背が低いわたしに目線を合わせるように膝をかがめた。
そしてわたしの手をとると、包むように握った。
「場所をかえましょうか、改めて自己紹介。観月歌帆よ」
すると彼女はにこりと微笑んだ。
わたしは観月歌帆と、近くの公園に移動した。
「……お話ってなんですか?」
「これから起こることについて、ちょっとね」
風で彼女の長い髪がなびいて、彼女の表情が見えなくなった。
「あなたがこれから訪れる先に、いろんなことが起こるの」
「いろんなことって……?」
「……ごめんなさい。今は言えないの」
観月歌帆がなにを言っているのかまったくわからない。
「あなたが直接関わるわけじゃないの。ただ……なにかあったら助けてあげて」
「助けるって誰を?」
わたしが聞くと、さっきまで風になびいた髪で見えなかった彼女の表情が見えた。
最初に会ったときとは違う真剣な顔。
「女の子よ。見守ってあげてほしいの」
「……?」
わたしの不安そうな表情に、彼女はまた表情をかえて、優しい微笑みを見せた。
「いずれわかるわ」
彼女の笑顔になごまされても、やっぱり何が何だかわからない。
でも嫌な感じはしなかった。
そしてわたしが頭の上にはてなを浮かばせていると、彼女は近くにあった時計を見て言った。
「そろそろいかないと、お母さまが心配するわ。引きとめてごめんなさい」
観月歌帆はそそくさとその場を去ろうとしたので、わたしは最後に声をかけた。
「あなたの言ったことは、これから本当に起こることなんですね?」
「ええ、そうよ」
「そのこと、信じます。あなたが嘘を言っているようには思えないから」
なんだかわくわくしていた。これから起こることって、なんなのか。
「あっ……待って!最後にもうひとつ、」
「なーに?」
「これから訪れる先って、どこなの?」
夢見
(森下さん、帰り道がわからないんだけど…)
(ここまでどうやって来たんですか?)