「月城君って弓道部だったの?」
「違うよ、ぼくはお手伝い」
わたしは昨日クラスの女の子から誘われていた弓道部の早朝試合に来ていた。
早めに来てみたら、昨日仲よくなったばかりの月城君がいたから少し驚いた。
「まなみは何かクラブに入らないの?」
「え、うん、」
「ならぼくと同じだね、ぼくもクラブに入ってないから」
クラブの部員に呼ばれて、「じゃあ今から試合だから」と月城君はいつも通りのにこにこ顔で去っていった。
助っ人ってことは、弓道部って人数少ないのかな、なんてそんなことを思いながら月城君の後ろ姿を眺めていると、昨日わたしを誘った女の子が部員の中にいるのがわかった。
試合がはじまる直前、月城君に心の中で頑張って、とエールをおくった。
すると月城君が矢を射るたびに歓声があがる。
すっごくすっごく上手で、これでどこのクラブにも入っていないのが不思議だった。
「すごいね月城君!すっごく上手だった」
「そんなことないよ、……あっ!さくらちゃん」
月城君はそう言うと、わたしの顔から視線を外して誰かに話しかけているようだった。
そこには桃矢君と、星條高校の隣にある友枝小学校の制服らしきセーラー服を着た女の子が立っていた。
「素敵でした!」
「あ、これ?ぼくはお手伝いだから」
わたしが桃矢君の隣にいる女の子が誰かわからずに困った顔をしていたので、それを不思議に思ったのか桃矢君がわたしに話しかけてきた。
「おはよ、なに朝から百面相してんだ?」
「おはよう。えっと、隣の女の子は誰なのかなって」
「ああ……おいさくら、おれのクラスの転校生」
「あのっ、木之本桜です!」
「おれの妹だよ」
「妹さんか!さくらちゃん……だったよね」
「まなみさんですね!お兄ちゃんから聞きました」
にっこり笑って話しかけてくれるさくらちゃんはとっても可愛らしい女の子だった。
「そうだったんだ。よろしくね、さくらちゃん」
わたしがそう言った直後、昨日と同じ突風が凄まじい音とともに襲ってきた。
強烈な突風のせいで体がもっていかれそうになる。
……ピルルルル……
そしてふと顔をあげたとき、大きな鳥みたいなものが見えた。
風がやむと、みんなが不安そうな顔をしてお互いの無事を確認しあっていた。
わたしも周りにいた人がちゃんと近くにいるか、辺りを見まわした。
「だいじょうぶ?さくらちゃん」
「は、はい!」
「おさえなくても飛ぶわきゃなかったな、重いから」
桃矢君がさくらちゃんのキックをくらっているあいだ、わたしは鳥のことが気になってしかたがなかった。
「まなみ、だいじょうぶだったか」
「うんだいじょうぶ、…それにしてもすごい風だったね」
「ああ。……昨日のもこんな風だった」
急に真剣な顔になった桃矢君の横で、さくらちゃんはなにか思い詰めたような顔をして空を見ていた。