37 目覚〈1〉
「いよいよ今週だね、とーや」
「すっごく楽しみ」
「そうか?」
照れてる、とくすくす笑いながらいつも通りに桃矢君をからかう月城君は今日も楽しそうだった。
「藤隆さんは?」
「やっぱり無理そうだっつってた」
「そう……」
友枝小学校の学芸会が今週末に迫ると、わたし達三人はその話題で話が尽きることがなかった。
藤隆さんはどうしても代われない仕事があるらしく当日来れないらしい。
それでもさくらちゃんは素直にお仕事頑張って、と言える優しい女の子だけれど、本当は来て欲しいのを我慢しているんだろうな。
「さくらちゃん、どんな役するのかな」
「うちでも絶対言わないの一点張りだよ」
前に桃矢君の家に泊まりにいった時、夜はさくらちゃんの部屋で寝させてもらった。
その時さくらちゃんと沢山おしゃべりをして、もちろん劇の話や恋バナなんかでとても盛り上がった。
「お前は知ってんだろ」
「二人には秘密よ、さくらちゃんと約束してるから」
「いつ聞いたの?ぼく知らないや」
「桃矢君家に泊まったときに直接聞いたんだ」
へぇーお泊まり会か楽しそうだな、と月城君は次の授業の準備をはじめた。
そうだ次は選択授業だったとわたしも急いで教科書を準備する。
「さくらのやつ何の劇なのかも言わねぇんだ」
「よっぽど知られたくないのね」
「あ!あの人なら知ってるんじゃないの、ほら、観月先生」
「………ゆき……」
歌帆の名前がでた途端に眉間にシワをよせた桃矢君に、「これ言っちゃダメだったかな」と小声でわたしに聞く月城君。
「桃矢君、一応わたしに気をつかってくれてるみたいだから……」
「どちらかといえば自分が嫌そうなだけだけどね、とーやは」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く行けよ、遅れるぞ」
「はーい」
行こうかと月城君に言われてそのまま教室を出ると、月城君は「そういえば昨日ね、」と語りはじめた。
月城君の話は昨日みたテレビ番組が面白かったという話だった。
偶然にもわたしも昨日同じ番組をみていたから、授業までの数分間、わたし達はずっとその話で盛り上がっていた。
そして授業がはじまってから数分後のこと。
少し頭がクラクラして、めずらしく頭痛かなとこめかみ辺りをさすっていたら、急に何かが頭の中に入りこんでくるような感覚に襲われた。
けれどそれは決して嫌な感覚じゃなくて、何か、あたたかいような優しいものだった。
『まなみ、』
呼ばれている、誰に?
『放課後、月峰神社で会いましょう』
それは絶対に今きこえるはずのない歌帆の声だった。
はっとして視線を横にずらしてもそこに歌帆がいるわけではない。
けれど凄い力の持ち主である歌帆ならば、意識を集中すれば遠くにいる相手でも会話をすることが出来るんだろう。
その相手がわたしみたいに少しの力をもっていれば。
わたしはそんな事したことがないし、出来るのかもわからないけれど、歌帆に伝わるようにと強く想いながら「わかった」と返事をした。
『待ってるわ』
そうしたら笑顔で返事をしてくれた、そんな気がした。