40 懐かしい人〈1〉
友枝の学芸会が終わって、まなみと歌帆からさくらのやってる事について少しだけ話を聞いた。
何て危ないことやってやがるんだと思いつつ、歌帆から大丈夫だと言われればそれで納得してしまった。
それにおれにはこの力があるから、さくらに本当の身の危険が迫っていたらわかるだろう。
問題はまなみだった。
あいつは友枝に来る前に歌帆から、さくらを見守っていてほしいとか何とか言われたことがあると言っていた。
歌帆に言われただけだというのにもかかわらず、妙な責任感だけで危ない事に自らあしを突っ込んでいく。
なんで、どうしてまなみなんだ、なんて聞くのは無意味だ。
歌帆は何も教えてはくれねぇだろうし、まなみだって本人が一番何故どうしてと思っているだろうから。
未来のことがみえるおれでも、物事の全てがみえる訳じゃない。
だから誰か教えてくれ、未来のこと、さくらが危険な目にあわないかどうか。
教えてくれ、ゆきの本当の事。
そしておれの未来に、まなみは笑って側にいてくれているんだろうか。
少なくとも今のおれにはみえない。
違う、「今のまま」じゃ、みえないのか。
「とーや、元気ないね」
「……ぁあ?」
ゆきの突然の発言に疲れてるだけだとこたえると、おれはわざとらしくふんと息をはいた。
「嫌なら嫌って言えばいいのに」
「別にヤなわけじゃねぇよ」
「嘘」
「ほんとだ」
本当だ、少なくとも、今は。
それにまなみの親友がたまたま異性だっただけだと自分に言い聞かせているなんて、ゆきには言えない。
その吉瀬ウィリアムとやらには一度だけ会ったことがあった。
まなみから告白の返事をもらう直前の出来事だったから忘れもしない。
どんな奴なのかはちゃんと話していないからわからない、けれどその一瞬、会っただけでそいつがまなみの事を大切に思っているのが伝わった。
嫌でもわかる、あの瞳は愛おしそうにまなみをみていた。
「まなみも言ってたろ、大切な幼馴染で親友だって」
「確かにそのウィリアムのこと話してる時のまなみ、いつもと雰囲気違うもんね」
「雰囲気?」
「うん、自分の家族の事話すのってちょっと気恥ずかしかったりするでしょ、そんな感じ」
そうだそんな感じだ、と一瞬心が救われたと思ったら「ああでも、単に元恋人の話だから恥ずかしいのか」とにこにこしているゆき。
「……おれを励ましたいのか落ち込ませたいのかどっちなんだ」
「うーん、どっちも?」
おれのことを面白がっているゆきに、もうこの話題はよそうと来週のテストの話をふれば、おれの意図をくみ取ってその通りテストの話をひろげはじめてくれた。
まなみがその吉瀬って野郎に会うのは別に嫌な訳じゃない。
ならこのモヤモヤはどう説明するんだ。
本当はそいつに会って欲しくない、なんて言ったら、まなみはおれのことをどう思う?
「おめでとう、知世ちゃん!すっごく素敵な歌声だったよ」
「ありがとうございます、さくらちゃん」
知世ちゃん、それにウィリアムも出場した音楽コンクールは無事に終わった。
人がごった返しているロビーでは入賞者の写真撮影や雑誌のインタビューが行われている。
各部で優勝した知世ちゃんとウィリアムは忙しそうにインタビューにこたえていて、わたしやさくらちゃん、桃矢君も一緒にそれが終わるのを待っていた。
先に取材が終わったのは知世ちゃん。
持ちきれない花束を園美さんが持って後ろについていた。
「お疲れ様です、園美さん」
「あら!ありがとう」
園美さんはいつも以上に興奮しているみたいで、本当に嬉しそうだった。
「ねえ、きょうはこのまま家でお祝いパーティーをするんだけどまなみも一緒にどうかしら」
「あ、ごめんなさい…きょうは予定があるんです、」
「そうなの…残念」
また今度絶対一緒にお食事しましょうね、と園美さんはわたしの肩に触れると可愛らしいウインクをしてくれた。
わたしも是非、と笑顔でかえすと、園美さんは最後に受賞者全員で撮影があるからと、知世ちゃんとともに離れていってしまった。
わたしが園美さんと話している間、さくらちゃんと話していた知世ちゃんは少しさみしそうにしていた。
「あや……やっぱり忙しいですよね」
そう言って知世ちゃんを目で追うさくらちゃん。
わたしと桃矢君も同じく知世ちゃんを目で追っていたら、知世ちゃんの隣にウィリアムが立っていた。
そしてまだ小学生で背の低い知世ちゃんを、撮影用に用意された台にすっとエスコートしているウィリアム。
そんな姿を近くで見ていたウィリアムのファンらしい園美さんはその姿をみれてとても嬉しそうだった。
「ウィル……」
そしてなんとなしに呟いたわたしの声が聞こえていたかのようにウィリアムはちら、とこちらを見ると優しく微笑んだ。
「キザな奴」
「ウィルのこと?」
「なんつーか……王子様って感じだな」
今度こそ全ての取材が終わったみたいで、ロビーからはぞろぞろと人が流れていっていた。
「やあまなみ、待たせちゃったね」
「取材はもういいの?」
「ああ。まなみと…その恋人を待たせる訳にもいかないし」
いつもよりびしっとしている服装のウィリアムは本当に大人びてみえる。
桃矢君もどちらかというと老けてみられるタイプだと思うけれど、それよりももう少し、より大人にみえた。
「一度会ってるけど、とりあえずはじめましてだね」
ウィリアムはそう言って桃矢君に握手をもとめた。
するとああ、こちらこそと桃矢君もどこかぎこちなく握手をかえしていた。
「あん時は気ぃつかってすぐ帰ったんだろ、悪いことしたな」
「ふふ、優しいね、木之本君は」
そしてさらりと「桃矢でもいい?」とほぼ初対面だというのに言ってしまうウィルは本当に積極的だ。
「きょうは来てくれてありがとう、嬉しかったよ」
「あんたが来いって手紙に書いたんだろ」
「そうなんだけどさ、普通は嫌だろ?元カレと会う彼女をみるの」
「……ウィル、!」
またウィリアムはわたしが恥ずかしがるような事を平気で言う。
それにそういう事を桃矢君に話すのにはあまりに急過ぎるというか、まだ打ち解けてすらいないのに、突っ込み過ぎているというか。
「まなみがあんたのことを大切な幼馴染だって言ってんだ、嫌なんてことねぇだろ」
「……オトナだね、桃矢は」
なんだかハラハラさせられる二人の会話にいてもたってもいられなくなったわたしは、もう帰らないかと桃矢君に伝えた。
すると桃矢君は「もういいのか、久しぶりに会ったんだろ」と言う。
「だって、桃矢君この後二人でご飯食べに行こうって」
「三人で行くか、飯」
「は、」
「え?」
桃矢君の発言に、わたしだけじゃなくウィリアムも驚いていた。
その通りだ、だってそのお食事、もの凄く気まずくなりそうだもの。