40 懐かしい人〈2〉



 
 タクシーで移動した落ち着きのある喫茶店のような外観のお店に入ると、見た目とは反対になかはとても賑やかだった。
 それにしてもさっきの桃矢君はどこか変だった。
 もちろん気をつかわせてしまっている理由の大半はわたしとウィリアムの過去のことがあるのだけれど。

 普段人との付き合いを嫌いではないにしろ、なるべく最小限にしているような気のする桃矢君が自らウィリアムを一緒にご飯に誘うなんて、意外だった。
 桃矢君は優しい、そう、それはよく知っているんだけれど。

「あの、」
「ん?」
「ごめんなさい…何だか気をつかわせちゃったみたいで」
「おれが誘いたくて勝手にしたんだ、気にすんなよ」

 小声で話しかけたらあっけらかんとそうこたえる。

「本当の家族みたいな親友なんだろ?」
「う、うん」
「お前の家族なら早いとこ認めておいてもらわねぇとな」

 桃矢君の変な言動の理由はそれだった。
 わたしの大切な友達だから、そうやって一緒にご飯を食べに行こうだなんて言ってくれたんだ。

「認めるも何も、はじめから大賛成だったよ」
「……?」
「まなみの背中押してあげたの、この僕だから」

 そしてわたしと桃矢君の隣でしばらく様子をうかがっていたらしいウィリアムは、さあ自分が話す番だ、と勢いよく話しはじめた。

「まなみから相談されたんだ、君のこと」
「、いつ?」
「好きって言われた、って…まなみがお母様と旅行に行ったの覚えてない?そのとき久しぶりにまなみと会ってね、君の話を聞いたよ」

 まなみが選んだ人に間違いはない、そう思った。
 恥ずかし気もなくそう話すウィリアムは、まるでわたしがこの場にいないみたいに桃矢君の目をまっすぐみていた。
 桃矢君も桃矢君で、ウィリアムの目をしっかりと見つめていたけれど。

「君の事話してるときのまなみの顔、本当に綺麗だったから」
「ウィル、っ」

 何変な事言ってるの、と言おうとしたとき店員さんがやってきて「こちらです」と席への案内をはじめた為にこの話は途中で終わってしまった。
 そして席についた桃矢君とウィリアムはそれまでの空気から一変、和やかな雰囲気で学校やら日常の会話をしはじめた。
 サッカー部なんだとか、この前の文化祭の話だとか、桃矢君はとても饒舌だった。
 ウィリアムもウィリアムで、わたしの幼い頃の恥ずかしい失敗話なんかをするものだから思わず大きい声を出して怒ってしまった。

「へぇ、ピアノも弾けるんだ、凄い」
「お前が言うなよ、あんな演奏しといて」
「ははは、ごめんゴメン」

 わたしの心配を他所に仲よさ気な二人をみて安心したわたしは、すこし気を緩めていた。
 二人とも凄くリラックスしているみたいで箸もよくすすんでいたから。



 ご馳走さまでした、とお店を後にすると、事前に連絡していたらしいウィリアムのご両親が迎えにきてくれた。
 もう遅い時間だからとわたしと桃矢君を家まで送ってくれるらしい。
 久しぶりー!と元気なハグをしてくれたご両親は、初対面のはずの桃矢君にも「まなみの友達?よろしくね!」と熱烈なハグをしていた。
 桃矢君はちょっと疲れた顔をしていたけれど、それだけじゃなくて少しはこの時間を楽しんでくれているみたいだった。

「それじゃあまた、すぐ会おうね」
「うん、楽しみにしてるわ!」

 ウィリアムは大会こそ終わったものの、上位入賞者によるコンサートがある為にまだしばらく日本に滞在する。
 もちろんそのコンサートには知世ちゃんも出演するから今からとっても楽しみだった。

「まなみ、」

 わたしのアパートの前、車の中で桃矢君とウィリアムにおやすみなさいと言ってそとに出た。
 でもまるでエスコートするように、当たり前のようにわたしの手をとって車からいっしょに降りたウィリアム。
 手はそのまま、名前を呼ばれたので何かなと思えば、もう片方の腕を広げて笑顔をみせる。
 そう、これはいつものお別れの挨拶の合図だ。
 わたしとウィルはお互いの両頬にキスをして抱き合った。

「良い夢を」
「ふふ、本当にキザだね」

 どちらからともなく笑い合うと今度こそウィリアムは車に乗り込んだ。
 そしてゆっくり発車した車の窓が開くと、桃矢君が軽く手を振ってくれた。



 きょうは本当に楽しかった、そう思いながら玄関の扉を開けた。
 どうなることかと思っていた桃矢君とウィリアムの対面も無事終わったし、むしろとっても仲がよさそうに話していたのからホッとした。

 今夜は興奮してしまって寝れないかもしれない、わたしはそんな浮ついた状態のままお風呂の準備をしはじめた。




懐かしい人
(しばらく日本にいられるなんて本当に嬉しいよ)
(コンサート楽しみにしてるね)