45 最後のカード〈2〉




 そこはさくらちゃんの部屋、ケルベロスがひとり呟いていた。


「クロウカードはもうちょっとでそろう…」

「『封印の獣 ケルベロス』 シンボルは『太陽』」

「さくらがカードを封印するたびにわいの力も戻ってきてる、けど……『ユエ 』の力も同じように強うなっとる」

……『ユエ』……

「確かにあいつの気配を感じる。あのさくらの学芸会のときがいちばん『月』の気配が強かった」

「『審判者・ユエ』 シンボルは『月』」

「クロウカードの封印が解かれるとき、この世に災いが訪れる」

……さくら、『審判』はもうすぐやで……












「また明日。観月先生、月城さん、さようなら」


 桃矢君のバイト先から帰る一行から、方向の違う知世ちゃんが離れていく。
 さくらちゃんと李君を目線の先に、歌帆、月城君、わたしと並んで歩いていた。


「最近とーやとはどう?」
「かっ、歌帆!」


 月城君がいるのに何も関係ないというようにわたしに聞く歌帆。
 月城君はその話題がタブーではないとわかると同時に目をキラキラさせて話の続きをもとめていた。


「どうも何も、なんにも…」
「まなみ、この前とーやのこと王子様みたいだったって言ってたんですよ」
「月城君、その話くわしく聞きたいわ」
「ふたりとも…!」

「火が!!」


 会話が盛り上がりかけたその時、さくらちゃんと李君の前に突然火の玉があらわれた。
 そしてその火があっという間に広がってわたし達を取り囲んでしまう。
 声をあげたさくらちゃんに目の前の炎がビュンッと音を立てて迫って、それを李君が庇うように助けた。

 考えなくてもわかる、この気配はクロウカードだ。

「この気配…!」
「クロウカード!」
「それもかなり強力なカードだ!」

 李君が解析している間にもまわりの火がまたさくらちゃんにむかってきて、今度は月城君が自身のコートを盾にしてばさりと火をはらう。

「どうしよう!観月先生とまなみさんはいいとして、雪兎さんの前で魔法使えないよ!」

 その通りだった。歌帆とわたしは魔法のことを知っているけれど、月城君は知らない。
 さくらちゃんは小声で李君にそう相談しているみたいで、わたしも何か隠せる方法はないかと考えていた。

 すると李君は苦い表情をしながら、唐突に月城君に頭を下げた。

「すみません!」
「李君!……雪兎さん!!」

 李君は拳を月城君のお腹にあてたかとおもうと、次の瞬間には月城君はその場に倒れていた。


「月城君!!」


 駆け寄れば気を失っているだけみたいで、顔色は決して悪くない。大丈夫なのだろう。

「気を失ってもらっただけだ!早く!」
「は、はい! 『封印レリーズ解除』!」

 それでも炎は休むことなく次から次へと攻撃してくる。
 さくらちゃんは『シールド』という魔法を使って月城君やわたしのいるところを守ってくれた。

 しかし次の瞬間少し離れていた歌帆のところに火がザアアと迫っていった。

「観月先生!」「歌帆!」

 危ない!と思わず目を閉じれば聞き覚えのある鈴の音がリーンと全体に響いた。
 恐る恐るそちらをみれば何もなかったかのように、ただ鈴を持ち上げている歌帆が無事な姿でそこにいた。

「『ウインディ』!」

 次から次へとやってくる攻撃をどうにかしようとまた魔法をつかうさくらちゃん。
 けれどその魔法はあまり効果がなかったみたいで、すぐ打ち消されてしまう。


「『風』じゃそいつの相手は無理や!」
「ケロちゃん!」

 そこへ現れたのはケルベロスさん…ケロちゃんだった。
 さっきまでは何も気配を感じなかったから、きっとクロウカードの気配に気づいてすぐ家から駆けつけてくれたんだ。

「『風』は四大元素のひとつ!クロウカードの中でも『ライト 』『ダーク 』に次ぐ高位カードや!…その『ウインディ 』が太刀打ちできんいうことは…!」
「持ってる四大元素カードは!?」
「『風』と『水』…ってことは!」

「やっぱり『火』のカード!?」
「『火』は攻撃カード。確かに『ウインディ 』だけじゃ無理だ!」
「火に対抗できるのは…『ウォーティ』!」

 さくらちゃん達が火のカードと戦っている間に、わたしは歌帆といっしょに月城君を少しだけでも安全な場所へと移動させようと壁の側に運んだ。
 さくらちゃんが頑張っている、わたしも、わたしに出来ることを精一杯やらないと。

「だいじょうぶなのか!?」
「わからん…『火』と『水』の力は互角や。あとは魔法使てるさくらの力がどれだけ強いかにかかっとる!」

「危ない!」
「きゃあ!!」

 さくら!と叫びながらケロちゃんがさくらちゃんに駆け寄った。
 あの『火』のカードはそれだけ強いということなんだろうか、さくらちゃんは炎の勢いに吹き飛ばされてしまったのだ。
 月城君を介抱しているわたしにかわって歌帆や李君がさくらちゃんに駆け寄ってくれている。

「だいじょうぶ?!」
「ケロちゃんが…しっかりしてケロちゃん!」

 ケロちゃんはさくらちゃんが少しでも怪我をしないようにと庇って、そして怪我をしてしまったみたいだった。

 そんな、クロウカードを集めるさくらちゃんをいままで沢山みてきたつもりだったけれど、今回はいつもとは違う。
 こんなにも被害が出るような、そんな危険なもの、ましてやまだ小学生のさくらちゃんが、もしもっと大きな怪我をしてしまったらと思うととても怖かった。

「ちょ、ちょうどよかったわ… わいのシンボルは『太陽』、『火』はわいの属性カードやからな…わいがおったら 更に力を増すさかい……けど、先に『火』が姿現したんはラッキーやったで……」

「…さくら、がんばれ… カードはこの『火』とあと一枚だけや…」

「ケロちゃん!!」

 こんなことって…どうしよう、どうすればいいの…。






「観月先生、ケロちゃんをお願いします!」

 こんな状況でもさくらちゃんは全く諦めていない。きりりとした表情をしてすっと立ち上がると、息をゆっくりすって、落ち着いてカードに話しかけていた。

「お願い…もう一度さくらといっしょにがんばって!」

「『クロウ』の創りしカードよ 我が『鍵』に力を貸せ」「カードに宿りし魔力をこの『鍵』に移し我に力を!」

「『ウインディ』!『ウォーティ』!」
「高位カードを二つ同時に!?」

 さくらちゃんの精一杯の魔法でだんだん火が小さくなっていく。

「汝のあるべき姿に戻れ!『クロウカード』!」

 するとカードの形に火がかたちを変えていくと同時に、歌帆が預かっていたケロちゃんの怪我がだんだんと消えていき、ふわふわと浮かびあがっている。

 何が起こったのかわからないのはさくらちゃん達もいっしょで、さくらちゃんは特に不安そうにケロちゃんの方を見つめていた。

 そしてケロちゃんがひとりでに浮きあがり光が煌めくと、地面に魔法陣のようなものが描かれていく。
 背中の羽が大きく広がってケロちゃんのからだを包み込んで、またさらにカッと眩しいくらいの光があたりに広がって、その羽がまたさらに広がる。

 そこに現れたのはまるでタテガミのない大きなライオンのような、そして綺麗なオレンジ色をした獣だった。


「あ、あなた…… 誰?」
「何ぼけてんねん!わいや!ケルベロスや!」
「じゃあこれがケロちゃんの本当の姿!?」
「そうや」
「なんか…ケロちゃんって感じじゃないね、かっこいいかも」

「…間に合うたな、最後のカードが『ファイアリー 』やのうてよかった …最後の一枚くらい捕まえるん手伝えるさかいな、……それにあいつより先に元の姿に戻れた」
「だれより?」


「…ユエ

 歌帆は最後にそうつぶやいた。

 それにさくらちゃんと李君もハッとしたように歌帆のいる方向を見返した。



ーーゴゴゴゴゴゴゴゴッーー



「地震!?」
「どこか建物の下に!」

 ついさっきやっと落ち着くことが出来たのに、今日は次から次へと何かが起こる。
 今度は地震だった。

 ううん、違う、気配がする…この地震もクロウカードの仕業…!

「うちの神社すぐそこよ」
「李君早く!」

 わたしは李君といっしょに月城君の肩を支えながら、すぐ近くの月峰神社まで急いだ。








 月峰神社へつくと、すぐそこにあった休憩できるところ、ベンチの上に月城君を寝かせた。
 相変わらず気は失ったまま、けれど顔色はいい。

「まなみはここで月城君といて」
「歌帆はどうするの?」
「しばらくはここにいられるわ」
「しばらく?」
「……貴女はここに月城君といて、安全よ」

 しばらく、ということはきっと歌帆もさくらちゃんを助けるために何かするつもりなんだろう。
 さっきも月の鈴で自身の身を守っていたし、もしかして。

「今日も持ってる?」
「鏡のことね。…これ、もしかして歌帆の持ってる月の鈴と同じようなことが出来るの?」
「あなたが願えばできるわ。いつもより自分の力を感じるでしょう」

 確かにそれはそうだった。
 肌身離さず持っていたほうがいい、とわたしに言ってくれたのは桃矢君だ。
 わたしはその通りにいつもポケットやカバンにその太陽の模様の入った鏡を忍ばせていた。
 いままでよりクロウカードの気配にはやく気がつくことが出来ているし、それに、その気配が何なのかわかるような気さえする。

 そう、自分の後ろに月城君がいてもその気配でその気配が月城君なのだといつもよりはっきりとわかるし、それは離れていてもそう。

「さくらちゃんの身を守って、って願えば守れる?」
「ええ、でもそんなふうに使ったことはないでしょう?無理はしないで」

 さくらちゃんなら大丈夫よ、と最後に念を押した。
 歌帆は自分がいるから大丈夫だ、と言いたいのだろう。


「きゃあああ!」
「そっちの手も貸せ!」

 すると安心した途端、今度は地面がゴゴゴと音を立てながら割れはじめた。
 さくらちゃんのあしもとがぐらりと揺れて、割れた隙間にさくらちゃんが落ちていってしまう。

 そんなとき李君が咄嗟にさくらちゃんの片手をとったものの、手袋をはめていたせいでその手袋だけしか掴めなかった李君はおもわず叫んだ。

「さくら!!!」

 けれどさくらちゃんは無事だった。
 ケロちゃんは羽が生えていて飛ぶことができる。さくらちゃんを掴んで助けてくれたのだ。
 そしてさくらちゃんは李君にありがと、と嬉しそうに言った。

「いま『さくら』って呼んでくれた?」
「あ、ああああれは と、とととっさで、べ、べべべ べつに…!」
「…うれしい、…わたしも小狼君って呼んでいい?」
「す、好きにすればいい!」

「なごんどる場合やないで!」

 可愛らしいやりとりに思わず頬が緩むと、ケロちゃんがそれを引き締めるように大きな声で唸るように叫んだ。

「最後のカードの登場や!」

 ついさっきつかまえた『火』のカード。
 ケロちゃんは次の、この地震の原因のカードが最後のカードだと説明する。



 歌帆に女の子を助けて、そして見守ってほしいと言われてから一年と少し。
 特に何か助けてあげられることは無かったけれど、確かに見守ってはきたはずだ。桃矢君ともこの話をした。
 さくらちゃんのこと、わたしにできる範囲内でいい、見守って、助けてあげなくちゃ。

「最後のカードって私がまだ持ってない…」
「四大元素のひとつ」


 これが最後のカード。


「『地』のカードや!」




最後のカード
(不安だけど、精一杯、)