46 大切な人といっしょに〈2〉
「最後の…『審判』……?」
「封印したカードをつこて
「真のクロウカードの主なら、カードの守護者に負けるはずないだろう」
「あぶない!」
「さくらちゃん!!」
さっそく
その攻撃にさくらちゃんは魔法を使って神社の奥の方へと逃れた。
危なっかしい姿に、李君と歌帆は自身の力を使おうとするも、それはケルベロスさんにとめられてしまう。
「だれかが助けたら、その時点でさくらの負けになる!」
これが最後の『審判』。
「雪兎さんが…クロウカードの関係者だったなんて…」
「『力』の気配なんかまったく感じなかった!あいつの兄貴のほうがよっぽど…!」
「せやから
手を出すことは出来ない、けれど少しでもさくらちゃんの近くに、とわたし達は
「桃矢にーちゃんには『力』がある、さくらとは違うがかなり強い力や。…わいがこの町きて誰かが本開けるの待っとったように、
「じゃあ、あいつが本を開けたのも!?」
「月城さんが本を開いたさくらちゃんのお兄さまのお友だちだったのも…?」
「いや、それは偶然や!」
「でも…じゃあ月城さんはさくらちゃんがクロウカードを集めてるのをずっとご存知で…!?」
「それはない!さくらが最後のカード封印して本当の姿に戻るまで月は目覚めとらんかった」
それは
ケルベロスさんはわたし達にわかりやすいように説明をしてくれた。
「『雪兎』は自分が
「ええ、でも…月城君に惹かれたでしょう?李君もさくらちゃんも」
それはいつだったか歌帆がわたしに教えてくれたことがあった。
『力』のある者は『力』に惹かれる、つまりは李君もさくらちゃんも、その『力』に惹かれて月城君のことを好きだった、ということだ。
「クロウ・リードの血をひく者とクロウカードを受け継ぐ者…クロウカードの守護者に惹かれるのは当然かも」
「でも…李君はケロちゃんととても仲よしというわけでは…」
「それにあいつは先生を見るとはにゃーんとかになるけど、おれは……!」
「わたしには役目があるから」
「わいも聞こう思っとったんや!その役目ってなんや!?」
「渡すものがあるのよ」
歌帆は自身のバッグを大切そうに持ち直した。月の鈴だ。
わたしにこの鏡を渡してくれたときにも、歌帆は同じことを言っていた。
渡す、ということは、ただその鈴をさくらちゃんに渡すだけということなの、それとも……。
「さくらちゃん!」
「さくら!!」
「攻撃カードも使わずただ逃げているだけか、…本気でやらないなら…終わりだな」
「しっかりせえ!さくら!このままやとこの世の『災い』が起こってしまう!」
災いってなんだろう、さっきのクロウカードみたいなあの地震よりももっとすごく酷いことなんだろうか。
そんな、さくらちゃんはまだ小学生なのに、そんな責任を任されるなんて、そんなの駄目だ。
クロウ・リードさんはそんな酷いことを考えるような魔術師だった、ということなんだろうか。
そうなんだったらとても悲しいことだと思った。
そんな時だった。
この月峰神社のなかにわたし達以外の誰かがいる、そんな気配がした。
こんなところを一般の人にみられたら大変だし、それに危ない。
さくらちゃん達にばれないように、わたしは皆んなの話に耳を傾けながらその気配に近づくことにした。
「『災い』ってなんなの…?」
「『忘れること』だ」
「………忘れる?」
「……クロウがカードたちのために作った『災い』……」
「『選定者』であるケルベロスが選んだ次のクロウカードの主候補が『審判者』
「クロウカードと…クロウカードに関わった者、全員から……
『一番好きな人』の記憶が消えてしまうんや……」
一番好きな人、……の記憶?
それって一体どういうことなんだろう、よくわからなくて、一瞬からだがとまってしまった。
その気配はもうすぐそこだというのに。
ちらりとさくらちゃんを盗みみれば、いつも笑顔のさくらちゃんがあんなに辛そうな、悲しそうな、不安そうな表情をしていた。
それはいまここにいる
ううん、違う、
「クロウカード達は自分を封印して署名した者を一番大切に思っている……けれどそれが自分たちの主にふさわしくない場合……」
「カードが辛ないように……いっちゃん好きな人のこと忘れてしまうようになってるんや……。そしてクロウカードに関わった者たちも……」
「……わたしも……忘れちゃう……一番 好きな人のこと……?」
その気配は木の陰に隠れている。こちらの様子をうかがっているのか、動こうとはしない。
けれどこの力の感じ、隠れている人もお互いに誰がそこにいるのかはわかっただろう。
「そんなとこにいたらバレるだろう…」
「………桃矢君……、」
わたしは桃矢君がいた木の陰に同じように隠れた。
どうしてここにいるのと聞こうとするけれど、バイトの格好のままだから、異変に気づいてすぐ駆けつけたからなんだろうとわかる。
「だいじょうぶ?怪我とかしてない?」
「おれはさっききたばっかりだよ、…さくらは?」
「今のところは…でも月城く、
「ゆき、」
桃矢君もわたしも月城君が人間でないことは知っていた。
けれどこんな風になるなんてわたしは思っていなくて、慌ててしまっている。
桃矢君は落ち着いていて、まるで
桃矢君の力はものすごく強いから、もしかしたらこうなることすら、ううん…その先のことまでもう見えているのかもしれない。
だからこうやってここでじっとして見ていられるのだ。
「桃矢君はすごいね、落ち着いてる…」
「……歌帆がついてるし、それに」
「それに?」
「そんなのやだ!!」
急に大きな声があがる、それはさくらちゃんだった。
「攻撃なんてできないよ……なんか今は違う感じだけど……やっぱり雪兎さんだもん」
次々に続いていた
それは
「それに
「けど攻撃せんと
「どうしていいかわからないけど…でも…いっしょうけんめいやってみる」
そうか、桃矢君はさくらちゃんのこと、信じてるんだ。
わたしもさくらちゃんのこと信じてあげよう、守ってあげよう、そう思った。
「なんとかなるよ、絶対だいじょうぶだよ」
「いいだろう……審判続行だな」
さくらちゃんは笑顔で最後の『審判』を続けることができる、強い子だった。
そして
「クロウ・リードからあなたへの贈りものよ」
「クロウさんから!?」
「なんでクロウが…!?」
「…どういうことだ」
クロウ・リードはこの日本で亡くなったのだと歌帆は言う。
そのとき、クロウカードは封印を解かれてあちこちに散らばった。新しい候補者が現れるまでにそれぞれの場所で待つために。
「占い師でもあったクロウは、自分がいつどこで死ぬかもわかってたみたい。そして次の候補者がいつどこに現れるか、そのときクロウカードの本がどこにあるかももちろん知っていた。
候補者がこの友枝町に住む可愛い女の子で…本当に次のクロウカードの持ち主にふさわしいこともね」
でなければピンクのこんなに可愛らしい杖にはしなかったでしょう、と歌帆は言う。
クロウカードの『守護者』二人に持ち主を認めさせるのは、特に『月』の力を持つ『審判者』を納得させるのはなかなか大変だということもわかっていた。
だから次の候補者を助けるものを用意しておいた、それがあの月の鈴だというのだ。
あの鈴はクロウ・リードが死ぬ前に日本で創り、そしてさくらちゃんのお家の側の月峰神社に預けておいたもの。
「わたしみたいにちょっと力のある人間が月峰神社に生まれて、この鈴の謎に気づくのも、彼には全部わかってたんでしょうね」
「……クロウか……!」
「……あいつ!」
「鈴に触れてわかったわ、いつかこの鈴を必要とする子が現れる。そしてその子が本当にカードの持ち主になることを決めたらこの鈴を渡す、それがわたしの役目」
これを渡すために帰ってきたの、と歌帆はさくらちゃんに微笑んだ。
そして鈴を掲げるとさくらちゃんといっしょに言葉を繋げる。
するとさくらちゃんの持っていた杖はみるみるうちに姿を変えて、まるで星に羽が生えているようなものがついた杖になった。
「この杖でカードを使えばだいじょうぶよ」
「でも…わたし攻撃は…!」
「攻撃しなくてもなんとかなるわ、あなたなら」
さくらちゃんは魔法を使った。けれど今度は反射されずに
「…なにが『審判者』だ……結局最初から次のクロウカードの持ち主は決まってたんじゃないか、……この世の災いが起こらないこともあいつは知ってて…」
「クロウがそういう性格なんはおまえとわいがいっちゃんよう知っとるがな」
風に包まれた
「偶然やなかったんやな、わいがさくらの家の地下で寝とったんも、さくらが本開けたんも、
少し安心したようなさくらちゃんにケロちゃんが歩み寄って、まるで励ますように優しい言葉でそう言った。
「クロウさんの予定通りってことでしょうか…」
「…ああ」
知世ちゃんと李君も一先ず安心した様子だ。
けれど
そんなときだった。
「
さくらちゃんは藤隆さんや撫子さんにそっくりな顔で微笑んだ。
「わたしなんかまだまだ子どもだし魔力もぜんぜんだし…、寝坊ばっかりだし算数も嫌いだし、なんにもできないけど……カードのこともケロちゃんのことも大好き」
そして一言一言かみしめるように、確かめるように、優しく言葉をつないでいく。
「きっと
さくらちゃんはまだしゃがみこんだままの
「『主』とかじゃなくて、『仲よし』になってほしいな」
「もうだいじょうぶみたいだな」
木陰から見守っていた桃矢君は見た目にはわからないけれど、やはり張りつめていたみたいで、ふうと一つ息をついた。
「歌帆もいたし、ね」
「ああ」
よかった、と安心したようにそう桃矢君はつぶやいた。
そして少し服のシワをはらって直すと、いくぞ、という。
「もうこんな時間なんだぞ、危ないだろ」
「あ、本当だ」
「それにそろそろだ」
「?」
「ゆきの電池が切れる」
「でんち……?」
こちらに気づいていない様子のさくらちゃん達に遠慮なく近づいていく桃矢君に、わたしも急いでついていった。
「ぼく、どうしてここに…」
「あ!あの、あの!」
ついさっきまで
そして
「……あれ……?」
「雪兎さん!!」
するとさっき桃矢君が言っていた、まるで電池が切れるみたいにぱたりと倒れていってしまう月城君。
こういうことだったのかと思っている瞬間、桃矢君は月城君の背中を抱きとめた。
「お兄ちゃん!!」
「こんな時間までなにやってんだ」
慌てるさくらちゃんに隠れるケロちゃん。
微笑んでいる歌帆に知世ちゃんに、さくらちゃんと同じく慌てている李君。
これで本当に最後の『審判』が終わったんだ、と思った。