46 大切な人といっしょに〈3〉




「本当に帰っちゃうのね、歌帆」
「うん、役目は終わったし、留学期間まだのこってるし」

 今日は歌帆がイギリスに帰る日。
 お見送りのために桃矢君に月城君、さくらちゃん知世ちゃん李君、そして秘密でケロちゃんも、ここ月峰神社に集まってくれたのだ。

 小学生の子達はしょんぼり、特にさくらちゃんは本当にさみしそうで。

 わたしは次またいつ会えるかな、なんて、歌帆と会ったときはいつも思っているけれど、こうやってするお別れはやっぱり少しだけいつもより寂しい。

「これと、あとこれだけね。忘れ物ない?」
「ええ、だいじょうぶよ」
「本当に?」

 歌帆はしっかりしているようにみえて、おっちょこちょいで忘れっぽい。
 だから最後の確認を何度も部屋の中でも外でも繰り返した。

「ねえ歌帆、」
「どうかした?」
「歌帆の月の鈴は消えちゃったじゃない?わたしのこれにも、…いつか役目があるのかな」

 歌帆の持っていた月の鈴は、さくらちゃんの杖に取り込まれていくような形でなくなった。役目を終えたということなのだろう。

 わたしに渡されたこの太陽の鏡も同じくクロウ・リードに創られたもので、月の鈴と対になっているようなものだし、無くなるのかと思っていたらこれはそのままで。

「この鏡は月の鈴とは違う役目があるの、前とかわらず持っていてあげて?」
「うん、」

 それはそのつもりだった。
 普通の鏡としても使えるこの鏡は、壊したら怖いから鏡として使うことはないものの、すっかりわたしの生活になくてはならないものになっていた。

 どこにいくにも持ち歩いているし、家にいるときもなるべく自分の近くに置いている。
 それがなんだか心地いいのだ。



 そして歌帆がさくらちゃん達と最後の挨拶をしている間に桃矢君と月城君とわたしで大きな荷物をタクシーに積み込んだ。

「つみおわったぞー」
「ありがとー!」

 これで本当に最後の確認にと桃矢君が歌帆を呼べば、月城君はさくらちゃん達のもとへと歌帆とかわるように駆けつけていた。

「ね、バイトの格好のまま月峰神社に来たとき、ほんとはもっと前から側にいたでしょ」

 それにまなみが途中からいなかったのはとーやといたから?と確信をつく歌帆。

「…歌帆がいたし…、さくらが『絶対だいじょうぶ』だっつってたからな」
「じゃあ、月城君が人間じゃないって会ったときから気づいてた?オレンジ色のぬいぐるみさんのことも」
「……ああ」
「人間以外にも優しいのは相変わらずね、とーや」

 歌帆は桃矢君の肩をぽん、と叩いて少しだけ声を小さくしてつぶやいた。

「でも月城君に本当に言いたいことは早く言ったほうがいいよ」
「う…」
「まなみもね」
「は、はい…」







「またね!」

 今度は遊びに来るね、と大きく手を振って歌帆はタクシーに乗って去っていった。
 わたしも大きく手を振ってそれに応えた。

 歌帆とはまた電話や手紙でやり取りしようとしっかり約束をしたし、まずイギリスに着いたら絶対に手紙を一番に書くわね、と言われている。

「またすぐ会えるといいな」
「おれはしばらくいい」
「素直じゃないね」
「こんな時くらい素直になってもバチあたらないよ」
「おまえらなぁ」

 また歌帆に会えるのがすごく楽しみだ。








 歌帆を見送って、そして小学生の子達と別れたあと、わたし達は3人で歩いていた。

 最近では月城君が気をつかって、というか面白がって、こういう休みの日に3人でいっしょにいられることが少なかったから、なんだか嬉しい。

「観月先生、最後なんていってたの?」
「え、」
「ああ…まなみの載る雑誌は必ず2冊送れってさ」
「ふーん」

 本当に言いたいこと、が今さっと言えるはずもなく、けれど桃矢君は何も動揺することなく、前に歌帆と話していたことをぱっと答えた。すごい。

「観賞用と…保存用かな?」
「10冊は用意してもらえるんだって。南さんから連絡があったの、そしたら歌帆2冊欲しいって」
「ならとーやも2冊だね」
「ゆき、面白がってるだろ」

 もうすぐ、以前撮影さしてもらった雑誌の発売日だった。
 それで編集部の南さんから数日前に連絡があったのだ。

「なんだか寂しくなっちゃうね」
「ほんとうに」

 月城君のその一言に、思わずわたしもため息をついた。

 歌帆とはイギリスにいた頃からの仲だし、手紙のやりとりだってもちろん、最近では近くに住んでいることもあっていっしょに出掛けたりランチをしたりとても楽しかった。大切な人なのだ。

 遠くにいたってそれはかわらないけれど、やっぱり近くにいて側にいられるのはもっと嬉しい。
 それはきっと桃矢君だって言葉にしないだけで自分やさくらちゃんの側に歌帆がいてくれたことが心強かったと思う。

「そういえばね、李君なんだけど…さくらちゃんのこと『さくら』って呼ぶようになったの、とってもかわいくて」
「あ、それぼくも思ってたんだ。とっても可愛いよね?お兄ちゃん」
「よってたかっておれをいじめたいのか、今日のおまえら」
「だって面白くて」
「ゆき」

 確かに今日は朝から月城君といっしょに桃矢君を歌帆のことやさくらちゃんへの態度のことでずっと弄っているような気がする。
 それは歌帆がいなくなる寂しさをまぎらわせるためにだったのかもしれない。月城君も同じだ。

「また会えるよ、ね、まなみ」
「うん。楽しみね」

 月城君はわたしの手をとって笑顔でそう言う。
 月城君がそう言うと、なんだか寂しさは本当になくなって今度いつか会える日がとっても楽しみになった。

「よし、これからどうする?」
「月城君が行きたいところで」
「そう?じゃあ商店街食べ歩きがしたいな」
「おれの意見は」
「今日は月城君優先ね」
「よし、じゃあ決定」

 そしてそのまま月城君はよし行こう、と勢いよく歩き出した。
 手はそのまま、わたしも勢いよく歩きだして、月城君はその勢いのまま桃矢君の背をたたく。
 押されるようにしてやっとはやく歩きだした桃矢君は文句を言いながらもわたし達と並んで歩きはじめた。




大切な人といっしょに
(美味しいもの食べよう)