ex. Dear friends〈1〉




 雑誌のモデルを頼まれて運命を感じて撮影をして、ついにその雑誌の発売日の前日。

 どんな写真を載せる、というのは事前に教えてもらっているけれどそれが実際に載っている雑誌は木曜日の今朝届いたばかりだった。
 雑誌は10冊送られてきていたので自分の分と撮影に来てくれていた木之本家、知世ちゃん、月城君の分。
 あと両親とウィリアムの分、歌帆は2冊、残りの2冊はクラスメイトの奈々ちゃんと景子ともう決まっている。



 そしてやってきた発売日。
 一番最初に雑誌を渡すのはクラスメイトの奈々ちゃんと景子になった。

「みたわよーまなみ、すっごく素敵だった!」
「わたしも!もらえるってわかってるのに思わず買っちゃった!保存用に!」
「え、…たった今渡そうと思ってたのに…」

 これ、と一冊ずつ包装された雑誌を手渡せばそれはそれでしょう、ありがとうと2人ともすごく喜んでくれて。
 通学路の途中で買っちゃったという雑誌と並べて嬉しそうにページをめくっている。

「観る用と保存用ね」
「マストだわ」

 嬉しいけれど気恥ずかしいことばかり話してくれる友人2人に、わたしは何も言えなくなってしまった。

「そういえばあの一緒に写ってた女の子、かわいかったわね」
「そうそう、ピンクのお洋服着てた子!お名前載ってなかった」

 実は桃矢君にその女の子がさくらちゃんだということはあまり言わないでほしい、と言われている。
 それは騒がれるのが嫌なのと、注目を浴びてそれがさくらちゃんの迷惑にならないようにというお兄ちゃん心だという。

 わたしは高校生だけれどさくらちゃんはまだ小学生。その意見に賛成だった。
 それに時間が経てばいずれそれがさくらちゃんであることはバレてしまうだろうというのはわかっているし、まだ今は内緒にしておいてもいいだろうというのは藤隆さんとも話したことだという。
 だからさくらちゃんの名前は雑誌に載せないと編集部の人達と話し合って決めた。

「内緒なの。まだ小さい子でしょう?騒ぎになると大変だからって」
「確かにそうね、まなみも『まなみ』って名前が端っこに小さく載ってるだけだもの」
「でも大きく名前載ってる人もいるけど」
「それは本物のモデルさん」

 なるほど、と奈々ちゃんと景子は納得したようでそれ以上さくらちゃんのことを聞くことはなかった。

「編集の人にこのままモデルになりませんかーとか言われなかったの?」
「言われたけど…とりあえずお断りさせてもらった」
「どうして、良い機会なのに」
「今回はたまたま誘ってもらっただけだもの」
「もったいない」

 撮影の合間に南さんからこのままこの雑誌でモデルをしてみないか、と話があった。
 今回撮影を体験してみて全く興味がわかなかった訳ではなかったけれど、とりあえず高校生の間はする気はないと伝えた。

 今回のモデルの仕事をしようと思えたのは撫子さんの写真をみて運命を感じた、ただそれだけの理由だったし。
 時間を置いてもう少し考えてみて、それでもしてみたいと思えたらその時はお願いします、とありのままの気持ちを南さんには伝えた。

「時間が経ってから、それでもよければって」
「そうよね…わたし達高2だし、そろそろ進路決めなきゃいけないもんね」
「景子と奈々ちゃんは〇〇大学って決めてるでしょ?」
「うん、まなみは?結局オープンキャンパス1校しか行ってなかったよね、決めたの?」

 木之本君と月城君と一緒のところだったよね、と奈々ちゃんが言う。
 大学についてはまだ決めかねていた。それは両親と相談していたこともあって、皆んなより少し遅れていたからだ。

「3年になってからでも遅くないよ、急に就職にする人だっているわけだし」
「そうそう、モデルになります!でもいいんだからね?」
「それはないです」
「えー」

 それはそれとして、進路については本当に迷っていた。
 特別にやりたいことが決まっているわけでもなかったし、いま住んでいるところから近ければとか、いろんな学部があるところと思えば桃矢君と月城君といっしょの大学になったのだ。

 3年の夏までまだ猶予はある、だから今は志望の紙にとりあえず名前を書くだけでいい。ゆっくり、しっかり考えておかねば。

「そういえば今日彼氏さんは?月城君もいっしょじゃないのね」
「桃矢君は朝練。月城君も朝から助っ人だって」
「じゃあもしかしてこの雑誌もらったのわたし達が最初!?」
「そうだよ」
「やったー!なんだか気分が良い!」

 なんでも木之本君と月城君はなんでも出来るスーパーマンなので、ちょっとだけ先をいけたのが嬉しいらしい。奈々ちゃんも景子も両手を広げて喜んでいた。

「ねえねえ、ちなみに放課後は?」
「えっと…桃矢君クラブで月城君も助っ人で…今日は空いてます」
「ラッキー!駅前の新しいクレープ屋さんいかない?奈々と行きたいねって話してたの」
「行きたい!わたしも気になってたんだ」

 雑誌を渡すのは桃矢君と月城君が最初になるとおもっていたら、今日は2人とも朝から夕方まで予定がいっぱいだった。
 そう先週の休み前から聞いていたので、2人に渡すのは朝練が終わって教室にきてからになる。

 それまでわたし達は駅前の新しくできたクレープ屋さんの話題で大いに盛り上がっていた。




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(xoxo)