ex. Like sister〈1〉




「帰りに沢山ケーキもらっちゃって……」
「……確かにそりゃ多いな」

 園美さんと知世ちゃんにとお家まで雑誌を届けた後、わたしは桃矢君家にお泊まりに行く予定だった。

 帰りは送っていくと言って聞かない園美さんにその予定を伝えると、それじゃあケーキ沢山あるから持っていってと本当に沢山のケーキを持たされてしまった。
 とってもありがたいんだけど、自分でも洋菓子の詰め合わせをお土産にと用意していただけにそれを和菓子にしておけばよかったと少しだけ後悔した。

「まあ父さんとさくらが喜んで食うだろ」
「そうだ、ケロちゃんもいるし」
「……ぬいぐるみな」

 ケーキの箱を受け取ってくれた桃矢君にもうひとつ自分が持ってきた洋菓子の紙袋を預ける。
 そしてお邪魔しますと玄関をあがるとリビングにはさくらちゃんがお茶を用意して待ってくれていた。

「まなみさん、どうぞ!」
「ありがとう、さくらちゃん」

 いつもみたいにとびきりの笑顔をみせてくれるさくらちゃんに、ケーキの箱をちらりとみせる桃矢君。するとパッと表情が変わるさくらちゃん。

「紙袋はわたしから、クッキーとかチョコが入ってるの。その箱はケーキね、知世ちゃんのお母様がどうぞって」
「わあ!ありがとうございます!」
「ちょうどいい時間だしとりあえず1切れずつ食うか」
「やったー!」

 紅茶いれるから選んでろという桃矢君のお言葉に甘えてさくらちゃんといっしょに沢山あるケーキを一つひとつ眺める。
 けれどどれも美味しそうでなかなか決められない。
 だから桃矢君が紅茶をいれてくれるギリギリまで2人でケーキを選んでいた。

「わたしフルーツタルトにします」
「じゃあ…わたしはこっちのチョコにしようかな」
「おれメロンのやつ」


 少しだけ宿題が残っているという桃矢君を階段まで見送って、わたしはさくらちゃんといっしょにもうひとつケーキを選んでさくらちゃんの部屋に行くことにした。
 さくらちゃんの部屋にお邪魔するのはこれで2回目だけれど、ここでケロちゃんに会うのははじめてだ。

「さっすが嬢ちゃん!わいのケーキ!」
「ケロちゃん!まずはお礼でしょ!」

 これはケロちゃんの分のケーキだよ、と言う前にケロちゃんはケーキのお皿をさらって既にひとくち食べてしまっていて。
 食べるのが好きとは聞いていたけれどここまでとはちょっと驚きだった。

「そんで嬢ちゃ…まなみは桃矢にーちゃん部屋いかんでええんか?遊びにきたんやろ?」
「ケロちゃんにケーキを持っていきたくて…さくらちゃんとおしゃべりしようってわたしが誘ったの」
「お兄ちゃん宿題が残ってるってすんなり部屋に入っていったよ」
「……やっぱりにーちゃんわいのこと……」

 気づいてるよ、と言うのはやめておこうと思った。
 こうやってさくらちゃんの部屋にきたのも、わたしがアイコンタクトでケロちゃんにケーキを持っていきたいのを伝えようとする前に桃矢君が小声で持ってけ、と言ってくれたからなのだ。
 優しくて恥ずかしがり屋な桃矢君らしい。

「そうだ、ケロちゃんは何か食べられないものあるかな」
「ん?なんでや」
「きょうの晩ごはんまなみさんといっしょにつくるんだよ」

 するとケロちゃんはわたしの手を取って女神さま!と叫んだからさくらちゃんは少し怒りながらシーッと指を立てた。
 そのやりとりがまるでコントみたいに面白くって思わずくすりと笑ってしまって、それが止まらなくなってしまった。

「ケロちゃんの声お兄ちゃんの部屋まで聞こえちゃう!」
「あはは」
「まなみの声はええんか」
「まなみさんはいいの!」

 不公平や!と言うケロちゃんはちゃっかりモダン焼きがいいと叫んでいるし、さくらちゃんは一生懸命にケロちゃんの口をふさごうとしている。
 すると扉の向こうから桃矢君の気配がしてコンコンと扉を叩く音がする。びくっとするさくらちゃんに、ケロちゃんは急いで床にぬいぐるみらしく座った。

「きょうの晩飯モダン焼きの材料あるから買い物行かなくていいぞ、って……何笑ってんだ」
「さ、さくらちゃんが可愛くて、ふふ」
「…………」
「じゃあ、ケーキ食べたらモダン焼きの準備しよっか?さくらちゃん」
「はい!」

 桃矢君はぬいぐるみのふりをしているケロちゃんをじーっと見つめながらドアをゆっくり閉めた。


 さくらちゃんはケーキを食べながら、雑誌のモデルをしたことを誰にも話さなかったけれどクラスのみんなに知られてしまったと話してくれた。
 決して迷惑するようなことはなくてただみんながほめてくれるのでとても恥ずかしい、と。
 そしてわたしのこともたくさん聞かれて、とても素敵な人だと伝えておいたとも話してくれた。これは確かに恥ずかしい。

「お姉さんいるのって聞かれたんです。とっても似てるね、って」
「本当?わたしさくらちゃんみたいな妹がいたら嬉しいな」

 桃矢君が羨ましい、そう言えばさくらちゃんはそれは嬉しそうに微笑んでくれた。
 けれど何か思い出したようにぱっと表情が変わると、みるみる赤くなるさくらちゃん。

「あの…知世ちゃんがお写真のデータ貰ったらしくて、引き伸ばして部屋に飾ってるって言ってて…」

 なんでも撮影の時知らない間にスタッフの人に必死にお願いしたらしく、悪用しないであろう知世ちゃんは見事さくらちゃんの写った写真のデータをゲットしたみたいで。
 園美さんも喜んで引き伸ばした写真を部屋に飾っていると教えてもらったそう。
 つい1時間前までは園美さんのお家に行っていたのにそんな写真なかったはず。そう思っていたらさくらちゃんが、わたしが見たら怒られるだろうからその間だけ外しておくと園美さんが言っていたのを知世ちゃんから聞いていたらしい。

「それは……恥ずかしいね」
「はい……」
「……準備!そろそろ夕飯の準備しよっか」
「そ、そうしましょう!」

 綺麗にして撮ってもらった写真とはいえ、人様のお家にそれが飾られているのを想像したら恥ずかし過ぎていたたまれなくなったわたし達は気分をかえるためにも急いで準備にとりかかることにした。




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