01 不思議なことばかり〈1〉

  


 『友枝町の隣町やその近辺は雨の気配さえありません。この怪奇現象に気象庁も明確な答えを出せないようで……』


 放課後、下校中急に降り出した雨に急いでアパートまで帰って洗濯物を片づけた。

 今日の天気予報になかった雨はなんだか様子がおかしかったし、妙な胸騒ぎがする。

――プルルルル…プルルルル…

 まだそんなに遅くない時間、夕飯の準備でもしようかと冷蔵庫の前に立った瞬間電話が鳴った。着信をみればさくらちゃんからだった。

「さくらです。こんばんは、まなみさん」
「こんばんは、さくらちゃん。どうしたの、何かあった?」
「それが…その…」

 今日のこの雨の話だった。
 さくらちゃんはケロちゃんと相談し、様子がおかしいこの雨のことを調べようと知世ちゃんといっしょにペンギン公園に集合したらしい。するとさくらちゃん達の登場を待っていたかのように雨が水の塊になって襲ってきたというのだ。
 けれど問題はそれからだった。その攻撃をなんとかしようと魔法をつかったものの、その魔法がきかなかったというのだ。

「怪我はない?!」
「はい…でもケロちゃんに一度引いたほうがいいって言われて、そのまま帰ってきました」
「そう…魔法がつかえないなんて…」

 さくらちゃんはケロちゃんに明日確かめたいことがあるからさくらちゃん家に月城君を呼びたいという。それが違和感なく上手くいくようにするためにわたしに連絡をくれたのだ。

「ケロちゃんがまなみさんに協力してもらえって」
「なるほど。わかったわ……っていうことはわたしもさくらちゃん家にお邪魔していいのかな」
「はい!もちろんです!何か良い言い訳考えておきます!」

 それじゃあまた明日、と電話が切れるとふとひと息つく。

 クロウカードは全部あつまって、最後の審判も終わって、この友枝町に不思議なことは一切起こらなくなっていたところにこの妙な雨。そして胸騒ぎ。

 解決したと思っていたクロウ・リードさんの問題はまだ終わっていなかったのか、それともまた違う何かなのか。
 どちらにしてもまだこの鏡は手ばなせない。

 歌帆からもらったままの太陽の模様が描かれているこの鏡を、わたしは肌身離さず持っている。それは持っていて気分が良い気がするのと、鏡として本当に手に馴染むからだった。

 話をしたい肝心な時にまた歌帆はイギリスに帰ってしまっているし、また手紙を書くしかない。そう思った。
 





「きょうの夕飯つくるんです!何がいいですか?」

 さくらちゃんは今朝桃矢君に、夕飯をつくるから月城君を誘って欲しい、ということで月城君を誘ってもらうことに成功したらしい。
 会ったら開口一番桃矢君が「きょうの晩飯怪獣がうまいもんつくるらしいからお前ら来るか?」なんて。

「いいの?さくらちゃん。お邪魔しちゃって」
「はい!」

 いつも通りの優しい笑顔でそう言う月城君に緊張しながらも、月城君がお家に来てくれることに嬉しそうなさくらちゃん。
 それが微笑ましくて思わず笑ってしまうとそれを桃矢君になんともいえない表情で指摘された。どうやらこの月城君をお家に呼ぼうという作戦は桃矢君に見抜かれていたらしい。

「優しいね、お兄ちゃん」
「うるせー」

 何言ってるの、と月城君が楽しそうな顔をして聞いてくるのでなんでもないよと誤魔化した。
 さくらちゃんの何が食べたいかという質問には、前にお泊まりした時に言っていたハンバーグが良いとこたえた。

「またいっしょにつくろう?」
「たのしみです!」
「ぼくもお手伝いするよ」



 まだ、雨はやまない。