01 不思議なことばかり〈4〉

 


「きゃあ!」
「さくら!!」

 さくらちゃんの悲鳴が聞こえたかとおもえば雨がみるみるうちに渦のようになってさくらちゃんをのみこんだ。

「さくらちゃん!」

 わたしも何か出来ないかと鏡を取りだそうとした瞬間、ケロちゃんやユエさんと同じように身体が動かなくなってしまった。
 動こうとしても動けない、身体が重たくなるみたいだった。

「この力…!」
「やっぱり…!」

 わたしにもわかった、これはクロウカードの力によく似ている。けれどもうクロウカードはすべて集めてさくらちゃんの手元にあるはず。ということは、でも、クロウ・リードっていう魔術師さんはもうずっと前に亡くなったって歌帆が言っていた。
 一体どういうことなの…?


 そうしているあいだも雨の塊は渦となってさくらちゃんをはなさない。
 あのままじゃ息もできないんじゃないか、さくらちゃんが心配だった。

 するとさくらちゃんのまわりに光が出て何か模様が浮かび上がった。


「あの魔法陣は……クロウが創ったものやない!」

 そうだ、さくらちゃんが魔法をつかうとき、いつも地面なんかに魔法陣といわれる模様が浮かびあがっていた。それが見慣れたものとは何か違う。
 真ん中にみえるのは、星…?

 そして火が出てさくらちゃんが雨の中から飛び出すと、わたし達の身体もすぐに動くようになった。

「さくら!!」
「ケロちゃん、ユエさん、こ…れ……」

 慌てて駆け寄れば、同時にさくらちゃんが気を失ってふらりとユエさんのもとに倒れ込んだ。

「だいじょうぶ?!」
「どっか怪我したんか?!」

 わたしとケロちゃんが呼び掛けてもまったく目を覚ます様子のないさくらちゃん。
 どうしようと思ったのも束の間、じっくり観察したようなユエさんが一言。

「寝てる」

 確かにさくらちゃんからはすうすうと心地良さそうな寝息が聞こえた。
 表情も苦しそうだとかそういうものが一切ない、気持ちよさそうに眠っている姿だ。

 そして雨はすっかりやんでいた。

「と、とりあえずお家にもどりましょう?」

 さくらちゃんは雨でびしょびしょだったからこのままだと風邪をひいてしまうと思ったわたしはそう言った。

 そのまま急いで帰ると、わたしはさくらちゃんの体温を確かめた。雨に濡れてはいたけれど、冷えてはいなかった。お風呂もいいけれど、きっとものすごく疲れているだろうから今日はこのまま寝てしまったほうがいいだろう。わたしは素早くさくらちゃんを着替えさせてベッドに横にさせた。




「ありがとうな」
「いえ、」

 うるさくするといけないのでわたし達はリビングまで移動すると、出かける前につかっていたポットをつかってもう一度あったかいお茶を用意した。

「まなみには説明しとこか」
「?」
「なんでさくらが寝とんのか、それと今回のことについて」

 ユエさんは両眼をつぶっていて、ケロちゃんは仮の姿にもどってお茶をすすりながら、片手で『火』ファイアリーというクロウカードを手にしていた。

「このカード、前と違うんがわかるか?」
「あ…ピンク色になってる」
「せや、多分この『火』ファイアリーのカードは、クロウの創ったカードを元にして、さくらが自分で創ったカードやと思う」
「さくらちゃんが創った…?」

 あの魔法陣いつもと違うん見たやろ、とケロちゃんは話を続ける。

「いままではクロウが創った『クロウカード』を使てたんや。もちろん使う者には魔力が必要やけど、それでもクロウがカードに込めた魔力が元になっとるさかいさほど疲れることはない」

 けれど新しいカードはさくらちゃんが自分自身の魔力を使うことになるから、ものすごく疲れて、それで今回すぐに眠ってしまったのだという。

「問題は今日身体が動かんかったことと、昨日さくらから聞いたな?クロウカードが通じやんかったことや」

 まなみも一歩も動けやんくなったやろと言うケロちゃんは空になったコップにまたお茶を注いだ。

「あのとき、わたしにも何か出来ないかと思って鏡を取りだそうとしたんです」
「それや、仮の姿なんやったらまだしもわいもユエも本来の姿に戻っとった……そやのに一歩も動けへんかったんや」

 クロウカードを無効化できて、ケロちゃんとユエさんを足止めできるのは、今のカードの持ち主であるさくらちゃんと、

「……クロウ・リードだけ」
「やっぱりまなみもわかっとったな」

 学芸会のときにわたしにはじめて会ってから、ケロちゃんはわたしのことを何故か同じ太陽の力をもっているものとして信頼してくれているみたいで。だから今回のことも詳しくわたしに説明してくれたのだという。

「どうしてここまで説明してくれるんですか?」

 確かにわたしにはあの鏡の力も加わっていまそれなりの力をもっている。けれどそれだけで、何か魔法がつかえたりするわけでもなければ、助言ができるような知識もない。

「その鏡…クロウが託したからには意味があると思うからや。それに、ちょっと練習でもすればまなみはそれ使て自分の身守るくらいすぐできるやろ」

 危ないことかもしれない、けれど何か運命を感じるのはケロちゃんもユエさんも同じだという。ユエさんにいつそれを聞いたのかはわからないけど…。

「あの、わたし…歌帆からさくらちゃんのことを見守ってあげてって言われてから、なるべくそうしてきたつもりです」
「ああ、それは知っとる。姉ちゃんからわいも聞いた」
「今も気持ちは変わりません。さくらちゃんのこと、見守っていきたいんです」

 大切なわたしの妹みたいな子だから。大好きだから。
 きっとケロちゃん達もさくらちゃんのことが大好きだからこんな風に何か出来ることがあるならと、わたしにもこの話をしてくれたに違いない。

「練習してみますね」
「ああ」


 そしてもうそろそろ帰らなくてはと思いカバンをとったところでふと思いたつ。帰りは月城君と2人で帰る予定だ。桃矢君にもゆきに送ってもらえと言われているし。
 月城君がユエであることは知らないのに今までのことをどう説明しよう、いや、どうも説明できないのだけれど。

 月城君にしてみれば急に時間がたってしまっていることになる。それは最後の審判の後もそうだったのでわかっていた。
 
 するといつの間にケロちゃんの姿はなくなっていて、リビングにはわたしとユエさんの2人だけになってしまっていた。

「仮の姿にもどる」
「えっ、!」

 突然しゃべったとおもえばあっという間に羽根と光に包まれるユエさん。ほんの数秒で月城君の姿に戻ってしまった。

「あ、れ…?…玄関にいなかったっけ」
「もう片づけおわったよ!か、帰ろう月城君!」
「うん…わかった…」

 さくらちゃんは?と聞かれたので、もう片づけがおわったから部屋に戻ったよ、と慌ててこたえた。遅くなるまえに帰ろうと声をかければそうだねと不思議そうにしながらも帰る準備をはじめる月城君。わたしもカバンを持って玄関で自分の傘を持った。

 月城君と玄関を出れば綺麗な星空が広がっている。

「雨やんだんだね」
「……きれいね」

 クロウ・リードのことだとか、眠ってしまったさくらちゃんのことだとか不安なことが沢山あるけれど、ひとまずこの雨がやんでよかった、そう思った。




不思議なことばかり
(歌帆にお手紙書かなきゃ)