幕間 嘘つきなあなたの夢の話

 目の前で真一郎が困った顔をしている。見慣れたオイルの染み付いたつなぎ姿で、ひっくり返したビールケースの上に座っている。首の裏に手を当てながら、困ったような顔をして私を見上げている。


 夢だ、と思った。だって真一郎は二年前に死んだから、今更こんな風に私の前に現れるわけがない。それに私は、この光景をもう何百回も見ている。二年前のとある夏の日に実際に起きたことをそっくり繰り返すだけの、いつもの夢だ。


 そんなことは分かっているのに、私はピカピカに磨き上げられた沢山のバイクに囲まれたまま、真一郎を見下ろし続けている。この後に何が起きるのかを知っていても、逃げられずに立ち尽くしている。

「……良かったね」

 口が勝手に開いて吐き出された言葉は、聞いていて情けなくなるぐらいに震えていた。決して本心から祝福しているわけではない、責めるような口調の賞賛に真一郎はまた困った顔になる。傷付いているような顔をする。それを見ていると夢だというのにまるで現実みたいに胸が痛むから、早く醒めてくれと願った。早くこんな夢終わってくれ。

「でもそれなら、もう会いに行けるんだよね」

 会いに行ってよと懇願すれば、真一郎は何も言わずにわずかに目を細めてゆっくりと瞬きをした。私はそれを見て深く絶望する。きっと本人は気付いていないであろう、言い訳を考える時の癖。

 そんな些細な癖ですら知ってしまうほどに、覚えてしまうほどに、私は真一郎のそばにいた。真一郎に着いて回っていた。どんなことをされたって、何度泣かされたって、馬鹿な私は真一郎の背中を追うことをやめられなかった。


 この二年間、もう何度もこの夢を見ている。真一郎の店で二人きり向き合う私たち。二年前の七月、私たちの最後の会話。最期の呪い。


 真一郎はこの後「何があったのか教えてくれ」と言う。「よく覚えてないんだ」と眉を下げる。そうして呆気に取られて何も言えない私に何を思ったのか、「でも」と言葉を続ける。

「でも、お前がアイツのそばに居てくれて良かった。これからも支えてやってくれ」

 真一郎は「頼むよ」と言って眉を下げたまま笑う。私はもう、溢れ出す涙を止められそうになかった。

ふたつおりのひとひら