私が先輩とポアロに通っているのは、毎週金曜の昼だ。そこにはいつも安室さんとして零が居た。スリル満点のドライブをしたのはもう4週間も前のことだ。つまりあの日からポアロに来たのは4回目。そして今回も、零は居なかった。

「またあのイケメン居ないな。ついに愛想尽かされたか?」
「もともと約束してるわけでもないですし。ほら先輩あと10分で行きますよ」
「あのバイトのお姉さんに聞いてみるか?すみませーん」
「ちょっと!」

初めは、今日は居ないんだと思うくらいだった。2回目に姿が見えなかった時は、タイミング悪かったと思った。3回目でわかった。避けられてる。4回目の今日も勿論零は居ない。私たちが来る曜日も時間も固定なのにわざと避けられている。あのドライブの日から。せっかく私の方は大切な幼馴染と向き合っていこうと思えたのに、肝心の本人が私を避けてる。
零が私との関わりを断とうとしたのは2度目だ。私が社会人になって、零からの連絡は途絶え、遊びに来ることも無くなり。その時は覚悟していた。いつかは終わる関係だと言い聞かせていた。しかし今回のこの避けようはなんだ。もう逃げられないだろうなと諦め、向き合っていく覚悟を決めた途端にこれだ。どういう心境か知らないけど、私のことをよく振り回す男だ。偶然再開した日に突然告白してくるし。

先輩はバイトの女の人に声をかけ、安室さんのことを尋ねたらしい。

「安室さん、金曜は午前だけになったんですよ!お二人がいらっしゃる1時間くらい前に交代で私が入りました」

私たちのような、彼女にとって見ず知らずの他人にバイトのシフトのことをこんなにも簡単に話してしまっていいのだろうかと少し心配になった。
私がこの曜日のこの時間に来ると、零もわかっている。会わないように、避けられている。彼が私との関わりを断とうと思えば、どうにでもなる話だ。私と零の関係は、全て彼次第なのだと思い知らされた。

「時間ですよ、行きましょう」



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私には私の生活がある。仕事はもちろんだけど、私生活だってある。鬼の残業コースで終電帰りや終電オーバー故のタクシー帰りをした日には、寝ることしかできないけど。休日は私の自由な時間だ。今日は、ほんの数年前に他界した父母の墓参りに来た。思えば地方の大学に進学してから、父母と数えられるほどしか会っていなかった。親不孝な娘だ。
本社勤務になったから、実家に住めるようになった。それは良かったかもしれない。地方で働いては、管理のために訪れることが月に一度くらいしかできなくて。もう誰も住むことのない実家を手放すべきかどうか考えていたところで、本社勤務になった。少し職場まで距離はあるが、実家に住めて良かった。

手を合わせる。
多分、前世の記憶がある私は、周りと比べて手がかからない子供だっただろう。可愛げもなかっただろう。だけど、両親は目一杯可愛がってくれた。私の意思をいつも尊重してくれた。大好きな人たちだ。
数年前、夫婦水入らずで旅行中に、事故で死んだ。呆気ない最期だ。私が危惧していた、何かしらの事件に巻き込まれるとか、そういうものではなく。

お父さんたちと過ごした実家で、一生暮らします。今のところ結婚の予定はないけど、あの家に来てくれる人しか無理。大切にします。お母さんの趣味で集めた食器も、お父さんがこだわっていた庭も。あの事故で廃車になっちゃったから、駐車場が空いてるんだ。私も車を買うべき?でも運転する時ないし。ちゃんと掃除してるよ。ちゃんと自炊してる。でもお墓にはこうやってなかなか来れなくてごめんね。残業地獄だけど、仕事頑張ってます。結婚できそうにない。孫の顔見せてあげたかったけど、ちょっと難しいかも。

お墓に向かって話すことが多すぎる。まだあと7時間くらい話し続けられる。親もうんざりだろう。そろそろ帰ろうかと立ち上がり、手桶と柄杓を持つ。振り向くと、少し離れたところに見知った人物が立っていた。彼も私をまっすぐに見ている。

「おじさんとおばさん、亡くなったのか」

1ヶ月ぶりに見る顔だ。

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